欧州で勢いがある携帯電話メーカーというと、一時は韓国勢だったが現在は英Sony Ericssonだろう。Ericsson時代から強いスウェーデンはもちろん、先進ユーザーが多い英国でも同社の人気は高い。シェアでは韓LG電子を追い越して4位に付け、米Motorolaと韓Samsungの2位争いのなりゆき次第では、3位も視野に入ってきた。
そのSony Ericssonの社長、Miles Flint氏が9月4日に突然の辞任を発表、モバイル業界を驚かせている。というのも、現在のSony Ericssonの好業績はFlint氏の功績と評価されているからだ。
Sony Europe出身のFlint氏が社長に就任してまずやったことは、「Walkman」ブランドを冠した音楽携帯電話のローンチだ。ここでSony Ericssonは、ソニーの伝統である消費者家電の理解を基に、継続的な技術改良とブランディングを行った。その結果、一連のWalkman携帯電話はロングランヒットを収める。音楽関連イベントでのタイアップなどマーケティング活動も一貫しており、“携帯電話で音楽”がまだ珍しかった1〜2年前から、Walkman携帯で音楽を聞いている人を見かけるようになった。このようなことから、Walkman携帯の成功は単にWalkmanという名前によるものではなく、中身のある成功だと思う(Flint氏は大の音楽好きというから、個人的な思い入れもすごかったかも)。同社はその後、「Cybershot」ブランドの携帯電話にも乗り出し、デザインと高機能というSony Ericssonらしさを打ち出すことに成功した。ソニー出身のFlint氏であればこそだろう。
その成果は数字にも表れ、Sony Ericssonは2006年第4四半期以降、各社の調査でLGを押さえシェア4位となった。Flint氏も今年2月の「3GSM World Congress 2007」で、「(当初の目標である)トップ3入りが視野に入ってきた」とコメントするなど、今後に向けての意欲を見せていた。
今回の辞任は、このような最中でのこととなる。こちらのアナリストや報道関係者も当惑しているが、プレスリリース通り、辞任は「個人的な理由」のようだ。Sony Ericssonのマーケティング担当者によると、今回の辞任発表はまったくの突然で、「社内でも大きなショックが走った」という。Flint氏は社長就任後、超多忙なスケジュールをこなし、世界中を駆け回った。「(社長辞任は)最初は驚いたけど、少し休みたいと聞いて、みんなの反応は“その気持ち、よく分かる”に変わった」と彼女は言う(これを聞きながら、私まで大きくうなずいてしまった)。
「あと2〜3年で3位に入れるかもしれない、といっても(スピードが速い)この業界の2〜3年はまったく読めない」と彼女。息切れしながらスピードについていくよりも、自分からゴールを決めた、ということのようだ。Flint氏は54歳。あと数年社長を務めると、年齢的にも方向転換が難しくなる。今回の決断には、いろいろなことが含まれているようだ。
Flint社長というと、いつだったか同社のイベントでわれわれプレスと同じ列に並んで、ドリンクをもらっていたことを思い出す。気さくな印象の人だった。社長辞任が決まったあと、プレスの前に姿を見せたFlint氏は、「先のことにはコメントしないが、これまでのことについては、ベストだと思うことをやってきただけ」と言い切った。その目は涙ぐんでいるようにも見えたが、すがすがしいという言葉がぴったりだった。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果