Google Talkが標的に--注目を集める特許侵害訴訟の行方

文:Eric J. Sinrod
翻訳校正:坂和敏(編集部)
2006年02月15日 19時59分

 技術を売り物にする企業が、安定した地盤を確立し、着実に利益を上げるようになると、それらの大企業に成長の過程で、自社の知的財産権を侵害されたとして、小さな企業や個人が訴えを起こすことは珍しくない。

 こうした訴えの多くは報われることはなく、支払いを求める手紙を出すだけで終わるか、裁判になったとしても世間に注目されずに却下されてしまうことが多い。

 が、時にはこうした主張が認められることもある。実際に、NTPという小さな企業はBlackBerryのメーカーであるResearch In Motionを訴え、陪審評決で勝訴した。NTPの主張は、RIM製の電子メール用端末BlackBerryやそのサービスに使われているシステムや手法が、自社の保有する多数の特許を侵害しているというものだった。

 両社は和解に向けて交渉を続けており、最終的にはNTPがかなりの和解金を手にする可能性がある。

 Rates Technology Inc.(RTI)という別の小企業も同じような訴えを起こしているが、こちらの相手は桁外れに大きく、勝てば大変なことになる。その相手とはGoogleである。RTIは、Googleが同社のインスタントメッセージ(IM)「Google Talk」をつかったVoIPサービスや関連製品のマーケティングと販売する上で、RTIの持つ2つの特許を侵害したとして、ニューヨークの連邦裁判所に訴えを起こした。RTIは、この特許侵害によって発生した損害の補償を求めている。これには、失われた利益の3倍に当たる金額と特許料が含まれる。また同社は、Google Talk関連のサービスや製品についてマーケティングおよび販売を禁じる差し止め命令を下すよう裁判所に求めている。Google Talkは、VoIP技術を利用したインターネット電話サービスを提供しているが、これがRTIの特許に抵触するということらしい。

 問題になっている2つの特許(特許番号5,425,085と5,519,769)は発明者によってRTIに付与(売却)されたものである。前者の特許の一部を以下に引用する。

 「(この特許の対象となる)装置は、1台目の電話からの電話回線に接続されており、その電話からの発呼を、2台目の電話につながるネットワーク網を利用して最も低コストの経路に沿って転送する。ケースが装置を取り囲んでおり、最初のジャックは電話回線の電話側と相互接続され、2つ目のジャックは電話回線のネットワーク側と相互接続される。装置を取り囲むケースには、最初の電話をネットワークから切断するスイッチが含まれている。この装置は、1台目の電話に接続されたスイッチを介して、電話網によって提供される電流に対応する電源を供給する。データベースには課金レートパラメータが格納され、各キャリアのさまざまな通信経路が、呼の時刻と日付などのパラメータによって決定される」

 「1台目の電話からの発呼は検出され保存される。データベースが検索され、通信のスイッチ経路が複数存在するかどうかが判定され、各経路のコストが算出される。各経路のコストは比較され、最もコストの低い経路を使用して呼が転送される。この装置は使用キャリアに対応する番号を生成する。これにより、発呼が2番目のジャックから出て、選択した通信経路とキャリアに対応する電話回線に転送され、1台目の電話と2台目の電話の間に交換回線が確立される」

 まったく頭が痛くなるような内容だ。こうした特許裁判は、技術と法律が絡むため複雑になる。

 RTI社長のJerry Weinbergerが、CNET News.comの記者Elinor Millsに対して、この特許の内容を簡潔に説明してくれた。それによると「VoIPコールが通常のPSTN(公衆電話網)に転送される可能性があるとき、そのコールのスイッチングを行うと、われわれが保有している特許を侵害することになる」のだという。

 RTIのような小さな企業が長期戦覚悟で訴えを起こした今、世間の注目は、ビジネスで手一杯のGoogleが法廷闘争にどのように対応していくのか、また、この裁判がGoogleのビジネスの遂行をどの程度妨げることになるのかという点に集中している。

 GoogleはすでにRTIの特許侵害の訴えに真っ向から反論すると発表している。同社がありとあらゆる反論を用意してくることは間違いない。あるいは、RTIに「特許買い漁り業者」という汚名を着せようとするかもしれない。RTIには他社から大量に特許を買い取り、それを使って頻繁に訴訟を起こしているという噂がある。あるいは、RTIが特許を人質(かた)に膨大な和解金を引き出そうとしていると主張するかもしれない。

 RTIが訴えている相手はGoogleだけではない。Weinbergerによると、RTIはYahoo、Microsoft、Cisco Systemsといった大企業から一時的な技術の使用料を受け取っており、またVonageとCablevisionも訴えているという。さらに、SkypeやAmerica Onlineとは和解交渉を進めているという。

 RTIが所有している特許権が真に有効なものであり、Google TalkのVoIPサービスや関連製品がそれらの特許を侵害しているのであれば、同社は法的な後ろ盾を最大限に活かして、GoogleがRTIの特許を不正利用してさらなる成長を遂げようとするのは不適切であるという議論を展開することもできるだろう。この議論なら、他社から特許を取得したかどうかや、他社に対する特許侵害訴訟を起こしたことがあるかどうかは関係ない。

 この訴訟が、RTIの訴えは却下されない可能性があるとGoogleが判断するところまで進展する可能性は大いにある。そうなったら、本格的な和解交渉が始まるだろう。あるいは、BlackBerryを訴えたNTPのように、RTIも裁判という大きな賭けに出るかもしれない。

著者紹介
Eric J. Sinrod
Duane Morris法律事務所サンフランシスコ支社勤務の弁護士。ITおよび知的財産関連分野が専門。同氏が週に1度発行するコラムを読むには、件名に「Subscribe」と記載したメールをejsinrod@duanemorris.comまで。ただし、このコラムの内容は、必ずしもDuane Morrisとその社員の意見を反映するものではない。

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