メリー・ポピンズという映画を知っているだろうか。魔法使いの乳母メリー・ポピンズは、部屋の片づけをいやがる子供たちに対し、「すべての仕事には必ず楽しい部分があるのよ。その楽しさを見つければ、ほら、仕事がゲームになるでしょう」と話す。そして、魔法を使って部屋の片づけを遊びに変え、子供たちは喜んで部屋を片づけるのだ。
ここ、日本にもメリー・ポピンズが存在した。バリュープレスの代表取締役社長 大木佑輔氏だ。大木氏は魔法使いではない。魔法のかわりとなるシステムを開発し、仕事をゲームに変身させた。
バリュープレスの設立は2004年3月。起業当初大木氏は、セミナー情報検索や迷い猫情報検索など数々のサービスを立ち上げたが、現在はプレスリリース配信代行など企業のPR活動支援を中心に事業を展開している。大木氏はこの事業を展開するにあたって、社内管理システムという「ゲーム」を開発した。
ゲームに参加するのは社員全員だ。スタッフにはGPS機能付きの携帯電話が渡される。その携帯電話は毎朝、スタッフのゲーム参加に対する意気込みをチェックする役目を果たしている。
バリュープレスの始業時間は午前9時。9時10分前の時点で会社から200m以内にいない場合、その参加者は遅刻と判断され、遅刻アラートメールがやって来る。遅刻に対する罰則はないものの、遅刻したことがわかるアラートメールはスタッフ全員に転送されるので、遅刻者はさらし者となるわけだ。
無事会社に到着し、席に着くと本格的にゲームが始まる。「スタッフシステム」と呼ばれるゲーム上では、ひとつひとつの業務が「経験値」というポイントで計算され、参加者はいかにして多くのポイントを稼ぐか競い合う。
ポイントは、業務内容やその作業に必要な平均時間などによって設定されている。業務が早く完了すれば、ポイントが高くなる仕組みだ。このポイントは、「マイページ」でいつでも確認できる。
マイページには、ゲームのハイスコア取得者ランキングも表示される。つまり、社内で多くポイントを集めたスタッフが誰なのか、いつでもわかるというわけだ。闘争心をかき立てる仕組みのひとつといえる。
終日ゲームを続けていると、怠け心が芽生えることもある。しかし、ひとつのステージをクリアするために必要な時間があらかじめ設定されているため、タイムリミットが近づくとパソコンから音声で注意されてしまう。たとえパソコンのボリュームをオフにしていても、強制的にオンになるよう設定されているのだ。その口調は徐々に厳しくなり、注意を無視し続けると携帯電話にも通知される。何がネックとなっているのか、誰の怠け心が原因でゲームが進まないのか、周りのスタッフにもわかるというわけだ。
こうして業務というゲーム内で取得したポイントは、給与に反映される。また、取得ポイント数によって使える「技」が決まっているのもこのゲームの特徴だ。
例えば、1000ポイント獲得すれば名刺が持てるようになる。2000ポイントになると、ひとりで顧客訪問が可能だ。3000ポイントでは1000円以下の決裁ができるようになり、1万ポイントで部下が採用できる。設定上では、「社長に命令できる」「仕事中に(業務システム以外の)ゲームができる」というレベルもあるという。
ポイントが一定以上になると、レベルアップできる。誰かがレベルアップすると、ゲーム参加者全員のパソコンでファンファーレが鳴り響くのだ。
1日のゲームが無事終了すると、スタッフは日々のゲーム内容を日報として報告する。この日報は、売り上げ管理システムなどの社内システムとリンクして、いかにスタッフがうまくゲームをプレイしたか、その質が判定される。その中には、1日のプレイ時間やコストなどから人件費も計算され、案件単位で赤字か黒字かもリアルタイムにわかるようになっている。
もちろん、人件費が細かく計算されるのと同様に、顧客ごとにかかるコストも計算される。メールのやりとりにかかった時間から電話で話した時間まで、さまざまな要素が加味されている。こうしたシステムにより、ゲーム参加者のコスト意識も高まるのだ。
日報の入力が完了すると、1日に稼いだポイントによって「アイテム」が当たることもある。そのアイテムとは、スタッフが各自のマイページにて設定したAmazon内の商品だ。
こうしてバリュープレスのゲームは続く。今日も社内では、レベルアップのファンファーレや怠け者へのアラート音が鳴り響いている。
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