有害なコピー防止技術削除で罪を問われる米著作権法の怪

Declan McCullagha(CNET News.com)2005年11月11日 14時23分

 ソニーBMG(以下、ソニー)は、一部のCDにコピー防止技術を導入し、PCでの再生時に、検知不可能なユーティリティツールがMicrosoft Windowsに組み込まれるようにしたとして、プログラマやネットユーザーから集中砲火を浴びた。そしていま、弁護士も同社に狙いを定めている。サンフランシスコの弁護士事務所、Green Wellingのパートナーを務めるRobert Greenは、ソニーに対する集団代表訴訟を起こす準備を進めていると言っている。

 「われわれは現在もこの問題の真相を調べており、さまざまな人々から実際にどんなことが起こったかを聞いている」とGreenは米国時間4日に語った。カリフォルニア州法ではコピー防止付きCDを音楽店で販売する際、購入者に対してスパイウェアに似たユーティリティツールがパソコンのハードディスクに埋め込まれることを知らせなくてはならないとされており、Greenはこの法律を楯に訴訟を起こす計画をたてている。

 先週のこの騒ぎは、Mark RussinovichというWindowsプログラマ兼ライターが、ソニーBMGから出ている「Get Right with the Man」というCDの再生中に、自分のコンピュータ上で怪しいプロセスが走っていたり、マシンのなかに隠しファイルが存在していることを突き止め、それをネット上で公表したことに端を発している。その後、これらがソニーBMGのデジタル権利管理技術の一部であり、違法コピーの防止用に設計されたものであることが判明した。

 ソニー側は若干譲歩し、この隠しファイルを識別可能にする手段を公表した。しかし、このツールを削除したい顧客はいまだに助けを呼ばなければならない。

 さらに、ソニーによるこの措置は手遅れで、もはや同社は訴訟を免れないかもしれない。イリノイ州で先ごろ争われた「Soleto 対 DirectRevenue」という訴訟では、弁護士らがソニーに対して使うと思われる拘束力のない判例が下された。

 この訴訟では、DirectRevenueが、ユーザーから正規の許可を受けないままWindowsコンピュータにスパイウェアをインストールしたとして訴えられた。米連邦地裁のRobert Gettleman判事は、不法侵入、イリノイ州法で定める消費者相手の詐欺行為、過失、そしてコンピュータの改ざんなどを理由にDirectRevenueを訴えることが可能だとの見方を示した。

 さらに、カリフォルニア州のスパイウェア関連の法律には、「特定のタイプのコンテンツを開く/見る/再生するには、『あるソフトウェアコンポーネントをインストール』する必要があると主張して、コンピュータユーザーにそれをインストールするように仕向けることは認められない」とするものがある。

 これはつまり、ソニーは2重に責任を問われる可能性があるということだ。同社のWindowsソフトウェアは音楽再生にはほとんど必要がない--同社のCDはMacintoshや昔ながらのCDプレイヤーでも、きちんと再生できる。

 その一方で、この問題に関しては、ほかに10あまりの州が似通った(ただし、それぞれ言葉遣いが少しずつ異なる)法律の制定を検討しており、また連邦議会でも同様の動きが見られる。

DMCAの問題点

 だが、おかしなことに、法的な問題に直面して頭を抱える可能性があるのは、何もソニーに限らない。自分のコンピュータからソニーのコピー防止用プログラムを削除しようとする者のほうも、法律に触れる可能性がある。

 これは、デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act:DMCA)の第1201条で、コピー防止技術を回避する行為が禁じられているためだ。

 「ソニーのコピー防止技術を回避する行為がDMCAに違反することはかなり明白だ思う」とコロンビア大学で著作権法を教えるTim Wu教授は言う(DMCAに違反すると、罰金を科されたり、差し止め命令を受けたり、コンピュータを没収されたり、さらには刑事罰を言い渡されたりすることもあり得る)

 Wu教授によると、連邦控訴裁が2004年、ガレージのドア開閉装置をめぐる裁判で、著作権に違反する行為は行われておらず、従ってDMCAの違反も生じていないとする判決を下していたことから、今回の件でもユーザーが罪を問われることにはならない可能性があるという。ただし、別の連邦控訴裁の判決では、DVDに搭載されたコピー防止技術を回避する行為に異議を唱えており、おそらくこちらのほうが共通点も多いだろう。

奇妙な結末

 ここまで読み進んできて、おそらく頭がクラクラしているのではないだろうか。ソニーと哀れな顧客の両方が、同時に法律的に危うい立場に立たされる可能性があるというのは、なんともおかしな話だ。

 上記の違法行為について、いくつかの州法や連邦法などに言及してきたことで、1つの点が明らかになったはずだ。それは、米国の法律システムが企業や個人を攻撃する武器としてあまりにも頻繁に使われているということだ。これらの企業や個人には、存在する法律をすべて遵守することなど叶わない。そして、起業家は製品を開発する代わりに法律事務所を雇って利益を稼いでいる。有罪か無罪かを判断するのに、技術的な細かい点に頼ることがあまりに多く、それに比べるとある行動が生来的に正しいか否かが問われることは少ない。

 どうしてこんなことになっているのか。Manhattan InstituteのフェローであるWalter OlsonがOverLawyered.comに掲載した論文によると、米国の法律システムは訴訟を助長するような仕組みになっているという。訴えるのは簡単で、却下するのは難しい。さらに、政治家に注目が集まるのは、新しい法案を成立させた時であり、それを廃案にした時ではない。第1次ブッシュ政権の間だけでも、官報が毎年5万5000から7万ページずつ増えている事を考えると、驚くべきことではない。

 1999年に起こされたある集団代表訴訟は、一見したところ、たばこメーカーに対して航空会社の客室乗務員らが起こしたもののようだった。だが、この訴訟で和解が成立しても、原告の客室乗務員らは一銭も受け取らなかった。その代わり、弁護士らの懐には4900万ドルもの大金が転がり込んだ。また、Microsoftの独禁法違反をめぐる司法省との裁判が終わった後に、いくつもの民事訴訟が起こされたが、結局消費者にはたいした恩恵はもたらされなかった。しかし、これに関与した弁護士らは巨額の報酬を受け取った。

 無論、他の人間に害を及ぼす悪質な行為は違法とすべきだだろう。しかし、誰も理解したいとは思わず、ましてや従おうという気持ちにもなれないような、役人の書いた何千ページにもなる文書よりも、いくつかの基本的なルール--たとえば「人のものを盗むな」とか「人をだますな」といったもの--があるという考えは、いったいどうなってしまったのだろうか。

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