「体験」を贈るというギフトをご存知だろうか。カタログギフトではあるが、商品は「モノ」ではなく「エクスペリエンス(体験)」。
エクスペリエンスギフトのカタログには、ヨガやエステ、乗馬などのさまざまな「体験」が記載されている。カタログをプレゼントされた人は、その中から興味のあるものを選び、それらを体験することができる。従来の贈り物とは異なり、体験を届けるという新しい形のギフトである。
ギフト業界の市場規模17兆円を支えていたのは、日本人の伝統的習慣としての「お返し」の文化であった。しかし、近年では少子化現象や欧米習慣の浸透による日本社会の構造的変化により、この「お返し」の文化が失われつつある。
こうした市場背景の中で、贈る側・贈られる側でのニーズが徐々に変化。エクスペリエンスギフトのように、ストーリー性やメッセージ性を持つ商品に価値を求める傾向が強くなってきているとの指摘もある。
このエクスペリエンスギフト市場にいち早く目を付けたのが、「ソウ・エクスペリエンス」を運営するソウエクスペリエンス代表取締役の西村琢氏である。
西村氏は大学卒業後、松下電器産業を経て、2005年5月ソウエクスペリエンスを設立。代表取締役に就任した。在学中に投資クラブ「SYNC」の立ち上げや、松下電器が主催するビジネスコンテストで優勝するなどの経験を持つ。もともと、なんらかの事業を起こすつもりだったと言う。
「とにかく何かの事業をやりたくて、大学卒業後1〜2年ほど探していました。そこでたまたまヴァージングループがやっている「体験を贈る」というエクスペリエンスギフトがイギリスで大きな産業になっていたんです。日本にはまだないこの事業なら、日本に新風を巻き起こすことができると確信しました」
確かに、エクスペリエンスギフトはギフト市場に新風を巻き起こす可能性を示し始めている。
「現在、会員数は約4000人。当初の提携先は10社程度だったものの、現在は40〜50社にまで増えました。イギリスのエクスペリエンスギフト市場はすでに500億〜1000億円ほどの規模があり、一般的に定着していると言われています。日本はイギリスよりもGDPが2倍くらいあるため、「贈る」という習慣が2分の1程度あるとしても、まだ市場ののびしろは500億円くらいあることになります。これから成長していく可能性は十分に期待できるわけです」と西村氏は語る。
しかし、成長性もある一方で課題も残る。 まず、エクスペリエンスギフトは国内で注目され始めたばかりの市場で、安定的な市場を形成できるという保証はないこと。その一方で、類似サービスの会社が乱立しているという点も気になる。こうした課題について、同社はどう対処していくのだろうか。
「今現在では、類似サービスをしている他社との違いはさほどありません。しかし、他社はエクスペリエンスギフトのそれ以上でもそれ以下でもないのではないでしょうか。おそらく、今後は全国的に利用できるようにするなど、横展開をしていくのでしょう。
一方、僕達は『エクスペリエンス』というキーワードにこだわっていますので、今後は縦展開をしていく方針です。詳細はお話できませんが、当社はギフト事業がしたいからエクスペリエンスギフトにこだわっているのではなくて、『エクスペリエンス』というキーワードを届ける専門事業社になりたいということだけは言えます」
西村氏はギフト事業というところに執着することなく、この事業を切り口として、さまざまな業界に事業を拡大して行きたいと言う。例えば、体験という切り口で教育の事業領域に進出するなど、今後はこのギフト事業を軸にどう事業展開していくのかを模索していくようだ。
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