優柔不断で何をとりあげるのか決められない。仕事柄多くのガジェットに囲まれている。昨年末、別サイトで『忘年会で大ウケした「ガジェット5」』という記事を書いたら、この記事も大ウケとなった。こちらのバトンでは、その記事で紹介したモノ以外を取り上げたいが、一体何にしよう。
デジタルカメラなら、Eye-fi Cardを入れて愛用しているLumixのDMC-LX1か。
パリで盗まれ、量販店のポイントで買い直した、曰く付きカメラ。ワイド撮影を標準にする心意気が気に入った。
渋いところではバッファローのフラッシュメモリリーダーのMCR-C28/U2もいい。本当に吟味して買った製品だ。対応メディアが多く、miniSDやmicroSD、ノキア携帯で使うRS-MMCなんていうマイナーなメモリも直挿しできる。台座部分がUSBケーブルの巻き取り機構というデザインも好きだ。
ノキアの携帯電話(ボーダフォン時代のV702NKII)もいい。Bluetoothを使ってパソコンを遠隔操作するのSalling Clickerというソフトとの組み合わせは最強で、世界スタンダードの携帯電話を使うとソフトにも恵まれるということを実感できる。
しかし、本当に身近に感じ、頻繁に使っているかというと、どれもひとつ物足りない。
そう思って、当たりをもう1度、見直したら、ジーンズのポケットから2年間愛用してきたカシオの携帯電話、W41CAが出てきた。
世界各地で数々の携帯電話を使い、今でも3キャリア+イーモバイルの端末を持ち歩く筆者だが、このW41CAほど溺愛した携帯電話はない。今回のお題はこれに決めた。
W41CAは、大ヒットした機種なので、読者の中でも買った人が多いかもしれない。私の周りにも持っている人が大勢いた。2年前は、ケータイに詳しい人も、そうでない人も、よく吟味すれば、この端末にたどり着いた。
なので、このケータイには、ちょっとした試金石的側面もある。持っていない人がどうこう、ということはないが、持っている人は確実に自分に趣向が近い人だ。そういえば、実は今でもシックスアパート・ジャパン代表取締役の関社長が、愛用しているのを確認している。
この製品で、まず気に入ったのはそのデザインだ。サブディスプレイが当たり前の時代に、サブディスプレイをなくし、その分、凹凸のない緩やかなカーブを描いた面を広く取った。これが持ち心地が良い。
底面はバッテリー蓋などの少々のツギハギがあるが、カメラ部分の左右をシルバーの部品で際立たせてあり、このカメラ部がまるでフリーメイソンのシンボルの「All Seeing eye」のようでおもしろい。
思えばこのカメラでさまざまな旅行先、取材先の風景を撮り、GPS情報を付加して、Flickrに投稿してきた。
本体デザインの話しに戻そう。W41CAの本体は直方体側ではなく、端の方に向かって緩やかな弧を描いているのだが、この曲線がまたセクシーなのだ。
次に本体を開いて感動した。開閉機構は半開き状態と全開き状態で、手にカシっとした感触を伝えるが、コストカットのためか、カシャっといったメカニカルな響きで楽しませてはくれない。その代わり、開閉時の効果音が用意されていて、これが楽しくて気に入ってしまったのだ。手の感触と効果音が気持ちよくて、たまに意味もなく、同端末をを開閉していることがある。
さらに文字盤が私を驚かせた。押しボタンの下3分の1が起伏し、しっかりとストロークもある押しボタンが、なんとも押し心地が良かった。中央の山型の起伏を側面から見ると、まるで波のようで、この形もなんとも楽しい。
さらに店頭で比べて驚いたのが、3色のカラーバリエーションの雰囲気にあわせて、文字盤のフォントまで、しっかり吟味して変えているのだ。
私はオレンジか黒かでさんざん悩み、少なくとも3回は店に足を運び、黒を選んだ。押すとほのかにオレンジ色に点灯するバックライトのあかりが何とも妖艶なのだ。
そして何と言ってもキラーアプリケーションだったのが、開く度に違う物語りが楽しめるペンギンのアニメーション。液晶画面に描かれるシルエットだけのペンギンは媚びたかわいさではなく、どこか大人のテイストと独特の世界観を描きだしている。このアニメーションをインハウスのデザイナー(城聡子)さんが手掛けていると知ってビックリした(ペンギンは大人気で本も出て、展覧会も開かれた)。
もちろん、W41CAが好きな理由はデザインだけではない。ちょうどFMラジオに出演していた時期に、同機にFMチューナーがついていたので、これを使ってラジオ局の道すがらラジオを聴く楽しみを実感した(こっちの方が、軽いし、楽しいしでiPodを持ち歩かなくなった──その後、手に入れたiPhoneは常時持ち歩いている)。
EZ Naviwalkのサービスもすばらしいし、おサイフケータイ機能も今ではなくては生きていけないくらい使っている。たまにサイフを忘れても取りに帰らずおサイフ機能だけに頼ってなんとかしのいでいる(だが、携帯を忘れたときは、何があっても取りに戻る)。
今、改めて振り返り、このケータイは、それ以外にも大事なことを教えてくれた気がする。この2年の間に、何度かカシオからも後継機が出た。ワンセグも付き、何も付きで確かに便利そうではあるし、人気のペンギンも継承されたが、それだけではなかなか食指が動かなかった。
