第2回:マーケティングの「目的・手段」と「ペルソナ」 - (page 2)

田中猪夫(FatWire)2009年05月22日 09時00分

 最初に全体マップ(PDF)のようなリード・ジェネレーションの手段を見ると手段が大切になり、プロとしてその手段を駆使しようとする傾向になる。よりよき案が出やすい方法で発注するのが発注者の能力なのだが、今回は手段を重要視するように導いてしまっており、FatWireの発注者としてのミスリードと言わざるを得ない。

 そこでリード・ジェネレーションの手段ではなく「まずは顧客ありき」の考え方はないかと情報収集を行う中で「ペルソナ」というキーワードに出会った。私の専門がシステム工学なのだが、このシステム工学に少数モデル法(※注1)という新商品を開発するときに利用する手法がある。

※注1:少数モデル法とは、新商品の開発を行う際に、開発したいものを、3人の住所、名前など特定できる人に説明し、「それなら買う」と言ったならば開発を進めても失敗する可能性が低くなり、開発リスクが低減できるという手法。

 少数モデル法とペルソナ(※注2)は共通点があり親近感を抱いた。ペルソナは、顧客モデルを紙にまとめて定義するが、顧客モデルを策定する際に少数のデプスインタビュー(※注3)を行う。

※注2:ペルソナとは、企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルのこと(ペルソナデザインコンソーシアムより)。

※注3:デプスインタビューとは、対象者と1対1の面談形式で、自由なインタビューを行い、深層心理を引き出すインタビューのこと。

 ペルソナと全体マップのリードジェネレーションの手段を組み合わせると、「目的と手段」が目的に合致した手段をきれいに整理し、計画できるのはないかと直感したのである。

ペルソナは最初に「顧客モデル」を作り、次にリード・ジェネレーションが目的の場合はその手段を選ぶ。 景気上昇期は顧客モデルを作る前にリード・ジェネレーションの手段を選ぶため、手段と目的が逆になりやすい。

 景気上昇期は何をやってもうまく行くため事業は発散、膨張しやすいが、景気後退期には事業の選択と集中を行う企業が多い。 スティーブ・ジョブス氏が経営不振に陥ったアップル社CEO再就任2日後の記者会見で、

「アップルはあらゆる人にあらゆるものを提供しようとして失敗し、結果としてこれまで築いてきたブランド資産を失ってしまった。これからはターゲットをコア顧客に絞り込み、彼らの本当のニーズにこたえることに集中する。」

と語っているが、その後の成功は周知の事実である。

 あらゆる企業が景気後退期の危機に直面した今、組織単位の事業の選択と集中は重要になるが、スティーブ・ジョブズ氏のいう 「ターゲットをコア顧客に絞り込み」 ということは、顧客の選択と集中を行うことで、事業の選択と集中を行うこととニュアンスが違う。

 ペルソナは顧客モデルを選択するために抵抗感を伴うが、景気後退期に生き残り、底をうち景気上昇期に他社より発展するためには有効な手段ではないだろうか。

景気後退期に企業はコスト削減の側面から事業の選択と集中を行うが、ペルソナは顧客の選択と集中を行うことにつながりやすい。

 次回はFatWire日本法人が取り組んだ5つのペルソナの開発プロセスをまとめる。

FatWire株式会社代表取締役田中猪夫

1959年岐阜県生まれ。1983年、米国ソフトウェアをベースにしたVAR(Value-added reseller)を設立。1990年代、イスラエル製ソフトウェアの日本市場へのマーケットエントリー、および日本からのイスラエルハイテクベンチャー企業への投資事業に尽力。2002年からコンテンツマネジメントの分野へシフト。divine日本法人を経て、2003年、CMSベンダーFatWire Software(Mineola, NY)の日本法人FatWire株式会社の代表取締役に就任。「B to B ECが会社を変える」(技術評論社)など18冊の著書あり。システム工学を専門とする。

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