キムチ冷蔵庫の歴史

佐々木 朋美2006年10月10日 17時27分

 キムチは韓国の食卓に欠かせない食べ物だ。家庭でも食堂でも、どんな料理がメインでも、キムチは必ず付けあわせとして出てくる。だからこそキムチを買いだめ・作りだめする家庭も多いのだが、それを保存する際に役立つのがキムチ冷蔵庫だ。

 キムチ冷蔵庫は韓国家庭で一般的に利用されており、通常の冷蔵庫と一緒に台所に並べられている場合が大半だ。通常の冷蔵庫でも十分冷蔵できるものを、なぜわざわざキムチ冷蔵庫で保管するのかといえば、そこには「おいしくキムチを保存したい」という韓国人のこだわりがあるようだ。

 冷蔵庫がなかった頃、韓国では子どもが入るほど大きな甕にキムチを入れ、それを土に埋めて保存していた。そこにはキムチの鮮度維持に最適な温度や湿度を一定に保ち、味を長期間維持するための古くからの知恵が活かされている。しかしこうした習慣は都市化とともに継続困難となり、キムチの味を長期間保存することも不可能となった。

 そうした中、1995年にWinia Mandoからキムチ専用の冷蔵庫「ティムチェ゜」が初めて販売された。

画像の説明Winia Mandoが95年に発表した最初のキムチ冷蔵庫

 ティムチェ゜が一般的な冷蔵庫と異なる点は冷却方法にある。Winia Mando関係者は「通常の冷蔵庫はエアコンのようなもの。冷たい空気を一定間隔で送って冷却するので、キムチが乾燥し温度にもむらができるため、1週間程度でキムチに酸味が加わって本来の味が薄れてしまう」と説明する。

 一方ティムチェ゜は冷蔵室を土の中の甕のように冷却装置ですっぽり包み込んで、全体をじっくり冷やす仕組みとなっている。こうして温度や湿度をむらなく一定に保つことが可能となるのだ。ちなみにティムチェというのはキムチの古語。ここに温度を表す「゜」がつけられており、キムチ保存の際いかに温度管理が大事なのかが伺える。

 またキムチ冷蔵庫の扉は横方向ではなく上下方向に開閉するか、もしくは引き出し型となっている。これは冷たい空気が暖かい空気より重いという原理を利用して、扉開閉に伴う温度の上昇を防ぐ効果を狙ったものだ。温度差に弱いキムチを徹底的に温度管理すれば、数カ月間キムチの鮮度を保つことが可能となる。

 新鮮なキムチの味を維持できる画期的な冷蔵庫は、たちまち韓国で受け入れられた。ティムチェ゜は95年に4000台、現在まで合計約400万台を販売するまでとなり、キムチ冷蔵庫は台所に定着。拡大を続ける市場に韓国最大のメーカーSamsung電子とLG電子も参戦した。

 Samsung電子の「HAUZEN」は、サクサクとした歯ざわりを保つための徹底した温度管理機能や「競合他社最大」という脱臭機を搭載するなど技術力の高さで売り出す。一方LG電子の「DIOS」は保存力もさることながら、本体にスワロフスキー製クリスタルをあしらって、デザイン性の高さや高級感を演出しているのが特徴だ。

 これに対して元祖のWinia Mandoは、同社の「キムチ研究所」で食品保管の研究に取り組んでおり、味を維持しつつより熟成を進める機能を持たせたり、果物や肉、ワインなどの保存にも対応したキムチ冷蔵庫を販売。あらゆる食品が、それぞれの最高の鮮度と味を保てるような「機能性冷蔵庫」を発表している。

 近頃は日本でも化粧品専用などの機能性冷蔵庫が販売され始めている。Winia Mando関係者は「寿司など生魚をよく食べる日本は、魚専用冷蔵庫が家庭にあっても良いはず」と口にしていた。今後は事物をより良い状態で保つため、冷蔵庫も複数使い分けの時代が来るのかもしれない。

画像の説明2006年発表のキムチ冷蔵庫。デザインが洗練され、ディスプレイで熟成度や温度などを管理できるようになっているのが分かる。

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