ワタシの人生に音楽、特にクラシックは欠かせない。でも、自分でもホルンを演奏するからか、オーディオファンには大変申し訳ないが「いくらオーディオ機器にこだわってもコンサートホールでの演奏に迫る臨場感なんて無理」と思っていた。コンサートホールで鳥肌が立つような演奏を何度も聞いたことがあるから、なおさらだ。もちろん昔からレコードやカセットテープ、MD、CDなどでクラシックは聴いていたが、機器にはこだわらず、自分の想像力を駆使して、いわば脳内アンプを使うことで本物の音を想像しながら聴くなんてちょっと変態チックなことをしていたのだ。
メインの音楽環境がiPodに移って久しいが、これで真剣にクラシック音楽を聴こうとは思ったことがなく、せいぜい自分たちが次の演奏会で演奏する曲のデモ演奏や、どうしても聴きたいときに割り切って音量を上げ気味で聴く程度。そう、iPodで本格的にクラシックを楽しめるスピーカーやイヤフォンを探そうなんて気持ちは、ワタシの考えの中にはまったくなかったのだ。
デジタル機器でのクラシック音楽の再生には限界がある。そうずっと思い続けていたワタシの考えを一変させたのが、BOSEの小型スピーカー『Micro Music Monitor』(通称『M3』)だ。音量を上げればどんなスピーカーでもそれなりに迫力ある音を出すものだが、こいつはコンサートホール内の空気を伝わる音の振動を感じることができる。一番前の席でオーケストラの演奏を聴いたときに感じる、弦楽器の低音が空気をふるわせて伝わってくる感覚が味わえるのだ。これは衝撃的、マジで。この時からだ、デジタルオーディオでもクラシックが楽しめるのではとワタシが思い始めたのは。
音にこだわるなら耳をすっぽり覆う大きめのヘッドフォンをと思う人も多いだろうが、一応女性で、デジタル機器てんこ盛りの鞄を持っているなんてみじんも思わせないようなファッションで普通の女性ぶって出歩いてる自分にとって、大きなヘッドフォンはNG。そう、さりげなく普通の人を装うためには、やっぱり耳の中にすっぽる収まるイヤフォンがいい。
ワタシは耳が小さい方なので、長時間聴き続けるためには耳栓のようなカナル型イヤフォンがベスト。そうなると、自ずと求める機能が定まってくる。耳の穴をふさいで鼓膜との間で音を共鳴させる密閉型のカナル型イヤフォンは、密閉性が高い方が低音がよく響き音が豊かになる。市販のカナル型イヤフォンにサイズ違いのイヤーパットがつくのも、それが耳へのフィット感とともに音質を左右するからだ。
カナル型イヤフォンの密閉性は、高ければ高いほど小さな音量でダイナミックレンジの広い音が楽しめる。人間の耳は大きな音を聴くと瞬時に耳を守るために耳の感度を落とすので、周囲の雑音に打ち勝とうと音量を上げて音漏ればりばりの大音量で聴くというのは、実はダイナミックレンジを自ら狭めている行為で、耳のためにも周囲のためにも、そして音質という面でもあまりいいことではない。逆に静かな場所で耳が慣れてくると虫の音などがクリアに聞こえるようになるが、これは音を聞き取るために耳の感度が自動的に上がった状態。密閉性をあげて周囲の雑音をカットすれば、それだけ小さな音量でレンジの広い音が聴けるのである。これは耳のプロである補聴器やさんをやっている友人から教えていただいたうんちくです、ハイ(笑)。
もちろん、密閉性をあげすぎると弊害がある。その最たるものが、ガムをかむときの音や骨の鳴る音などなど自分の体内の雑音が耳に伝わりやすくなるというもの。外を歩くときなどは、周囲の音が聞こえなくなるので、事故につながるといった危険性もある。大きめのものを押し込むと耳も痛くなる。何事もほどほどがいいのだ。
とはいえ、市販のカナル型イヤフォンでイヤーパッドをあれこれ取り替えて密閉性をあげていくには限界があった。そこで、行き着いた究極の解決方法が、自分の耳の型を取り、最高のフィット感が得られるイヤフォンを作ることだった。事前に音の好みも伝えてあったので、できあがった世界に一つのイヤフォンは、クラシックも十分に楽しめるワタシ好みの音質。電車の中でも周囲の雑音はあまり気にならず、耳に優しい小さな音量設定で豊かな音が楽しめるのだ。”もうあなたなしでは生きてはいけない”なんて、恋愛に狂った女性のような台詞を言ってしまいたくなるほどのお気に入りだ。
オリジナルイヤフォンは作るのに5万円程度とちょっと高いし、必ずしも自分好みの音になるとは限らない。でも、これを作ってくれた須山補聴器さんでは、耳の型を元に手持ちのカナル型イヤフォンに付けられるイヤーパッドの制作を1万円程度でやってくれる。これだけでもだいぶ音質が変わるので、試してみたい方はそちらがオススメ。
耳にフィットする究極のイヤフォンには、音量のばらつきがあるといきなり耳元で大きな音が鳴るというちょっと困った弊害もあるけど、それでもこれに変わる市販品はないし、豆に音量調節しなくてはいけないなんて手間はワタシにとってはどーだっていいのだ。世界に一つのイヤフォンは、ワタシの音楽ライフを楽しくしてくれる、手放せないアイテムだ。
iPod、Mac、プリンターなどのデジタル製品から企業向けIT製品全般、クラシック音楽、ネットビジネスまで、なんでも書いてしまうテクニカルライター。モバイル犬・ポチの愛称でも知られる。元はハードウェアエンジニアでノートパソコンを分解しビスの果てまで愛する分解マニアとして知られていたが、最近は毎日都内を取材で飛び回る日々を送る。都内で活動するアマチュア楽団に所属し、ホルンを吹くのが最高の楽しみ。
【使用製品】型番:なし
購入時期:2006年6月
【お気に入り度合い】これなしでは音楽を聴く楽しみが半減!世界に唯一無二の自分専用なので、自慢もできる点もマニア向け(笑)。
【次回執筆者】佐橋慶信さん
【次回の執筆者にひとこと】筋骨粒々、おひげを蓄え、強さと優しさを併せ持った敬愛するライターさんです。革ケースなども自分で作ってしまうなど、デジタルを超えたガジェットの達人の愛用グッズが楽しみ。
【バトンRoundUp】START第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) →第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) →第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) →第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) →第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) →第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) →第8回:荻窪 圭氏 (自転車とGPSがあればどこにでもいけます)
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