「見て欲しい」の本質忘れるな--吉本が語るネット時代の権利者像

高瀬徹朗、島田昇(編集部)2008年02月06日 08時00分
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 日本最古にして最大級の芸能事務所、吉本興業。ジャニーズ事務所と並び、「地上波放送で所属タレントを見かけない日はない」とまで言われるコンテンツの源泉であり、また、近年ではCS系放送局「ヨシモトファンダンゴTV」を運営、自らコンテンツ制作から発信まで携わるなど、コンテンツホルダーとしての範囲を広めている。

 放送サービスの優位性を理解し、効果的なプロモーションとして活用する一方、ネット配信にも積極的な姿勢を見せる。2007年8月にはYouTube日本語版の国内パートナーとして名乗りをあげ、同年11月末からはニコニコ動画内に「よしよし動画」を立ち上げた。

 地上波放送局にとっては番組制作に欠かせない有力権利者でありながら、その地上放送局が敬遠しているようにも映るコンテンツのネット配信にも意欲を見せる。ただ、コンテンツのネット配信は著作権問題や通信業界および放送業界の構造的問題など、多数の問題点が指摘されている。これについて吉本興業はどのように見ているだろうか――。

 いかなる問題があったとしても、権利者としての「人に見て欲しい」という本質を忘れてはならないと訴えかける同社執行役員権利開発統括本部長兼よしもとファンダンゴ代表取締役社長である中井秀範氏の話をまとめた。

「製造直販」を可能にしたネット

 社名にある「興業」が示すとおり、吉本興業はお客様に御代をいただいて芸を提供する、いわばBtoCのビジネスモデルが創業以来の根本にあります。

 一方、地上波テレビ放送が国民のエンターテインメントとして定着するにあたり、その影響力や収支モデルは劇場運営のそれとは比べ物にならない規模であることに気がつきました。結果、弊社としても積極的に活用するようになり、出演者を放送局にお貸ししてその対価をいただく、というスタイルで長年運営してきたわけです。

 高度なビジネスモデルが構築された地上波テレビにおいても、創業以来の精神を忘れたわけではありません。放送事業者から得られるギャランティは、広告会社、広告主を経ているとはいえ元々はコンシューマーが負担しているものであり、テレビを通じて芸を提供させていただく。これもひとつのBtoCモデルであると考えてきました。

 ところが、通信インフラとテクノロジの発展によって、わざわざ人の手を借りずとも、直接お客様に芸を届けることができるようになってきました。そこで、従来の劇場展開同様のダイレクトマーケティングサービスに乗り出したわけです。

 中間流通を飛ばすことで余計な手数料をお支払いいだだかなくなったこともさることながら、著作権・肖像権を自由自在に操れるようになったことが大きいのです。地上波番組の場合、いくら弊社所属の芸人が出演していたとしても100%自由に権利を持つわけではありません。いわば「製造直販」が可能になったことで、ようやく自分たちのコンテンツを持てつようになりました。

 もっとも、それで地上波テレビから離反する、という話ではありません。テレビはシステムとして完成された高度なビジネスモデルもさることながら、一度に見ていただける視聴者数が決定的に違います。視聴率20%ならば1000万世帯ですから。多くの方に芸を届けるためには、うってつけのメディアです。

 同じ放送サービスでも、CS放送「ヨシモトファンダンゴTV」の場合、「スカパー!」全体でも350万世帯(スカパー!1、直接受信のみ)で、うちファンダンゴ加入者は5万人程度。これでは、折角作ったコンテンツがもったいない。少々古い言葉でいえば「ワンソースマルチユース」ですが、CS放送をご覧になれない方にはインターネット配信で見ていただこう、と考えました。

コンテンツの二次創作能力に注目

 YouTubeに関していえば、「中に入ってこそできることがある」という考えが念頭にあります。弊社所属タレントも関係する違法コンテンツが数多く存在しているわけで、それらを削除してもらうにあたって内側から改善要求した方が効果的と考えたわけです。

 また、権利者と運営者の議論を見ていて思うことですが、原則対原則のぶつかりあいを続けていても事態は動かない。特に権利者側の方は、ネットが進化するスピードに置いていかれかねない。だからといって、一権利者として放置していくわけにもいかず、正式にパートナーとなることを選びました。

 ニコニコ動画については、音楽でいうリミックス的な、コンテンツの有効な二次創作能力に注目しています。こちらから権利フリーの映像を提供し、それを使ってよりおもしろい作品ができあがれば幸いと。権利侵害映像を利用した二次創作物は評価として日の目を見ないので、あえて権利フリーの映像を提供し、新たな才能の発掘に期待しています。

 こうした取り組みができるのは、優れたコンテンツを作るための芸人を多く抱えていることもさることながら、やはり権利関係を自由にできる出口を自ら持ったことが大きい。地上波番組は権利が錯綜していて、いくら弊社がGoサインを出してもネット提供はできません。「ファンダンゴ」そのものの成果はともかく、大枠で捉えた効果は計り知れないものがありますね。

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