「華流ITマーケットウォッチ」では、中国・瀋陽に合弁会社を設立し、オフショア開発や中国市場調査を行うメイプルカンパニーの包偉(バオ・ウィ)が、中国のIT事情を紹介する。第1回目は、ブロードバンドインターネットを介してユーザーにテレビ番組を提供するIPTVサービスについてレポートする。
IPTVはインターネットと従来のテレビ放送との融合の結果提供される新しい形態のサービスであり、インターネットとテレビ放送業界の双方に利益をもたらすとものであると考えられる。中国では、日本での"ライブドアとフジテレビ""楽天とTBS"の提携をめぐる話題を先取りした形ですでに、インターネットとテレビの融合が始まっている。例えば、中国では2005年11月15日に以下のようなニュースが報道された。
チャイナネットコム、IPTVテスト放送地域を拡大
2005/11/15 (北京晨報)
中国通信大手である中国網通(チャイナネットコム)が、中国で唯一IPTV許可証を持っている上海文広新聞伝媒集団(上海メディアグループ)と契約を結び、IPTVテスト放送地域を、ハルピン1都市から、北京を含む21都市にまで拡大する計画を明らかにした。
このニュースに出てくる中国網通(チャイナネットコム)と言えば、中国電信(チャイナテレコム)、中国移動(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)とともに中国4大通信キャリアに数えられる企業だ。チャイナネットコムは、2005年5月17日に初めて中国東北地方のハルピン市でIPTVテスト放送を実施した。ハルピンでのテスト放送は毎月60元(11月25日現在における中国元の対円レートで計算すると約880円)の使用料で提供され、5万人ものユーザーを獲得するなど人気を集めた。高精細なIPTVを観るには、十分な通信速度の回線を確保する必要がある。だが、現在、チャイナネットコムが提供するADSLの通信容量は512Kバイト〜1Mバイト/秒程度。そこでチャイナネットコムは「ブロードバンド都市計画」という名の下、都市部を中心に各世帯に2Mバイト/秒の通信回線を提供する目標を掲げ、IPTVのテスト放送に相応しいインフラの整備を進めている(中国では一般のニュースサイトでも、2Mバイト/秒の通信回線があればIPTVを鑑賞できるとしている)。
中国では、地上波デジタルテレビよりもむしろ、IPTVの普及が推進されている。これには、2004年に国家広播電影電視総局(State Administration of Radio、Film and Television。中国におけるラジオ/テレビ放送、映画などのメディアを統括し、関連政策、規制などを策定する国務院直属の機関。以下、広電総局)がデジタルテレビの普及を試みた際に、ユーザーの加入件数が予想の10分の1程度にしか達しなかったため、現在ではIPTVの普及が優先されているという背景がある。
2005年4月30日に、上海メディアグループは、広電総局からIPTVの許可書を取得した。このことをきっかけに、電気通信業界とラジオ/テレビ放送業界のIPTVをめぐる主導権争いが一時激しさを増したが、7月には双方が協力して「IPTV共同実験室」を設けてIPTV商用テスト網を立ち上げるなど、共同で市場開拓を始めている。
通信と放送の融合におけるIPTV運営方法
中国では上述の通り、通信と放送の融合が活発に展開される気配が高まっている。コンテンツや端末、ネットワーク、事業者の事業領域などの各側面において、通信と放送の境界線が崩れ、電気通信業界とラジオ/テレビ放送業界双方の協力が進められている。
各地のテレビ/ラジオ放送局と電気通信事業者(ISP含む)は相次いでIPTVテスト放送を開始している。テレビ放送への業務拡大を図るチャイナテレコムが上海メディアグループと提携してIPTVの研究を進める一方で、チャイナネットコムはインターネット通信大手の電訊盈科(PCCW:李沢楷--Richard Li--が率いる通信企業。2000年にはケーブル & ワイアレス香港テレコムを買収したことで話題になった)と合弁会社を設立して、IPTV市場に進出するなど、各社入り乱れて複雑な業務提携を行い、IPTV市場での覇権を狙っている。
IPTV業界においては通信業界と広電総局の勢力関係が拮抗している。そのため、IPTVサービスで電気通信事業者とテレビ/ラジオ放送局が提携する場合、通信事業者がサービスを主導するケースと放送局が主導するケースの2通りがある。
■電気通信事業者主導型
各省、市のテレビ/ラジオ放送局は、資金や人員、営業ノウハウ、ネットインフラの運営経験などが不足しているため、地元の電気通信事業者と協力することに積極的である。テレビ/ラジオ放送局と組んだ電気通信事業者は、ネットインフラの運営や顧客維持、市場開拓、集金代行など、幅広い業務を担当する。一方、地元のテレビ/ラジオ放送局の果たす役割は、IPTV許可書を取得することと番組コンテンツを提供することだ。こうしたケースでは、電気通信事業者の果たす役割が大きい。
■テレビ/ラジオ放送局主導型
その一方で、大手のテレビ/ラジオ放送局はIPTVの許可書を取得しやすいほか、映画の輸入/作成に関するノウハウや番組の素材を持っていたり、人材資源などの経済力に優れている。つまり、大手の放送局は、資金やコンテンツの面を見る限り、独自にIPTV事業を展開できるのである。そのため、放送局は電気通信事業者と組んでも、ブロードバンドの維持/管理といった技術的分野だけを相手先に依頼することになる。このような提携は、テレビ/ラジオ放送局の役割が大きい。
専門家は、短期間でIPTVを普及させるには、テレビ/ラジオ放送局主導型より電気通信事業者主導型のサービスを展開する方がよいと分析する。その理由として、電気通信事業者がすでに、インターネットユーザーを対象にゲーム、ネット映画、チャットなどのブロードバンドサービスを提供しており、利用者を獲得していることが挙げられる。一方、従来のテレビ放送に慣れ親しんできた人々は、IPTVという特殊な形態で提供されるサービスにまだ慣れていない。そのため、テレビ/ラジオ放送局主導型でIPTV市場に参入するケースでは、放送局側が、少なくとも最初の2年間は大量の人材や物資、資金を投入しなければならないと言われている。とは言え、IPTVに必要なコンテンツと保有しているのも、許可証を取得しやすいのも放送局の方だ。こうした背景から、テレビ/ラジオ放送局は許可証の取得のしやすさをアピールして、電気通信事業者のIPTV業務展開をコントロールしているのが実状である。このように、テレビ/ラジオ放送局と電気通信事業者は、それぞれの強みや弱みを補完し合いながら協力している。
今後も、IPTVの適切な運営方法をめぐっては、電信法などの関係法令が整備される状況をみながら、電気通信事業者と放送局の双方が試行錯誤し、研究を進めていくことになるだろう。
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