第2回:常識が通用しない携帯電話の2大キャリア

田中祐介(フラクタリスト)2005年04月13日 10時00分

世界1位と3位のキャリアが誕生

 中国の携帯電話ビジネスは、1987年に中国の政府機関である郵電局の管理下で、独占的国営事業として始まった。この国営事業は、1995年に国営企業として創設されたチャイナテレコム(中国電信)の管理下に移り、さらに1999年にチャイナテレコムから独立企業として分離、独立して設立されたチャイナモバイル(中国移動)がその事業を一手に引き受けた。

携帯電話販売店にあるパナソニックのコーナー

 チャイナモバイルは、GSMシステムの携帯電話サービスを全国で提供し、この分野で市場を独占した。現在でも同社の市場シェアは65%以上に上る。中国市場で最もARPU(Average Revenue Per User、加入者1人あたりの売上高)の高い加入者のほとんどがチャイナモバイルのユーザーであるため、チャイナモバイルは携帯端末メーカーやコンテンツプロバイダに対しても強い影響力を持っている。

 携帯電話事業しかないチャイナモバイルに対し、もうひとつの大手携帯電話通信キャリアであるチャイナユニコム(中国聯通)は、固定電話と長距離電話事業も手がける総合通信キャリアだ。チャイナユニコムは、1994年に中国政府機関の電子工業部や電力部、鉄道部および13社の国営企業によって設立された。GSMシステムの携帯電話サービスの他に、2002年よりCDMAシステムのサービスも始めている。

 既にGSMシステムを提供するチャイナユニコムが並行してCDMAシステムを導入したのは、よりよいネットワークでハイエンドユーザーをターゲットとするためだと考えられるが、同時に米国政府の圧力によるものともいわれている。サービス開始当初の目的はともかく、2004年12月現在のチャイナユニコムのCDMA加入者は既に2700万人を越え、GSM加入者の9300万人と合計すると、チャイナモバイル、ボーダフォンに次いで世界第3位のキャリアとなる。

チャイナユニコムの決断は日本で常識

街角にあるノキアのポスター

 チャイナユニコムのCDMAサービスの出足しは決して順調ではなかった。これまでのCDMAシステムでは、電話番号などの情報が携帯端末に記憶され、キャリアが端末を購入して市場に販売する方式が採られていた。だが、同社のCDMAシステムはSIMカードを導入し、GSMシステムと同様に端末メーカーが代理店を通じて端末を販売する方式をとっている。中国のCDMA市場に参入した海外端末メーカーのほとんどはこうした方式に経験がなかったため、2002年のサービス開始時には、端末のラインアップ不足や端末販売チャンネルの未整備など様々な問題に悩まされて混乱が続いた。

 その事態を収拾するため、ユニコムは端末メーカーから端末を買い上げ、新規契約を前提にインセンティブを付け、代理店に対して破格の値段で端末を売り出した。日本ではごく普通に行われているシステムだが、中国の携帯通信キャリアが自らインセンティブを出して端末を販売することはそれまでにはなかった。ユニコムの決断は、すぐにCDMA加入者数の増加に反映された。

 しかし、破格値で端末を購入したのはユニコムが当初狙っていたハイエンドユーザーではなかったため、「GSMの上位サービス」という戦略目的は達成できていない。また、多額のインセンティブがユニコムの財務や業績に負担となったため、同社はハイエンドユーザーを獲得すべく、CDMAとGMSの両SIMカードが使える「世界風」シリーズの端末を2004年に発売した。

北京の繁華街にある携帯端末メーカー(シーメンス)の看板

 GSMシステムの携帯電話サービスが世界中のほとんどの国で提供されているのに対し、CDMAシステムはそれ程普及していない。海外への出張や旅行が多い中国のハイエンドユーザーにとって、CDMAは国際ローミングが提供されている地域が少ないうえに使い勝手が悪い。「世界風」端末は、GSMとCDMAの両ネットワークを同時に有するユニコムならではの端末で、まさにハイエンドユーザーをターゲットとする商品である。

 ただ、2004年に入ってからはユニコムのCDMA加入者数の成長が計画通りには進んでいない。こうした状況に対して同社は、ローエンドユーザーの囲い込みも始めている。2005年4月より、販売価格1000人民元(約1万3000円)を切るCDMA端末300万台を市場投入したのだ。中国の携帯端末市場では、販売台数の50%以上が1500人民元以下のローエンド機種となっているが、ユニコムはデータ通信サービスを売りにしていたため、さまざまな機能を端末に搭載して端末価格が2000人民元(約2万6000円)以上となっていた。「世界風」端末もすべてが4000人民元以上で、5000人民元以上のモデルもあるほどだ。低価格端末の市場投入で、同社は小数派のハイエンドユーザーより多数派のローエンドユーザーを狙い、一気に市場シェアの拡大を図る方針だ。

仰天の人事異動もあたりまえ

 チャイナモバイルとチャイナユニコムは、共に現在は海外で株式を上場しているが、筆頭株主は依然として中国政府である。両社がまだ国営企業であることは、2004年11月1日に発表された中国政府の指示によるトップの人事異動からも伺える。

 具体的には、元チャイナモバイルのCEOだった王暁初氏がチャイナテレコムのCEOへ就任し、元チャイナユニコムのCEOである王建宙氏がチャイナモバイルのCEOへと就任した。これは、日本で例えるならばKDDIの会長がNTTドコモの会長へ就任する状況と同じだ。また、チャイナテレコムの総裁であった常小兵氏は、チャイナユニコムの取締役会長に就任した。まさに社会主義国の計画経済に市場経済を導入した「計画的市場経済」の中国でしか考えられない出来事だ。このトップの人事異動からわかるように、中国政府は中国の携帯電話市場において依然として絶大な影響力を持っている。近々通信キャリア間の更なる事業統合や分離の噂があり、年内には中国の3Gサービスのスタート時期も明らかになる予定とあって、しばらく中国政府の動向から目が離せそうにない。

「中国ケータイビジネス最前線」第3回は、4月20日掲載予定です


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