資本政策は経営者の力量映す鏡と知れ

沼田功(ファイブアイズ・ネットワークス社長)2007年08月28日 14時17分

 株式公開準備にあたり、内部管理体制の整備には目がいきやすい。しかし、株式公開に直結するのは資本政策であり、さらに資本政策は経営者のリーダーシップを示すものであるといえる。株式公開のワンポイントを解説するシリーズ6回目は、株式公開のプロの眼から見たベンチャー企業の資本政策について解説する。

落とし穴は見えない部分に

 株式公開準備にあたって、90%程度のベンチャー企業は資本政策に失敗しています。証券会社が関与する時期が遅く相談相手がいないと、株式公開準備の初期段階では外部の知恵の必要性を感じません。「資金が調達できれば成功」と思い込むあまり、失敗に気付かないケースが出てきます。落とし穴は見えない部分にあるのです。一度発行した株式は戻せないため、次の段階で苦労する場合もあるようです。

資本政策でリーダーシップが見えてくる

 公開準備では内部管理体制の整備にパワーを要します。しかし、内部管理体制の整備は、それなりの人材を配置して時間をかけ、覚悟を決め取り組めば必ず一定水準までは到達します。

 一方で株式公開のパフォーマンスに直結するのは資本政策です。経営権のあり方やキャピタル・ゲインの配分に影響し、利害関係者の微妙な調整が必要な項目でもありますので、資本政策には社長のリーダーシップのあり方が見え、経営者の株式公開に取り組む姿勢が反映されます。資本政策が不十分な会社は大抵、内部管理体制の整備も中途半端なものになります。

 私はいつも「200通りの資本政策を検討して決定すれば、まず失敗はない」と申し上げておりますが、最近、労を惜しまない経営者は少なくなっています。したがって、私たち株式公開コンサルタントは、資本政策の全体像を見据えた戦略を立て、落とし穴になりそうな箇所を事前に回避するのが仕事です。

 株式公開にあたっては、実は資本政策を十分にアドバイスできれば目的の60%は達成できます。コンサルタントが活躍する公開準備は、実は失敗している公開準備なのです。

経営者は投資判断の材料になる

 「株式投資は開示(ディスクロージャー)担保」といわれます。「カネボウ、ライブドア騒動」を通じて「会計不信」という言葉も流行しました。開示も会計も駆使するのは経営者ですから、特に規模が小さく換金手段の乏しい未公開会社投資の場合、「経営者担保」というのが適切でしょう。

 ベンチャー企業の将来性の判断はプロでも難しく、業績の浮き沈みも激しい中で投資後の回収手段はIPOかM&Aのみです。合理的に考えれば「経営者の資質・人間性」が投資判断の50%以上を占め、恐らく紹介者の信頼性も無視できない要素のはずです。金融の最前線は人間臭いのです。

 したがって、ビジネスモデルが優れていても経営者が約束を守れなければ、投資家は興味を持ちません。投資家はリスクを承知した上で決断を下すので、マイナス情報を開示しない「大本営発表型経営者」では判断が出来ないのです。業績の浮き沈みはベンチャー企業の宿命ですが、秘密体質の強い経営者は思わぬリスクを抱え込むものです。

 投資先が上場会社であっても、投資家と経営者との信頼関係が必要なことは変わりません。これを投資家に代わって担うのが監査法人、証券会社、取引所なのでしょうが、投資するからには直接お会いしてみないと本当の意味での判断は難しいものです。

記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)

ファイブアイズ・ネットワークス沼田功(ぬまた・いさお)

1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。

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