「まったくウチの宿六ときたら偏屈だし、手間がかかってしょうがないんだから!」。愚痴をブツクサ近所中に触れ回りながらも、家ではかいがいしく亭主の世話に精を出す女房(家庭内では大抵『カカァ』と呼ばれる)の行動が、子どもの頃より謎だった。「結局のところ、好きなの? 嫌いなの!? ハッキリして!!」
大人になると「相手が好きで好きで仕方がないからこそ世話を焼くのだ」ということを頭では理解したが、基本的にお子様思考な私は「愚痴を触れ回るくらいなら亭主の世話を辞めれば」と思いこそすれ、どうにも共感できずにいた。
しかし、近ごろめでたく、その「カカァ」の気持ちを心の底から理解できるようになったのだった!この場合の「亭主」は「Palm」と「Palm Desktop」のことだ。
私は何にしても物持ちがいい方で、一度気に入ったものはそれこそボロボロになるまで使い倒す。そのひとつがPalmだ。Palm OS搭載マシンとの付き合いは日本IBMの「WorkPad」より始まり、約8年になる。長年愛用していた「Palm 515」の電池がまるでダメになってしまったため、このたび「Palm TX」の購入に踏み切った。
「新しいPalm買ったんだ~」と喜び勇んで周りに吹聴したところ、4名から判で押したように次のような反応があった。「Palmってまだあるの?」「これまた時代遅れなものを……」。まったく、新しいもの好きはこれだから困るわぁなとど余裕で聞き流していたのだが、すぐにそれらの言葉を悔しながらに噛みしめてしまうことになる。
購入したPalm TXはJ-OSがインストール済みのもの。「すぐに使えて嬉しい~」とばかりに、常々使っているMac版 Palm Desktopと買ったばかりのPalm TXをシンクロさせたところ、再起動が延々とループする状態に突入した。ハードリセットしてもラチがあかない。Palmの日本法人はとっくの昔に撤退しており、電話サポートが存在しない。一時期あれほどにぎわっていたPalm関連情報ウェブサイトはほとんどが閉鎖。ダメモトでショップに聞いたところ、再起動無限ループに入ってしまったら整備品と交換するしかないのではという。
仕方がないのでPalmに修理依頼のメールを送り、何度かやり取りしつつ整備品を送ってもらった。問い合わせてから手元に届くまで、約10日。愛用していた日本語版パームウェアのほとんどが更新を停止しているため、(一応)最新機種かつOSも最新バージョンのPalm TXにインストールするのはまた再起動地獄に陥るのが怖くて躊躇してしまう。
さて、Palm TXは現在Palmシリーズのハイエンドマシンだけあって、メモリも128Mバイトと格段に増えたし、メディアプレーヤーや音楽プレーヤー、ドキュメントリーダーなども標準装備されている。
「おぉ、時代は変わったなぁ」と思いつつ、さっそく付属のデータ転送ソフト「Send To Handheld」を使って音楽データやムービー、PDFファイル、テキストファイルなどをSDカードへコピーした。だが、約200Mバイト足らずのデータ転送が30分以上かかり、しかも進行状況が見えないので不安になる。あまりに長いのでさっさ寝入ったところ、なぜか一部エラーになっていた。
Palm同様、Palm Desktopも日本語版が存在しないので、Palmアプリケーションのパッケージを逐一改変することで日本語表示/書き込みを可能にはした。しかし、アドレスの読みは日本語に対応しておらず姓名の並びも逆のため、Palmでまともに姓名順に表示させたければ入力方法に工夫が必要になる。
──とまぁ、亭主を罵る女房よろしく現行Palmで感じる不都合な点をピックアップしてきたが、それでも私はPalmが可愛くて可愛くて仕方がない。できうる限り、長きにわたり一緒にいてほしい。その理由はズバリ、「操作が直感的・感覚的であること」、これに尽きる。
だいたいにして私がPalmに求めている役割は、スケジュール管理をメインとしたPIM機能だ。たとえば予定表(Calendar)。書き込みたい時間帯をタップするだけでインライン入力できる。Palm Desktopしかり。予定やTo Doを入れたい日時をクリックすれば、「イベント」「(時間帯の決まっている)予定」「To Do」入力画面になる。これが最高に気に入っている。私は自分のすべきことを思いついたら即、何でも書きとめておきたいタチで、どうしてもTo Doリストが膨大になる。他のPIMは予定とTo Doが別枠であることが多いため、その点がネックになってどうしても乗り換えることができないのだ。
