「公」「民」の補完型起業インフラが必要--求められる本音の公開支援

沼田功(ファイブアイズ・ネットワークス社長)2007年07月11日 12時33分

 多くのベンチャー企業が株式公開を目指す中、株式公開コンサルタントの役割とは何か--。株式公開のワンポイントを解説するシリーズ2回目は、起業家を成功に導くために必要なインフラや情報、人材について考える。

起業を成功させるのは「精神」と「インフラ」

 かつて、「米国にはVC(ベンチャーキャピタル)と新興市場(ナスダック)があるから、ベンチャー企業が輩出される」と言われました。現在の日本では、数多くのVCが乱立し、金余りの状況。6つの取引所すべてが新興市場を有する過当競争状態で、主幹事証券会社の新規参入も相次ぎ、起業インフラの整備が大いに進みました。昨今は若干の行き過ぎ是正の取り組みがされており、日本の起業環境はさらに改善するでしょう。

 先日「起業家の本質」(ウィルソン・ハーレル著・英治出版)を読み、大いに感銘を受けました。米国のベンチャー動向を知り尽くされた著者は「起業家革命は米国経済を牽引す」と主張する一方で、「日本人は狩猟民族のDNAが足りないので起業家は育たない」と断言し、「起業家が育たない日本経済など恐れるに足りず」と結論付けています。「DNA」の比喩は理解できませんが、起業家の志・精神の重要性を改めて認識しました。

 起業の成功率、成功スケール(規模)は、「起業家の精神」と「その国の起業インフラ」に左右されます。その中での私たちの課題は、「補完型起業インフラの構築」と思うのです。

 例えば、VCは隆盛を謳歌(おうか)しておりますが、投資審査の期間が短く手法も画一的で、発掘・投資すべき案件がカバーされているのか疑問を感じることがあります。採算に乗り難いからでしょうが、例えば人物本位で各地の創業前後の会社を投資・育成をするシステムが日本では脆弱です。

 振り返れば当社も、つたない事業計画でエンジェル的なご出資を受けスタートしました。創業時から資金を得たので、多くの失敗から学ぶ余裕がありました。さらに経営の先達でもある出資者から、多くのご指導を頂きました。公開支援の面でも、純民間の支援機関の役割が増すと思います。

 私が苦労したのは、社員に「引受責任とは何か」を教えることです。私たちは株式公開コンサルタントですので、証券会社が担う引受責任に直面することはありません。実際の引受業務を体験したことがない人間には抽象的なフィクションにしかならないのです。

 引受責任を問われることのない安全地帯から、この言葉を語ることに私ですら疲れてきました。当社ですらそうした状況ですので、起業家に引受責任の観点から語っても、本質的には何も理解されないと思います。似たような事例が「起業家の本質」に出ていますが、米国でも同じ状況のようです。

 逆にいえば、引受責任を背負わない、本音の株式公開支援が必要です。証券会社は今後、評価・チェック機関としての役割を強めていくと思います。そうなると公開支援分野の空白部分がさらに拡大します。公開支援のノウハウを持つ証券業界の外にいる人たちを、全体の効率性を考えマーケット本位に組織し、証券会社の空白を補完するインフラを構築することも、これからの私たちの重要任務と思います。

 日本人の中にも、「起業家の本質」を現すことができる専門家が求められているのです。

 起業家革命が経済を牽引する状況は、日米とも同じです。公共部門のインフラ構築は、日本も高いレベルに達していると思います。公共部門の努力に加え、民間レベル・個人(起業家)レベルで補完インフラを構築していくことこそが重要なのです。

記事提供:「VFN」(発行:プレジデンツ・データ・バンク株式会社)

ファイブアイズ・ネットワークス沼田功(ぬまた・いさお)

1988年東大文卒。同年大和証券入社。1999年大和証券SBキャピタル・マーケッツ(現大和証券SMBC)を経て、2000年に退社し独立。41歳。東京都出身。

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