行動ターゲティングについては、リスティングの次に来るネット広告の新潮流としてメディアに取り上げられることも多くなった。しかし、まだこの技術の本質を理解している人は少ないかもしれない。
行動ターゲティング技術は、ブラウザベースで「広告を送る相手を特定する」プッシュ型のターゲティングメールのようなものなので、広告主企業の想定しているブランドのターゲットとこの広告投下対象者がリンクしなければならない。この時、広告投下対象の特定作業は媒体社側のもつ情報だけ行うものではない。
例えば、「オーディエンス・リード・バック」と呼ばれる広告主サイトへの訪問履歴のあるブラウザへの広告投下は、広告のバイイングサイドがメディア側に頼らずに対象者を特定する典型的な例だ。行動ターゲティングが「掲載面」ではなく「広告投下ブラウザ」を特定するため、その主体は掲載面の供給側ではなく、ブラウザの特定側にある。この場合行動ターゲティングは、広告のバイイングサイドの技術といっていい。
バイイングサイドのサーバ技術ということでは、欧米ではネット広告配信そのものをバイイングサイドが行う仕組みが主流だ。掲載媒体をクロスオーバーして広告配信を一元化できるため、重なりを除外した到達ユニークブラウザ数が確認できたり、リンク先の広告主サイトへのクリックを伴わない誘導効果(ポストインプレッション)を追跡できる。
筆者は90年代後半から、この技術の先駆者だった米国アドナレッジ社がつくった第三者アドサーバの仕組みを彼らとコンタクトして情報を得てきた。日本では未だに有力サイトがタグの受け入れをしないために、第三者サーバが意味を持たない。サイトを横断的に使う第三者配信サーバは、企業がウェブマーケティングを主導的に実施する上で非常に重要なツールである。これを利用することで、「ポストインプレッション」を捕捉でき、ユーザー別のメッセージ開発などクリエイティブの進化を促進できる。
また、クリエイティブと掲載プレイスメント、ユーザーブラウザ、時間帯など多用な条件から自動的に効果の最適化を図る「オプティマイザー」が発展している。こうしたテクノロジーは第三者配信サーバがネット広告市場で受け入れられていることが前提で成り立っている。
費用対効果をしっかり把握しようというトレンドは、もう止めようのない流れで、ネット広告だけに留まらない。ネット上のログで、テレビや新聞や雑誌の出稿効果も確認しようということになる。
米国ではメディア配分の最適化を目標とする調査もかなり行なわれるようになっている。広告投資はテクノロジーによって、マーケティング目標に対しての費用対効果が最適化されることが当然になる。そのネット広告における重要な仕組みのひとつが、第三者配信テクノロジーなのであり、行動ターゲティングである。
従来、メディア側がテクノロジーを駆使する主体であったが、広告主側が使うテクノロジーが実はたくさんあって、これから世の中にどんどんでてくる。エージェンシーがこれらを使えないと存在感を相当失うことになるだろう。
青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。
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