人々の生活に深く浸透している製品を提供しているのに、その社名はほとんど知られていない--なぜそんなことが起こるのだろうか。答えは、Freescale SemiconductorのCEOであるMichel Mayerが知っている。
テキサス州オースティンに本社を置くFreescale Semiconductorは、Motorolaから分社して独立企業となったばかりだが、マイクロチップメーカーとしては世界のトップ10にランクインし、年間売上高は60億ドルに達する。しかし、知名度となると話は別だ。
Freescaleと聞いても個人ユーザーはピンと来ないかもしれないが、業界関係者の間では同社の名前はよく知られている。最も有名な顧客はApple Computerで、契約では同社が2008年末までAppleにPowerPC G4プロセッサを供給することになっている。また同社はApple以外にもおよそ1万社と取り引きしており、顧客のなかには世界の自動車メーカー大手10社も含まれている。
Freescaleは先頃、電子機器の設計に関してCadence Design Systemsと複数年にわたる提携契約を結んだほか、サンディエゴに本社を置くCommASICも買収した。CommASICは、マイクロプロセッサに複数のワイヤレスネットワーク技術を統合する技術を持つ、ファブレス(研究開発専念型)半導体企業だ。
CNET News.comはMayerにインタビューを行い、Freescaleの進化やPowerPCアーキテクチャの未来に関して、さらには組み込みプロセッサ市場で同社の役割が拡大しつつあることについて話を聞いた。
--今後は、PowerPCからワイヤレス機器用の小型組み込みプロセッサにいたるまで、Freescaleが生産するすべてのチップの設計にCadenceのツールが利用されることになるのですか。
はい、すべてのチップが対象です。アナログ製品も同様です。
--今後はどのような方法で合理化を進めていく予定ですか。
コスト削減も必要ですが、さらに重要なのは効率化です。これまでは分散アーキテクチャを採用して、個別の働きをするコンポーネントを統合し、設計ツール環境に関する意思決定を下すようにしていましたが、この手法では限界があると考えるようになりました。さらに成長していくためには、もっと強力で安定した設計ツールプラットフォームを構築する必要があったのです。
--成長といえば、FreescaleはCommASICを買収しましたが、これは今後のワイヤレス製品の設計にどのような影響を与えるのでしょうか。
携帯電話市場ではマルチモード化が進んでおり、4G(第4世代ワイヤレス)では完全なマルチモードが実現されると考えられることから、CommASICのノウハウを獲得して、当社の製品に低電力のワイヤレスLAN機能を追加する必要がありました。今後は、ネットワークやキャリア、Wi-Fi、VoIP(Voice over IP)、Bluetoothなどを自在に切り替えられるようになるでしょう。こうした未来に対応するために、低電力のWi-Fi機能を実現する方法を手に入れなければならなかったわけです。
--Freescaleは移行期にあるように見えますが。
移行というよりは、既存のビジネスを進化させているといったほうが当たっています。
--FreescaleをTexas Instrumentsと比較するアナリストもいます。どちらの企業も、アナログ製品を豊富に扱っているからです。アナログ製品にはどのような魅力があるのですか。
アナログは非常に重要です。ご存じのように、純粋なデジタル製品でない限り、アナログ製品は必要です。そして現実には、100%デジタルというものはそうありません。
--新たに参入を考えている分野はありますか。
当社は名古屋に設計/品質管理センターを開設しました。名古屋は日本の自動車産業の中心地です。
家電市場にも成長の機会があると思います。当社では、車載システムに用いてきた技術を家電に応用するようになっています。例えば、自動車のシートを移動する技術はキヤノンの「Digital Rebel」というデジカメのオートフォーカス機能に利用されていますし、エアバッグの展開を制御する小型のマイクロコントローラは、トースターや冷蔵庫などに搭載されています。
もちろん、Motorola以外のワイヤレス市場にも成長の可能性は大いに存在しており、現在はそうした分野に重点を置いています。
--デスクトップについてはいかがですか。
当社の売り上げに占めるデスクトップ製品の割合はごくわずかで、いずれはなくなる方向にあります。この分野ではApple(のノートPC)が唯一の顧客ですが、同社は来年中にもIntelチップに移行する計画を明らかにしています。顧客を失うのはうれしいことではありません。しかし、率直なところ、われわれの前には大きな成長の可能性が広がっており、わずかな市場シェアを守るためにリソースを費やすのは賢明ではないと考えています。デスクトップ市場における当社のシェアは、Intelの0.5%にすぎないのです。
われわれはIntelがPC市場を制することに、何の不都合も感じていません。PC以外の市場には多くの可能性があり、当社が競争優位を確立している分野に進出するためにリソースを充てるほうが、はるかに効果的だからです。
技術革新の波は、PC分野から非PC分野へ移りつつあります。現在その舞台となっているのは家電やゲーム機、自動車、電話機、iPodで、デスクトップは当社が関心を持っている分野ではないのです。
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