ただ、今はちょっとINFOBAR2と先日登場したW61CAに惹かれてもいる。デコボコのステップキーも復活しているし、このサブディスプレイ全盛時代に、原点に戻るようにしてそれを捨てた点もよく考えるとW41CA的かもしれない。
機能が多いことがいいのではなければ、新しいものがいいわけではない。W41CAは、しばらく最新端末を使った後、再び手に持って「やっぱり、これはよかったな」と振り返れる端末である気がしてならない。
環境問題の重要性が説かれつつも、大量生産と大量消費がつづくのが今の世の中の現実。メーカーには、年に2回の新製品発表会など、業界のしきたりに追われず、長く愛せる製品をじっくり時間をかけてつくっていただきたいと思う。もちろん、それでどうやって収益をあげるかという問題はある。それだけに魅力的な製品をつくったメーカーがキャリアから上納金を巻き上げるというiPhoneのやり方はメイクセンスする、とも思える。
いずれ、親の形見の携帯を子が譲り受ける、そんな時代はくるんだろうか。
フリーのITジャーナリスト兼コンサルタント。'90年代から本格的な取材と執筆活動を開始。アップル社やGoogle社の企業動向の分析をはじめ、ブロードバンド化やブログ、SNSといった新トレンドにも早くから目をつけ記事を手がけてきた。最近ではグローバル化への対応を迫られる日本企業に、アップル、グーグルやシリコンバレーの起業家の考え方やノウハウを伝えることをミッションの1つとしている。近著は『iPhoneショック』と(日経BP)『スティーブ・ジョブズ』(アスキー)。
【使用製品】au W41CA
【購入時期】購入時期 2004年
【お気に入り度合い】底面のゴムが取れ、液晶フレームの左側が割れ、バッテリーの持ちも悪くなったが、この機種の使用を止めてまで使おうというau携帯がなかなか出てこない。もっとも、今、少しINFOBAR 2に惹かれている。
【次回執筆者】塩澤一洋さん
【次回の執筆者にひとこと】塩澤一洋さんは、成蹊大学法学部准教授兼政策研究大学院大学客員教授で、昨年まではスタンフォード大学、CNetでもお馴染みレッシグ・ブログのラリー・レッシグの研究室にいました。GR DIGITALに一家言も二家言もあるshioさんが、たまにはGR Digital以外についても書きたいといっているので、何を書くのか気がかりです。
【バトンRoundUp】START: 第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) → 第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) → 第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) → 第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) → 第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) → 第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) → 第8回:荻窪 圭氏(自転車とGPSがあればどこにでもいけます) → 第9回:田中裕子(Yuko Tanaka)氏(これでクラシックもOK!究極のカナル型イヤフォン) → 第10回:佐橋慶信氏(ビジュアル・ブックマークの実践方法とは?) → 第11回:清水隆夫氏(プロ御用達の業務用GPSデジタルカメラ) → 第12回:高橋隆雄氏(傭兵たるものガジェットなど持たぬ!) → 第13回:野本響子氏(「壊れても買い続けたい」理想のロボット) → 第14回:本田雅一氏(本田雅一氏の求める条件にピッタリはまる「あのデジカメ」) → 第15回:塩田紳二氏(紙に書いて「デジタルデータ」になるアイテム) → 第16回:山田祥平氏(山田祥平氏が愛用する移動時間の必須アイテム) → 第17回:元麻布春男氏(元麻布春男氏が「感心した」ガジェット) → 第18回:鈴木淳也氏(ノートPCモバイラーに必須のアイテム) → 第19回:小山安博氏(ライフスタイルを快適にするアイテム) → 第20回:海上忍氏(最強の“心理的防音ルーム”を実現するアイテム) → 第21回:大谷和利氏(古くなっても旧くならないデジタルカメラ) → 第22回:山路達也氏(ラジオを新たなメディアに進化させる「radio SHARK 2」) → 第23回:川野 剛 氏(あと10年は使いたい頑丈なデジカメ) → 第24回:野田幾子氏(面倒を楽しませてくれるウチの亭主) → 第25回:井上真花氏(デジタルだけどアナログのよさを持つ10年選手) → 第26回:安田理央氏(録音するならコレがいい!) → 第27回:とみさわ昭仁氏(コレが「僕の人喰い映画館」) → 第28回:米光一成氏(一度味わうとやめられない便利さ) → 第29回:小野憲史氏(小型で軽量、薄暗いところもシッカリと!) → 第30回:Jo Kubota氏(いつでもどこでも自作・分解するツール) → 第31回:唯野司氏(こよなく「DSテレビ」を愛す) → 第32回:平山美江氏(ハイビジョンレコーダーで動画を120%味わい尽くす) → 第33回:龍川優氏(メタボが怖けりゃ付けてひた歩け!)
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