プリンストン大学やユタ大学を含む10校の大学では、秋の新学期から、今までの重いハードカバーに代わる新たな形の教科書を学生に提供しようとしている。
これらの大学では、たとえばダンテの神曲「地獄篇」や「Essentials of Psychology」を購入した学生に、「デジタル版の書籍をダウンロードすれば、購入価格の33%を割り引く」と書かれた小さなカードを配布する。
これは、何百ドルもの書籍代に頭を抱える貧乏学生にとっては、悪い取り引きではない。しかし、この取り引きには条件がある。新たに導入される電子書籍プログラムは、書籍の使用方法について厳格なガイドラインを設けられており、ダウンロードした書籍を読むコンピュータが1台に限定されるほか、購入後5カ月を過ぎると書籍を読めなくなるという閲覧期限が設定されている。
この電子書籍のトライアルプログラムに参加している各大学の書店では、一部の学生がこれらの制限を問題視すると予想しているが、それでもコンピュータ活用度の高い最近の学生にデジタル書籍という選択肢を与え、その過程で彼らの書籍代の節約に役立つことに積極的な姿勢を示している。
プリンストン大学のマーケティングディレクターVirginia Franceは「どんな反応が返ってくるのかまだわからない」と言いながらも、「これは時を経て進化していく類のものだ。それでも、これは書店を巻き込んだ今までにないプログラムであり、われわれとしては当然これが良いアイデアだと考えている」と述べている。
この新しいプログラムは、教育向け電子出版の企画としては、これまでで最も進んだものの1つだ。そして、学生が電子書籍の手軽さを手に入れるために、この種の不都合を受け入れるかどうかを知るための重要な試金石となる可能性がある。
実際のところ、これまで電子書籍は、価格がかなり安い場合であっても、あまり読者に受け入れられなかった。批評家によれば、今のところほとんどの消費者は、書籍ほど長い文章をオンラインで読みたいとは思っておらず、電子書籍端末は、大衆市場に受け入れられるには高すぎるという。
International Digital Publishing Forumによると、電子書籍が出版市場全体に占める割合は非常に小さく、入手可能な最新データである2004年第3四半期をとってみても、その小売販売額は320万ドルにすぎないという。
音楽や映画の場合と同様、著作権保護という問題も存在している。書籍は、音楽や映画ほど広くオンライン交換が行われているわけではないが、ファイル交換ネットワークやIRC(Internet Relay Chat)を通じてダウンロードできる書籍は何百、あるいは何千冊にも上るはずだ。
野放しにコピーされることを恐れた出版社は、一般にはほとんど馴染みのないフォーマットや、AdobeのAcrobatやMicrosoftのReaderのようなコピー制限機能のついたフォーマットで書籍を出版している。
教科書出版業界はここ数年、電子書籍販売に向かって動いてきた。しかし、そういった動きの大半は、出版社から学生への直接販売という形態で行われてきており、これが全体的な売上に占める割合は小さい。
今年秋の新学期から始まるトライアルプロジェクトは、複数の出版社と、米国最大の教科書卸売業社の1つであるMBS Textbook Exchangeを巻き込んで行われる初のケースとなる。参加する出版社のなかには、McGraw-Hill Higher Education、Houghton Mifflin、John Wiley & Sons、Thomson Learning、Sage Publicationsなどの名前も挙がっている。
MBS Textbook Exchangeは、卸売業社として本の流通にかかわるだけではなく、在庫および経理サービスを提供している。同社は、電子書籍販売が伸びるにつれて、同社とその顧客が新たな販売形態から排除されるのを回避したいと考え、出版社と一部の書店からの意見を参考にして前述の割引カードを使うシステムを構築した。
このプログラムでは、学生が授業用書籍の購入に際し、新品まはた中古という選択肢に加え、購入価格の33%を割り引くというカードの利用も可能になる。このカードは、初期状態ではどの書籍にも関連づけられていないが、書店のレジで特定の書籍の情報を記録してもらえば、 学生はその書籍をAdobeのAcrobatフォーマットで1台のコンピュータにダウンロードできるようになる。
このトライアル期間中、各書店が販売する電子書籍は平均で30点になる。これらの電子書籍は、いかに広く利用されるかと、出版社がデジタル著作権を保持しているかどうかという点に基づいて選ばれたものだが、Cohenは今後さらに書籍点数を増やしていく予定だと説明した。
教科書のデジタル版にはいくつかの長所がある。たとえば、内容の検索やソフトウェアによる読み上げ機能のほか、ハイライトやブックマークの機能も考えられる。
これらの書籍は150日で期限切れとなるが、しかし出版社側で、たとえば数学期にわたって利用できるように設定を変えることも可能だ。また、全ページを1度に印刷することができないなど、印刷機能に関してもいくらかの制限事項がある。
こうした使用条件は、大手出版社との交渉の末に定められたものだが、同プログラムがさらに拡大した際には変更される可能性もある。しかし、いまのところ、こうした制限があるために、学生が学期末に使用済みの教科書を大学書店に売却して、少しでもお金を節約するという手は使えないとCohenは説明している。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ
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