ハリウッドの映画会社は、DVD依存症とでも呼ぶべき症状に陥っている。DVDは巨大な収入源である一方、長期的に見ると映画会社の財務体質を大幅に悪化させる可能性もある。業界各社の幹部らは、この迫りくる問題を人前では口にしないが、実は密かにそのことを考えている。
米国の映画やテレビ番組の大半を制作するハリウッドの各スタジオは、業界がナップスターのようなファイル交換の餌食にされてしまうのではないかと心配している。DVDの大量コピー防止機能は、CDの場合とほとんど変わらない--つまり、存在しないも同然の状態だ。ますます多くの人たちが、音楽と同じように映画の交換も始めている。ただし、その数は音楽に比べればまだ微々たるものではある。
だからといって、映画会社が安閑としていられるわけではない。米国で映像コンテンツの共有が音楽ファイルの交換ほど広く行われていないのは、この国がブロードバンドインフラの普及に関して二流クラスに甘んじているからに過ぎない(米国の通信業界がこのインフラを自慢に思っているのは妙なことだ)。
実のところ、米国の電話会社やケーブル会社が配備している古い通信インフラは、あまりにも回線速度が遅いため、映画をダウンロ―ドするのに数時間もかかってしまう。映画会社は、こうした米国のブロードバンドプロバイダの質の低さにあぐらをかいていてはいけない。米国のブロードバンドインフラにしても、いつかは韓国やシンガポールといったブロードバンド超大国に追いつくときがくる。その時には、100メガビット/秒の光ファイバが各家庭に普及し、高画質の映画をものの数分でダウンロードできるようになる。そうなれば、Blu-RayやHD DVDといったフォーマットの違いなど誰も気にしなくなるだろう。
映画がファイル交換ツールによって共有されない未来を思い描くことは可能だが、それにはエンターテインメント産業向けのこれまでとは異なる流通システムが必要になる。つまり、映像コンテンツを消費者に届けるために、現在のDVDディスクに代わって、銅線と光ファイバを使用した配信システムが必要になるのだ。
映画を含むすべての映像コンテンツをオンデマンドで安く配信するテクノロジーはすでに実現されている。シリーズもののテレビ番組やニュース、スポーツやその他のライブイベントなどを、視聴者がいつでも観たいときに届けることも可能だ。こうしたいわゆるEDO(Everything On Demand)モデルは何年も前から提唱されているが、コスト的な理由で大半は実現されなかった。しかし、このモデルを実現する装置も今なら十分に採算ベースに乗る。1年間毎日24時間、300チャネル分のコンテンツを保存/配信するために必要な機器を利用者に配っても、数カ月分でコストを回収することが可能だ。
万一、エンターテインメントプロバイダや小売業界の各社がEDOを提供したくないと思っても、消費者にとってDVDよりもはるかに魅力的なデジタル配信システムがすでに存在している。AppleはiPodとiTunesを使って、デジタル音楽の世界に革命をもたらしたが、映画やテレビ番組にもそれと似た製品やサービスを提供することは可能だ(実際、一部ではすでに提供されている)。
どちらの配信システムも、DVDや現行のケーブルテレビよりも優れているため、消費者はDVDディスクを喜んで捨ててしまうだろう(かつて、ビニール盤のレコードやVHSビデオテープやカメラのフィルムを捨てたときと同じように)。こうしてDVDという媒体自体が流通しなくなれば、ファイル交換ユーザーが借りてきた映画ソフトをコピーしてネット上で共有することも不可能になる。
いつでも観たいときにすぐに映像を観られる技術が安く実現可能になったが、これは電子番組ガイドの代わりにテレビの画面に映像コンテンツのカタログが表示されるようになるということだろうか。
映画業界が音楽業界よりもいくらかでも賢ければ、21世紀になる前に、光ファイバが各家庭に普及し、高画質の映画を数分で落とせるような仕組みを構築していただろう。しかし、EODの実現を待つ間、ハードディスクレコーダーの購入を控える必要もない。なぜなら、エンターテインメント業界は、米国の他の業界と同じく、完全に崩壊してしまうまでは同じビジネスモデルにしがみつきたがるからだ。おそらく各社は、弁護士や政治家に頼って、消費者を犠牲にしてでも(DVDを売って)利益を確保しようとするだろう。
しかし映画会社は、消費者やIT企業を敵に回す代わりに、両者をハッピーにする(コンテンツの配布コストの削減と収入の増加を同時に実現する)ことができる。いつでもすぐに見ることができ、すべての作品にアクセスでき、外に持ち出せるとなれば、間違いなく消費者の共感を呼ぶだろう。彼らはDVDの山の喜んで捨て、数台のハードディスクから新しいセットトップボックスを購入するだろう。利益は増え、品揃えも広がり、無駄な在庫は消えて(「Shrek 2」のように700万枚もの不良在庫を抱えることもなくなる)、小売業者とコンテンツ所有者はどちらもハッピーになる。IT企業も新世代の装置を販売するようになるだろう。
DVD依存体質という麻薬のような厄介な問題を克服すれば、まさにハリウッド流のハーピーエンディングが待っている。
筆者略歴
Ken Goldsholl
Prismiq最高経営責任者(CEO)。同社のネットワーキング製品「Prismiq Media Player」を使えば、テレビやステレオなどをインターネットに接続でき、家庭のPC内にあるメディアファイルをこれらの機器で再生できるようになる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス