日韓中ハイテクビジネス・フォーラム2005開催--各国の知的財産権保護戦略

奥隆朗(編集部)2005年05月11日 16時47分

 2005年4月26〜27日にかけて、日韓中のハイテク企業の交流を深めることを目的としたイベント「日韓中ハイテクビジネス・フォーラム2005」が開催された。3カ国の企業や政府関係者が会した同イベントでは、各国の産業振興政策や知的財産権の問題解決策、ビジネスインキュベーション振興への取り組みについての基調講演が開催された。加えて、情報通信、ライフサイエンス、エネルギー・環境の3分野における分科会では、各国企業のプレゼンテーションや実際の商談が行われるものとなった。ここでは知的財産権問題に関する基調講演をレポートする。

特許保持のコストを積極的に利益に転換

 知的財産権の問題解決策に関する基調講演では、最初に内閣官房 知的財産戦略推進事務局 事務局長の荒井 寿光氏が、日本の知的財産権保護戦略を語った。同氏は、特許やノウハウに加えて、デザインやブランド、そして著作権のすべてが企業にとっての知的財産であり、守るべき存在であることを強調。日本では、1990年と2003年を比較すると製品の輸出が28%程度しか伸びていないのに対して、知財を中心とした技術の輸出は4倍近い伸びに達しているという。

内閣官房 知的財産戦略推進事務局 事務局長の荒井 寿光氏

 日本政府は、こうした中で2002年に知的財産基本法を制定した後、2003年に知的財産戦略本部を設置。発明・創作の分野で能力を発揮し、国際競争力の強化を図るべく、3カ年計画で知的財産戦略を実施してきた。荒井氏は「知的財産戦略の推進のためには、創造と保護、それを実際の製品開発へとつなげるためのサイクルが円滑に回ることが重要になるという。

 このような好循環を実現するため、日本政府は2005年より知的財産に関する事件を専門的に取り扱う「知的財産高等裁判所」を設置。ハイテクの知的財産について、国際的な視野を持ちながら、法的な保護や紛争の早期解決に取り組むことで、国際競争力の向上を実現していく。

 また、現在では特許の審査に26カ月の待ち時間を必要とするものを、2013年には11カ月に、いずれは0カ月に短縮するために特許審査迅速化法を制定。期限付きの審査官の大量採用や、専門的な技術知識を有する人材の活用によってこれを実施していく計画を立てている。このほか、大学への知的財産本部や、ハイテク分野に強い法科大学院の設置によって、知的財産に関する国家全体の底上げを図っていることを説明した。

 同氏は、特許を活用したライセンス収益やクロスライセンスによる特許の相互活用を目的とした「ライセンスプール」の存在を提示し、企業間連携の重要性などを示唆した。そして最後に、「これまでのように特許の保持にコストを費やすのではなく、特許を活用することでプロフィットを生み出さなくてはならない」という点を強調し、講演を終えた。

クロスライセンスやM&Aを特許戦略に活用

 韓国特許庁 企画管理局 局長のKwan Young Soo氏は、ビジネスにおける知的財産保護の重要性について講演。韓国産業の中心が、第一次産業からITやバイオ、ナノ、エコロジー、宇宙、文化など知財を中心としたものへとシフトしていることを説明した。

 その中で「国の経済力強化のためには、特許経済の拡大に伴う、特許保護範囲の拡大が不可欠である」と言う。Soo氏は、米マイクロソフトが特許訴訟に敗訴して莫大な金額を支払ったことや、米クアルコム社や米IBMが特許のロイヤリティやライセンス販売で莫大な利益を得ていること、そして米コダックが米ポラロイドとの訴訟に負けて、賠償金だけでなく生産工場の閉鎖など、ビジネスに大打撃を被ったことなどを例に挙げ、特許戦略の重要性を強調した。

 Soo氏は、特許戦略を実施する上では、研究開発の段階から、必ず他社の特許侵害をしていないかどうかを確認することや、特許管理の専門組織を作成すること、製品公開の前に特許を取得すること、特許を取得した社員のロイヤリティを重視することなどが重要になると提言。

 また、「ビジネスの核となる中核特許とそうでない非中核特許に分類し、コスト削減と利益拡大のためには、非中核特許の廃棄や他社への販売も必要だ」と言う。加えて、「今後は競合とのクロスライセンスの活用や、競合に近い技術を持っている企業をM&Aで吸収していくなどの戦略によって、特許の訴訟リスクを低減していくことが必要である」とした。

 最後に講演した中国科学技術部 知的財産センター 課長のYang Lin-cun氏は、中国の技術革新と知的財産保護について説明。同氏は、「改革以前の中国には、知識財産は全て共有のものであるという考え方から、イノベーションが存在しなかったが、現在の中国企業は十分なイノベーション力を持っている」と解説した。ただ、法制度の見直しや知的財産保護の考え方は進展しているものの、先進国との間にはギャップが存在することも認めた。

 さらにLin-cun氏は、現在の中国企業の多くが第一次産業であることや、R&Dを行わずに、他国の企業のライセンスを利用してビジネスを展開している企業も多く存在するが、今後はその流れが変化すると見ている。現在中国は、知的財産に関する法制度の整備に対して積極的に取り組んでおり、WTOなどを最後にほぼ全ての国際条約に加盟した。それに伴い、中国政府の特許審査能力が向上すると共に、違法ライセンスの取り締まりが強化された。そして、これまで外資系企業が大半を占めていた中国での特許取得件数が、2003年には中国企業が外資を上回ったことなどを示し、すでに結果として現れていることを示した。

 最後にLin-cun氏は、今後、中国の知的財産戦略は加速していくと強調。先進国とのギャップから、不正ライセンスなどの問題も少なからず存在するが、中国は生産と販売の両面でリスクよりもチャンスの大きい市場であることをアピールし、中国市場への積極的な投資を促していた。

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