先月、Microsoft会長Bill Gatesはウェブの将来にとって重要な2つの発表を行った。
1つはMicrosoft製のソフトウェアと他社製のソフトウエアの互換性実現に取り組むということ、もう一つはIEの新バージョンInternet Explorer(IE) 7をリリースする予定であるということだ。
これは同社が、IE 7と他のブラウザの互換性を実現するという意味だろうか。IE 7では、同社がウェブ標準の実現に真剣に取り組むということだろうか。
いや、そう簡単に信じてはいけない。Microsoftが他社製ブラウザとの互換性を約束しておきながら結局実現できなかったのは、1度や2度ではない。Microsoftには、この10年の間に、ウェブ上で互換性を確立する機会が何度かあった。私はそれを箇条書きにして、Gates宛に電子メールを送ったことがある(その内容はニュースサイト「The Register」に掲載されている)。
Microsoftは、IEで主要なウェブ標準を完全にサポートすると、過去に何度も約束してきた。同社は1998年、World Wide Web Consortium (W3C)との関係について次のような発言をしている。
「MicrosoftはW3Cと協力してHTMLとCSS(Cascading Style Sheet)の標準化に深く関わってきた。われわれは、商用ソフトとして初めてHTML4に対応し、部分的ではあったがCSSを実装した最初のベンダーになった。さらには、CSSをLevel2に引き上げるために多大な努力を重ねてきた。現在も、ウェブ標準に関するW3Cの勧告を完全に実装するという約束を果たすべく努力している」
しかし、Microsoftがこの約束を守ることはなかった。CSS2はIE 6でも、いまだにサポートされていない。結果として、ブラウザ間の互換性は実現されないままになっている。
2002年、MicrosoftはWeb Core Fontsイニシアチブを終了すると宣言した。ここで提供されたフォントは専門家が設計したものであり、ウェブデザイナーの共通基盤として機能していた。こうしたフォントが利用できるようになったのはMicrosoftの功績だが、デザイナーたちにとって必須のアイテムになったとたんに同社はなぜ手を引いてしまったのだろうか。
Microsoft製のウェブサーバは、すべてのブラウザに対して同じページを返すようにはなっていない。ブラウザの種類に応じて異なるページを返すように設定されている。たとえば、Operaからのアクセスであると認識すると、IEに返すのとは異なるスタイルシートを返す。このため、OperaはIEと異なる方法でページのレンダリングを行っている。
ブラウザのリトマス試験
IE 7で再度約束を破られることがないように、ウェブコミュニティはMicrosoftに挑戦状を突きつけている。デザイナーが切望している機能(要素の固定位置指定など)を積極的に使用したAcid2というテストページを作成して、そうした機能をブラウザが実現しているかどうかをチェックしようというわけだ。
要素の固定位置指定は、上述のようにMicrosoft自身が「深く関わってきた」と述べる、W3CのCSS2勧告にも盛り込まれている。しかし、多くのブラウザがこの機能を何年も前にサポートしているにも関わらず、IEだけは、いまだにサポートしていない。
IEで部分的にサポートされている機能もあるが、そうした機能を使うとバグが頻発することになる。すべてのソフトウェアにはバグがあり、ソフトウェア開発作業の大半はバグをつぶす作業である。しかし、MicrosoftはIEのバグを何年にも渡って放置しているため、重要な機能が使えないままになっている。
Microsoftは今、ブラウザ間の互換性を確立するという約束を遅ればせながら果たすことで名誉を挽回する機会を与えられている。同社がやるべきことはAcid2テストに合格してからIE 7を出荷すること、それだけである。
Acid2テストは、ウェブ標準の確立を目指して活動してきた草の根団体であるWeb Standards Projectによって提供される。Web Standards Projectは、公平性という点でウェブコミュニティで絶対的に信頼されており、この団体が提供しているというだけでAcid2はすべてのベンダーに対して平等であると断言できる。IE以外のブラウザのバグも見つけ出してくれるだろう。
Acid2テストは、名前から分かるように、ウェブブラウザ向けに考案された2つ目のリトマス試験である。最初のリトマス試験は、1997年にTodd Fahrnerによって作成され、各ブラウザのCSS1実装の互換性を確保するのに役立った。こうしたリトマス試験があると、ベンダー各社は実装の問題点を修正せざるをえない。そうしないと苦しい立場に追い込まれる。この試験は、どのブラウザが不合格なのかテストする側が簡単に分かるように作成されている。
Microsoftでさえ、このリトマス試験に合格することを確認してからIE 6を出荷している。この試験のおかげで、CSSが使えるようになり、ウェブサイトの作成方法も変わった。
そして今、ウェブデザイナーは次の段階に進もうとしている。Acid2は、Microsoft自身が切望している機能をテストするものだ。Microsoftは互換性をサポートするだろうか。今度こそ、約束を果たすのだろうか。
IE 7の開発者に対して私は次のようい言いたい。
あなたたちは優秀で才能に恵まれている。ウェブ標準に関しても誰よりもよく知っている。これまでも、あなたたちにはIEのバグを修正する能力はあったが、会社がそうさせてくれなかった。今こそ、名誉挽回のチャンスである。このチャンスを無駄にしないでほしい。Acid2がリリースされたらダウンロードして、何か不公平な点があったら報告してほしい。早くリリースしろという上からの圧力に屈せず、きちんと時間をとってテストしてほしい。ページの表示方法をいまさら変更すると既存のページが正しく表示されなくなってしまうと上司から言われたら、標準準拠モードと後方互換モードとを切り替える方法があると言えばよい。
他社製のブラウザは既に標準に準拠していることを彼らに教えてやってほしい。今、ウェブコミュニティ標準に準拠しないブラウザをリリースすると自らを苦しい立場に追い込むことになること、Mozilla FoundationのFirefox、AppleのSafari、Operaといったブラウザにシェアを奪われることになることを説明してやってほしい。
あなたたちがどのように行動するかは極めて重大である。正しい行動をすれば、ウェブコミュニティから感謝されるだろう。
一方、ユーザの皆さんにはこう言いたい。Microsoftは今、挑戦状を突きつけられている。そのことをMicrosoftに認識させるように多くの人たちが働きかければ、Microsoftは挑戦に応じるだろう。彼らに、われわれの挑戦を意識させようではないか。そして、IE 7がリリースされたら、何はさておき、次のサイトにアクセスして頂きたい。
筆者略歴
Hakon Wium Lie
Opera Software最高技術責任者
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」