1991年、August Capitalにおける私のパートナーであるAndy Rappaportが、Harvard Business Review誌に、後にマッキンゼー賞を受賞する「コンピュータをつくらないコンピュータ企業(原題:The Computerless Computer Company)」という論文を発表した。以下は同誌に掲載されたこの論文の要旨である。
20世紀の終わりまでに、最も成功しているコンピュータ企業は、コンピュータをつくるのではなくコンピュータを買うようになるだろう。コンピュータのつくり方ではなく使い方を定義することで真の価値を生み出すのである。コンピュータ業界における戦略上の変革は次の3つのルールを指針として進められるだろう。1)処理能力ではなくユーティリティ(有用性)で勝負する、2)付加価値の真の源泉を独占する、3)提供する価値を最大限まで高度化しながら、利用するテクノロジーの高度化は最小限に抑える。
20世紀は終わり、Andyの見解は当たっていた。ユーティリティこそがコンピュータの真の価値となったのだ。1990年代、Digital Equipment CorporationやWangなど、処理能力だけでユーティリティの提供へと進化できなかった企業は恐竜のように絶滅し、一方でMicrosoftやLotusは成功した。コンピュータはその上で稼働するソフトウェアなしでは価値を認められなくなった。コンピュータはコモディティ化し、価値はアプリケーションが生み出すようになったのだ。
Andyが描いた1990年代のコンピュータ業界の流れから見ると、2000年代に入ってまた新しい時代が訪れたと考えていいだろう。「コンピュータをつくらないコンピュータ企業」から「ソフトウェアをつくらないソフトウェア企業」の時代へと進んだのである。「コンピュータ」企業はさらに一歩進化し、ソフトウェアを売るのではなくサービスを提供している。ホストサービスは「コンピュータをつくらないコンピュータ企業」が示唆した3つの「新」ルールを満たしており、明らかに有利である。つまり、1)純粋にユーティリティとして勝負している、2)付加価値の真の源泉を独占している、3)可能な限りシンプルな使用感で可能な限り高度化できるように設計されている。
この「ソフトウェアをつくらないソフトウェア企業」の時代に入ったことを示す最もよい証拠がMicrosoftの「Live」戦略だろう。2006年のVC Summitでは、Steve Ballmer氏自身も含めたMicrosoftの幹部たちが、MicrosoftがLiveという名で集中的に展開するサービスオファリングについて語った。同社は現在「Live Desktop」「Live Search」「Office Live」「Live Expo」「Live Meeting」などのサービスを提供している。さらに、サービス分野の大規模な展開に合わせて新しいデータセンタを開設したばかりだが、その広さはなんと50万平方フィート(約4万6000平方m)である(これについてはそのうちにまた詳しく書きたい)。
ソフトウェアを作らないソフトウェア企業の時代には、価値はユーティリティ、シンプルさ、信頼性で評価される。そこで最大の資産となるのは結局、無限とも思われる広さを持つデータセンタなのかもしれない。たしかにそれは、新たなコンピュータ企業がソフトウェアによるサービスを通して高いユーティリティを提供する場合に重要だろう。しかし、最終的に最も重要な差別化要因となるのは、膨大な需要に対応できる処理能力なのではないか。そしてその規模の実現に最も適した企業が勝者となるのだろう。したがって、ワシントン州クインシーにあるMicrosoftの新しいデータセンタからコロンビア川を少し上流か下流に行くと、YahooとGoogleがそれぞれ巨大なデータセンタを建設中であることも驚くには当たらない。コンピュータをつくらないコンピュータ企業から時代が一周し、ソフトウェアをつくらないソフトウェア企業はまた、ソフトウェアよりもハードウェアとインフラストラクチャを主眼とするようになったのかもしれない。
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