離職率と経営の相関関係

沼田功(ファイブアイズ・ネットワークス社長)2007年08月09日 21時53分
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 企業成長に伴う従業員数の拡大や人材教育、そして離職は経営に常に関わる問題だ。株式公開のワンポイントを解説するシリーズ5回目は、株式公開のプロの眼から見た離職率の適正値と社員教育のコツについて解説する。

平均勤続年数は成長性と一致

 先日ある東証一部上場企業で「平均勤続年数は新規公開時に2年前後だったが、10年間の努力でようやく4年を越えた」という話を伺いました。株式公開時に、平均勤続年数の低さと離職率の高さが審査で問題となり、「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」会社が多い中で、上場後も改善努力を続けてこられたようです。グループ会社各社を見ても「平均勤続年数の長さは社内コミュニケーションの質と比例し、中長期的な成長性ともほぼ一致する」そうです。公開審査で取り上げる指標は、経験則に裏打ちされた意味があるのです。

 企業成長に伴う従業員数の拡大過程では平均勤続年数は低めに算出されますので、新興市場では1〜3年が普通、成熟企業が多くなるジャスダックでは5〜7年ぐらいが多いようです。2〜3年で人が入れ替われば平均年収も向上しないので、ビジネスモデルによっては投資家からかえって高い評価を受けます。ただビジネスモデル自体が陳腐化した場合の抵抗力は乏しいかもしれません。

 高い離職率は経営に問題があることを示していますが、離職率が低すぎても組織の新陳代謝が不足しマンネリが起こります。業種・業態にもよるのでしょうが、年間20%近辺が、「社内コミュニケーションの深化」と「組織若返り」のバランスが取れる最適値と思います。

起業は「責任・苦労型人間」への強制脱皮

 定着率が高いとはいえない証券会社から見ても、ベンチャー企業の離職率は高く、かつてはあぜんとする思いで見ておりましたが、会社を経営してみると、離職率を下げる難しさが骨身に染みます。お金を稼ぐ仕組みはよく見えるのですが、人を定着させる仕組みは見え難く、経営者が問題意識すら持っていないケースも見受けられます。

 世の中は「人の上で責任を取り苦労する人」が20%、「人の下で不平・不満を言う人」が80%で構成されるといいます。起業は「責任・苦労型人間」への強制脱皮とすれば、社員教育は責任・苦労型人間への成長を促す作業です。責任とは権限の裏返しでもありますので、責任・苦労型人間育成には権限委譲が有効です。

 とはいえ人材・能力を見極めない権限委譲は業務の破綻を招きます。段階的に権限を委譲する仕組み作りと運用が効果的です。この辺りが職務権限規定・業務分掌規定類に織り込まれるレベルになると、平均勤続年数は10年前後までは着実に伸び続けるようです。

経営者は顧客よりも社員を見るのがコツ

 話は変わりますが、顧客第一主義を貫くにも、経営者は顧客を見ず社員を見るのがコツです。顧客の気持ちがつかめればどんなビジネスも成功するし、どんな人生も開けることを、経営者のみならず社員も知る事が重要です。

 他人の役に立つことが人生の喜びの源泉だからこそ顧客第一主義に徹するのだ、と思うことができれば社員教育は大成功です。上司が「お客さま」の一人であることにも気付きます。すると人生に実現可能な夢が生まれます。夢が生まれると苦労がなくなります。自分で勉強をするようになります。これが社員教育の原理と思います。

 ベンチャー企業は、金の苦労以上に人の苦労が頻発します。会社組織そのものに求心力がないので、組織づくりの失敗は大企業では許されても、ベンチャー企業では致命傷になりやすいのです。

 また、ベンチャー企業の経営経験は豊富でも社長経験が乏しければ、必ず一度は「人」で失敗します。致命傷になる場合もあれば、経営を磨く「肥やし」になる場合もあります。株式公開のプロは、そのような視点からも会社を見ているのです。

記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)

ファイブアイズ・ネットワークス沼田功(ぬまた・いさお)

1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。

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