FatWireは日本法人で企画し、エントリーモデルの製品を555万円で販売しているため、知名度・認知度向上を目的にIT系の雑誌2誌の裏表紙に毎回広告展開を行っていた。2008年の5月末号から従来の広告デザインをペルソナ2(紙媒体・携帯・デジタルサイネージなどへワンソースマルチユースしたユーザー)に変更し、その後3カ月は他のリード・ジェネレーションを行わず、雑誌広告のみで6、7、8月のリード件数を把握した。
図2は、実際にペルソナ以前の広告とペルソナ2からデザインされた広告であるが、Beforeペルソナの広告は555万円のエントリーモデルの告知とコンペチターの機能を意識しすぎたものになっている。Afterペルソナはペルソナ2のモデルである「田辺飛鳥さん」の写真とともに紙媒体・携帯電話などのワンソースマルチユースでコスト削減したユーザーをペルソナ化しデザインしたものである。
マス広告の効果測定は非常に難しいのだが、逆に大量に多くの人に情報を提供すると需要が起きるというセイの法則的(※)な側面がある。しかし、2008年6、7、8月の3カ月のペルソナでデザインした広告効果は、問い合わせ件数が5分の1に激減したのである。
IT系の雑誌の販売数は数万部のレベルで、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのマス4媒体と比較すべき母数ではないが、少なくともケースAの手段でFatWireの選んだペルソナはIT系の雑誌2誌には合致していなかった。
他の雑誌に出稿することも考えられたが、CMSを検討するユーザーの中にFatWireの名前もある程度浸透(認知)されてきたので、契約期間の完了を待ち延長をしなかった。これにより2009年度のマーケティング費用から雑誌広告の費目がゼロとなり、結果的に5つのペルソナ開発費の投資回収ができた。
2008年9月からTechTargetという製品のホワイトペーパーのダウンロードサービスを行っているウェブ媒体に広報CMSであるペルソナ1(複雑なコーポレートウェブを必要とするユーザー)からコンテンツを新たに作り込んでもらい資料のダウンロードからのリード・ジェネレーションを行った。
図1のイノベーションジレンマにあるように、広報CMSは2004年にはじまり、2008年にS字カーブのピークを向かえている。2009年からは、景気後退圧力からマーケティングCMSが出現し、従来の広報CMSのユーザーは広報CMSの機能(静的配信)も持ち、マーケティングCMSの機能(動的配信)も持つ、拡張性の高いCMSに乗換えを検討すると予測できる。そこで、ペルソナ1(複雑なコーポレートウェブを必要とするユーザー)で、他社CMSを利用しているが、乗り換えを検討しているユーザーをリードとして獲得しようと、ケースBのキャンペーンを行った。
2008年9月1日にはじまったこのキャンペーンでは、開始から2週間後に獲得したリードが500件を超えるという脅威的な結果をもたらした。FatWireの場合、TechTargetで従来資料をダウンロードする人は月間平均100件であったため、コンテンツをペルソナ1でリニューアルしただけで、通常の5倍の数字を獲得できたのである。
ウェブサイトのコンテンツを探しやすく、分かりやすくするインフォメーションアーキテクチャ(IA)も重要、サイトのコンバージョン率も重要、しかしもっと重要なことはコンテンツそのものであるということに、今更ながら気が付いた。これは、レストランであれば、内装やテーブルの回転率も大切だが、やはり味が一番大切だということと同じことではないだろうか。
次回はリード・ジェネレーションの手段として、CMSによるペルソナドアページのケースC、Dを解説する。
1959年岐阜県生まれ。1983年、米国ソフトウェアをベースにしたVAR(Value-added reseller)を設立。1990年代、イスラエル製ソフトウェアの日本市場へのマーケットエントリー、および日本からのイスラエルハイテクベンチャー企業への投資事業に尽力。2002年からコンテンツマネジメントの分野へシフト。divine日本法人を経て、2003年、CMSベンダーFatWire Software(Mineola, NY)の日本法人FatWire株式会社の代表取締役に就任。「B to B ECが会社を変える」(技術評論社)など18冊の著書あり。システム工学を専門とする。
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