Joi Labsの伊藤穰一氏と慶應義塾大学総合政策学部教授の國領二郎氏が、「Business Success in Open Networks」(オープンネットワークにおけるビジネスの成功)をテーマに、業界の“革命児”に成功の極意を聞く連載。今回はマネックス証券代表取締役社長CEOの松本大氏に話を聞いた。
松本氏は「最大の旧体制は自分の中にある」と断言する。例えば、松本氏が10年先までのロードマップを社員と一緒に作り上げてから、同社の経営陣に見せたところ、「これはちょっと無理がある。社員にきつすぎる」といった反応が返ってきたという。それに対して現場の社員が「面白い、できるからやろう」と言ったことで、経営陣も同意したとのこと。
松本氏は「もともとは上のほうにいる人も、ブレーキ屋だったわけではない。ただ、組織を管理している間に、だんだんブレーキをかける立場になっていた」と話し、組織をまとめようとするあまりにチャレンジできなくなる危険性を指摘した。
松本氏自身もその危険性を自覚し、「常に外部や新しいものに触れていないとだめだということを、(自分に)言い聞かせるようにしている」という。
また、組織文化の点では、日本企業と比べ、米国企業では若い人にどんどん仕事を任せ、新しいものを作っていく風潮があるとも指摘する。松本氏がゴールドマン・サックス証券で勤務していた際には、上司が下の人間に「お前、やれよ」と言ってさまざまな会議を経験させていたという。これに対し、日本の企業では国際会議などに参加することは一種の名誉と考えられており、若い人が参加する機会が少ない。「次の代にどんどん新しいものを作らせて、それによって自分たちも恩恵を受けるのと、全部刈り取ろうとするという違いが(米国と日本に)ある」(松本氏)
こういった文化をなくしていくためにはどうしたらいいのか。松本氏は「夢の組織」と前置きした上で、一度高い地位についた人も、ある程度年をとると地位が下がることもある、という仕組みを取り入れたらどうかと話す。
「これだけ高齢化している国で、年を取ると偉くしかなれず、偉くなれなくなったらそこで止まっているか辞めるしかないというのは、もったいないというか、限界がある。それだけ働いてきた人にはいろんな経験や知恵がある。家族の中で、『もうお前の代だから』と息子に任せておやじは違うことをする、というようなことができれば、ローリスク、ローコストで、リターンの高い人材活用が可能になる」(松本氏)
日本には第2次世界大戦後から数十年で世界第2位の経済大国になったという強烈な成功体験があり、これが変革を拒む大きな要因になっていると松本氏は分析する。ただし、1990年代のバブル崩壊後に育った人たちはそういった成功体験の意識がなく、むしろ「失われた10年」と呼ばれた不況が身に染みている。このため、こういった人材が企業の中核を担うころには、「オープン・ネットワークじゃないと勝てないなら普通に(その仕組みを)取り入れるだろうし、成功体験には全然縛られないだろう。そういう時代がもうすぐ来る」とし、これからの日本社会の変化に期待を寄せていた。
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