東京一極集中となっている株式公開。地方企業が株式公開を敬遠するのは、資金調達の不便さや地域経済としての秩序などいくつかの理由が考えられる。株式公開のワンポイントを解説するシリーズ3回目は、東京と地方の違いを分析し、株式公開を目指す地方企業にエールを送る。
2006年第3四半期まで(1月〜9月)の新規上場会社数は127社、そのうち67社(52.8%)の所在地は東京です。既存市場(東京所在28.6%)やジャスダック市場(東京所在47.6%)では、東京以外の会社も健闘をしています。
ところが規制緩和の恩恵を受ける新興市場では、東証マザーズ73.9%、大証ヘラクレス63.3%と東京所在の企業が圧倒的です。地域経済の活性化への寄与をうたう地方取引所でも、名証セントレックス40%、札証アンビシャス75%、上場規則に「地域制限」を残す福岡Qボードは0%です。
株式公開市場での東京の存在感は、以前から圧倒的でした。株式公開は東京一極集中を助長する面があるのでしょう。東京は世界最大級の巨大消費市場である上に、主幹事証券会社、監査法人も精鋭部隊を配置し、投資資金も集中しています。
地方には公的機関からの充実した支援はありますが、それでも株式公開を考えると東京に移転する会社が後を絶ちません。そして「もう少し早く東京に出るべきだった」との声も多く聞かれます。
こうした地方が株式公開を敬遠するムードは、経営者個人の思考にも影響を与えます。株式公開準備は長く孤独な戦いなので、周囲の無理解が大きな足枷(かせ)となります。結果的に地方財界の秩序は守られますが、東京との格差は開くばかりでしょう。
東京の経営者も、外部からの資本導入にはさまざまな迷いがあります。自由な経営を謳歌したいという願いは、東京でも地方でも、極論すれば世界各国で共通です。
他人に株式を持たれる不自由さと、資金調達により経営の選択肢が増す利点を、自分なりに検討し決断するしかないのです。資金があると発想の幅が広がり、経営者の潜在能力を開花させる可能性が高まります。
他人の視線を経営に取り入れざるを得なくなることで、自分本位なマンネリ経営に鞭を入れる効用も大きいと思います。株式公開準備は経営者にとって「苦行」のようなものですが、大いに成長する機会となるケースも多いのです。
株式公開準備は、成功の保証が全くない中で、時間と資金の膨大な先行投資を行い、結果が出るまで不安や孤独と戦う強い精神力が求められます。「安易な株式公開」などといわれますが、それでも相当な先行投資になるはずです。
そのうえ多くの経営者にとっては初めての体験です。とはいえ、一度成功した人は繰り返しチャレンジするケースが多いことからも分かるように、費用対効果では決して悪い選択ではないのです。
地方の経営者は周囲にモデルケースが乏しいため、株式公開に至るそれぞれのステップで、東京の経営者の数倍、要領を得ず不安を抱える傾向にあるようです。
事業内容のディスクローズ(開示)に消極的ですし、市場での勝負よりコネや利権を尊ぶ面も見られます。成功者に対する排除の論理さえ働きかねない面があります。若い経営者が株式公開を目指さないのも当然といえば当然なのかもしれません。
ただ、地方にも立派な経営者が数多くいらっしゃいます。株式公開の実情をよく知って、果敢にチャレンジしていただければ、フォロー体制も徐々に厚みを増すことでしょう。そうなれば株式公開における東京所在地会社の比率は20%程度にまで落ち、地方にもお金が回る社会が実現すると思うのです。
記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)
1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。
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