電卓とデジタル時計の秘密--お気に入りガジェットバトン第7回

一見普通の電卓とデジタル時計。実はやっぱり普通の電卓とデジタル時計

 自分は普段ほとんどデジタルグッズというものを使わない。仕事で使うパソコンの他で使っているものと言えば、せいぜい携帯電話くらい。しかも特別に気に入っているというわけでもないので、ガジェットバトンを受け取って良いものかちょっと考えてしまったが、ふと机の上を見てみると、おお、あるじゃないですかお気に入りのデジタルアイテムが2つも!

 1つは、なんの変哲もないカシオの8桁電卓。何年か前に、近所のラオックスで安くワゴン売りしていたのを買ったもので、四則演算の他にはメモリー機能があるだけというシンプルなもの。机の上で邪魔になるほど大きくなく、さりとてキーを打ちにくいほど小さくもない、ちょうど良いサイズ。ディスプレイは大きめで見やすい。なにより良いのは、太陽電池で動くので電池交換が不要なことと、ACボタンを押せば瞬時に起動してすぐに使えることだ。パソコンのOSに付いている電卓を起動するよりも手軽でいい。

 もう1つは卓上時計。これも近場の雑貨屋で、確か900円くらいで買ったものだ。文字の表示が上下3cmほどあってでかいことと、日付、曜日、気温が表示されるのが気に入って購入した。アラーム機能や誕生日を設定するなどもあるが、自分は使ったことはない。

7セグメントディスプレイの素敵な偶然

 今回電卓とデジタル時計を取り上げたのにはワケがある。電卓とデジタル時計は、どちらも液晶ディスプレイへの数字の表現方法に7セグメント方式を採用している。私はいつかこの7セグメント方式のディスプレイについてお話ししたいと思ってネタを暖めてきたのである。地球に生活する一般の人々が、はじめてデジタルという概念に触れたのは、1960年代にデジタル時計が普及し始めたときではないだろうか。そして、デジタル時計の表示装置である7セグメントディスプレイこそ、デジタルの象徴であると私は思うのだ。

 7セグメント方式は、その名の通り7カ所の表示部でもって文字を表示するもので、7つのセグメントが日の字にレイアウトされている。ただし、電卓の場合、各桁の表示は実は8セグメントである。日の字の右下に、小数点を表現するためのドットがあり、これが8番目のセグメントなのだ。

 0から9までの数字が順番に表示されるGIFアニメを作ったので、しばらく表示の変化を眺めていただきたい。個人的に、5から6への変化と、8から9の変化に趣きがあると思う(1セグメントだけが変化する)。

 アラビア数字の0~9を日の字の7セグメントであまり無理なく奇麗に表現できるという偶然を、私は昔からとても素敵だと思っていた。右下のドットを加えて8セグメントになるというのもまた素晴らしい偶然だ。8カ所のセグメントの表示状態を、8ビットの情報で表すことができるからだ。表示装置の制御にはマイコンが使われるので、情報単位が2の倍数であること、特に8ビットであることは非常に都合が良く、無駄がない。

 もしも、我々が普段扱う数字がアラビア数字でなく、別の形の数字であれば、それを表示するためにもっと多くのセグメントを必要としたに違いないし、場合によってはドットマトリクス形式でないと表示困難だったかもしれない。そうだとすれば、表示装置やその制御回路は複雑で高コストなものとなり、電卓デジタル時計の登場や普及がもっと遅れた可能性もある。

U.S. Patent 974,943の添付図よりU.S. Patent 974,943の添付図より

 7セグメントディスプレイの表示も完璧ではない。特に、4の頭が開いてしまっているところと、右側に棒が突き出していない点に違和感を感じる人もいるだろう。ちなみに、1908年に米国で出願された、ディスプレイ装置に関する特許の中に登場する図では、4を表現するための斜めのセグメントを加えた8セグメント構成となっていた。これによる4の表示は、しかしデザイン的にあまり美しいとは言えず、結局余計なセグメントをもたない現在の日の字レイアウトの7セグメント構成が普及したようだ。

 7セグメントディスプレイは、アラビア数字だけでなく、不完全ながらアルファベットの大文字と小文字のうちいくつかを表示可能だ。真ん中の水平なセグメントを使ってー(マイナス)が表示できることも見逃せない。0~9およびアルファベットのAからFまでの表示例を次に示す。

 

小文字が混ざっていることは残念だが、識別性にさほど問題はない。日本のパソコン史の巻頭を飾るワンボードマイコンTK-80には、7セグメントのLEDディスプレイが8個付いていた。そして、メモリーのアドレスとデータを16進数で表示したのである。16進数を無理なく表示できるというのもまた素敵な偶然である。

電卓とデジタル時計は兄弟

 電卓とデジタル時計のしくみをご存知だろうか? 実はどちらも中枢はワンチップマイコンであり、それに液晶ディスプレイ、電池、キーボードなどをつないでできている。構造はほとんど同じ。組み込まれているプログラムが異なるだけの、兄弟のような物なのだ。ここで言うマイコンとは、マイクロコンピュータの略称ではない。いろいろな危機に組み込んで使う、制御用CPUのことをマイクロコントローラ、略してマイコンと言うのである。

 一般的なマイコンは、4ビットや8ビットのCPUコアと共に、液晶ディスプレイドライバ、入出力ポートなどが1チップ化されている。私の電卓とデジタル時計を分解した中身の写真を次に示す。どちらもマイコンはベアチップの状態でプリント基板に実装され、樹脂で固められている。マイコン以外に電子部品はほとんどないと言っていい。これが、驚くほどの低価格の秘密であり、私がこの電卓と時計を気に入っているもう1つの理由なのだ。

 電卓や時計に使われているマイコンのコアは、おそらく4ビットCPUであり、機能的には非常に単純だ。乗除算命令も持たないはずだが、プログラムによって8桁の四則演算を実現する。

 思い出してほしい。世界初のマイクロコンピュータ、インテルの4004は、電卓の頭脳として開発されたのだ。プログラムを換えることで、いろいろな機能の電卓に対応できるというのがコンセプトだった。私のこの安い電卓に使われているマイコンは、そういう意味で4004の直系の子孫と言えるかもしれない。なんとも可愛いやつだ。

大島 篤氏プロフィール

テクニカルライター兼テクニカルイラストレイター。
本文、イラストに加えてレイアウトまで自ら作業した著書
『3DCGでよくわかる パソコン解体全書』発売中。
2歳になる長男の成長が楽しみな毎日。

【使用製品】

電卓 CASIO MS-6 購入時期 2001年9月

時計 不明     購入時期 2005年10月

【お気に入り度合いを一言で表現してください】

カワイイやつ。。

【次回バトンを託すのは?】

荻窪圭さん

【次回の執筆者に一言】

この業界では最も有名なライターの一人。ひさしぶりの再開の場はmixiでしたね(^^;
最近はデジカメ方面がメインな様子。バトンのテーマもデジカメになるのでしょうか?

【バトンRoundUp】

START第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) →第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) →第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) →第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) →第回6:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ)→第6回:大島 篤氏

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