賢者の選択はスモールスタート--新興企業が資金調達額を抑えることの意味

文:Carl Showalter
翻訳校正:吉井美有
2006年10月25日 17時11分
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 今はテクノロジーで起業するには絶好の時期だ。起業に必要な資金が豊富に流通しているからだ。ある意味、新興企業と投資家の両者にとって最も難しい問題は、こうした若い企業に適切な出資額をいかにして決定するかという点である。

 出資額が多すぎると、金の使い方が分散してしまう。それに、資金に対する切迫感がなくなってしまう可能性がある。出資額が少なすぎると、事業が軌道に乗らずに終わってしまうかもしれない。効率的な融資を行うことと企業を軌道に乗せることを目標として共有することは、投資家と起業家の双方にとって有益だ。

 起業家にとっては、通常は出資額が少なければ全体的な株式の希薄化が少なくなり、自社の株式保有率が大きくなる。これは、会社を売却するときやIPOの際の企業価値が大きくなることを意味する。それだけでも、賢い起業家が多額の融資を求めない十分な理由になる。

 現実には、創業間もないベンチャー企業に融資するベンチャーキャピタルの大半は、4〜6年の期間に少なくとも融資額の10倍の利益を出す企業を探している。融資額が少ないほど、成功と判断されるためのハードルも低くなる。結果として、新興企業はけた外れのM&AやIPOの評価額を達成しなくても、十分に融資に見合う利益を出すことができる。

 それでも資金調達額を低く抑える気にならない起業家の方々のために有用な情報がある。複数の投資会社から多額の資金を調達すると、各投資会社の利害と計画が錯綜(さくそう)して、自社の事業の運営に悪い影響を及ぼす可能性があるのだ。

 また、今はさまざまな条件が好転しているため、新興企業はかつてないほど小さな資本で市場に打って出ることができる。具体的には、標準化によってハードウェアコストが削減されたこと、周辺業務をアウトソーシングして低賃金の労働力を活用できること、インターネットによって多くの企業のマーケティング費用が低下していること、などが挙げられる。

 それとは逆の見方をするのがベンチャーキャピタルである。一部のベンチャーキャピタルは、巨額の融資によって各出資先で大きな利益を出すことを目指している。しかし、投資先を分散して効率的な融資を行ったほうが、新興企業の事業を成功させることができると信じているベンチャーキャピタルも少なくない。

 資本投下の効率を高めるには、その企業の目玉をより明確にする必要がある。リソース(ヒトとカネ)が限られているからだ。この点には、新興企業で働いたことのある人なら同意してもらえるだろう。極めて明確に設定された目標に向かってチームが結束して資金の使い道を絞り込むこと。事業を成功させるのに、これに勝るメカニズムはない。自分たちよりも成熟した、利益の出せる企業とは違って、新興企業は使用する資金を最小限に抑えて株式公開までこぎつける必要がある。製品を導入する前の投資ラウンドであればなおさらだ。製品が市場に受け入れられるまでにどのくらいの時間が必要になるかわからないからだ。

 しかし、投資額を最小限に抑えれば話は終わりというわけではない。必要なときに資金が不足しないように投資額を最適化する必要があるのだ。新興企業に当初の目標を達成させることは、事業を軌道に乗せるために欠かせない第一段階だ。これにより、次の投資ラウンドでより高い評価額を目指すことができる。企業には目標を達成するために十分な資金が必要だ。そうしないとビジネスの好機を完全に逃してしまう可能性がある。

 適切な融資額で重要な目標を達成してしまえば、次の投資ラウンドで容易に評価額を大幅に向上させることができ、すべての株主の保有株の価値が向上する。事業が順調に進み、目標が次々に達成されれば、より高い評価で追加資金を調達できる。これは両者にとって良いことだ。評価額が上がれば起業家や従業員の持ち株の希薄化が抑えられ、既存の投資家は以降の投資ラウンドで現在の所有権を維持するために必要な出資額を軽減することができる。

 創業間もない企業に対象を絞ったベンチャー投資家は、適正な規模の資金を募ることが多い。そうしたベンチャー投資家は、資本効率の高い投資活動によって投資対象企業の数を増やすこともできる。そして、できれば出資額全体の投資利益率を上げるために潜在的な機会を増やしたいと考えている。

 今、ベンチャーキャピタルの資金が、自由に流通していることは事実だ。しかし、企業を成功させる鍵は多額の資金を調達することではない。成功はあくまで、革新的な技術力と独創性、そして調達した資金を投入して持続力のある企業を作り上げる起業家の懸命な努力の結果なのである。

著者紹介
Carl Showalter
新興テクノロジー企業への投資を専門とするベンチャーキャピタルOpus Capitalのパートナー。Juniper Networks、UUNET、AOLの取締役を歴任。エンジニアとしてBellcoreに勤務した経験も持つ。

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