こうして文章にしてしまうと至極単純であり、使ったことのある人には 「なーんだ、そんなの当たり前じゃない」となるし、使ったことのない人にはこの快適さが伝わらないのがもどかしいのだが……。もともとPalmはカスタマイズ性が高いため、「自分のための一台」ができ上がれば手放せなくなるマシンとして知られている。現在においてはさらに、日本語化や情報入手などに手をかけなければならない面倒くささがあるが、逆に手間暇をかけたからこそますます愛しくて手放せなくなる「亭主」であることに、今更ながら気がついた次第。「こんな機能を持ってるから」「○○と互換性があるから」「ソフトウェアが豊富だから」──いやいや、私にとっては、今のままのあなたがそばにいてくださるだけでもう十分なんですよ。
ライター/エディター。Macintosh情報誌の編集を経てフリーランスに。主な活動は、人物取材・インタビュー記事執筆、大手企業のプロダクトデザイン関連ウェブサイト構成・執筆など。ニコン「eニッコールクラブ」内「フォトマガジン」編集長。近作はムック「TOKYO CAFE grown-up 極上のビールを飲もう!」(企画・編集:エンターブレイン刊)。スクーバダイビングライセンスを取得、水中撮影スキル向上を目標に沖縄へ通っております。
【使用製品】Palm TX
【購入時期】2007年7月5日
【お気に入り度合い】「Palmなんて時代遅れ」と知人多数に言われたがさっぱり気にならない。
【次回執筆者】井上真花さん
【次回の執筆者にひとこと】Palmのみならず、PDA業界全体の盛り上げ役として長年活躍なさっている井上さん。数多くのPDAを知りながらもなお、彼女が愛して止まないデバイスとは!? とっても期待が高まります。
【バトンRoundUp】START: 第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) → 第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) → 第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) → 第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) → 第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) → 第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) → 第8回:荻窪 圭氏(自転車とGPSがあればどこにでもいけます) → 第9回:田中裕子(Yuko Tanaka)氏(これでクラシックもOK!究極のカナル型イヤフォン) → 第10回:佐橋慶信氏(ビジュアル・ブックマークの実践方法とは?) → 第11回:清水隆夫氏(プロ御用達の業務用GPSデジタルカメラ) → 第12回:高橋隆雄氏(傭兵たるものガジェットなど持たぬ!) → 第13回:野本響子氏(「壊れても買い続けたい」理想のロボット) → 第14回:本田雅一氏(本田雅一氏の求める条件にピッタリはまる「あのデジカメ」) → 第15回:塩田紳二氏(紙に書いて「デジタルデータ」になるアイテム) → 第16回:山田祥平氏(山田祥平氏が愛用する移動時間の必須アイテム) → 第17回:元麻布春男氏(元麻布春男氏が「感心した」ガジェット) → 第18回:鈴木淳也氏(ノートPCモバイラーに必須のアイテム) → 第19回:小山安博氏(ライフスタイルを快適にするアイテム) → 第20回:海上忍氏(最強の“心理的防音ルーム”を実現するアイテム) → 第21回:大谷和利氏(古くなっても旧くならないデジタルカメラ) → 第22回:山路達也氏(ラジオを新たなメディアに進化させる「radio SHARK 2」) → 第23回:川野 剛 氏(あと10年は使いたい頑丈なデジカメ)
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