ライブドアによるニッポン放送買収騒動によって、これまで手付かずになっていたM&Aに関連した様々な制度の不備が一度に浮き彫りになってきた。前回に続いて規制見直し案の動きを探った。
金融庁・東証は時間外取引の大量売買注文を規制へ
金融庁は、ライブドアが東京証券取引所の時間外取引でニッポン放送の株式を大量に取得したことに関連し、時間外取引が使い方次第で相対取引に類似した形態になることも考えられることから、TOB(株式公開買い付け)の規制対象とすべきかどうかを検討する必要があるとしている。そこで金融庁は、証券取引法の改正も視野に入れて規制導入の検討を進める方針を固め、改正案の作成に入っている。一方の東証は、会員の証券会社各社に対して、発行済み株式数の3分の1を超える株式を取得する大量の注文が入っても、時間外取引へ即座に取り次がないよう要請している。
証券取引法では、上場企業の株式保有比率が3分の1を超えるまで買い進める場合などは、既存株主に事前に購入価格を明示したうえで、相対取引で株式を買い付けるTOB制度の利用を義務付けている。不透明な取引や特定の株主だけに有利な取引を排除するためだ。ところが今回ライブドアは、取引所を通した市場内取引である時間外取引でニッポン放送の株式を購入し、同社の筆頭株主となった。時間外取引による株式の購入制限が決められていなかったためだ。
大量保有報告制度にも見直し論
また今回の買収劇では、上場企業の大株主に対して、その保有株式の開示を義務付ける株式の「大量保有報告制度(いわゆる5%ルール)」についての見直し論も浮上している。きっかけとなったのは、ニッポン放送株についてライブドアとフジテレビが争奪戦を展開する中で、もともとニッポン放送の大株主でキャスティングボードを握るとされた村上ファンド(MACアセットマネジメント)の2月末時点での保有株比率が、1月5日時点の18.57%(609万株)から3.44%(112万7800株)に減少したという大量保有報告が、特例によって3月15日まで公表されず、一部から市場の透明性を妨げるとの批判が出たためだ。
この5%ルールとは、上場企業の発行済み株式総数の5%以上を保有している株主は、保有することとなった日から5日営業以内に内閣総理大臣に「大量保有報告書」を提出しなくてはならないというものだ。さらに大量保有者は、その後保有割合が1%以上増加または減少した場合や、報告書の記載事項に変更が生じた場合には、変更のあった日から5日営業以内に内閣総理大臣に「変更報告書」を、また報告書の記載内容に誤りがあったり、記載が不十分だったりした場合には「訂正報告書」を提出しなくてはならない。大量の株式が特定の第三者に買い占められたような場合、株価が予想外の値動きをする可能性があることから、このような情報は投資家にとって重要情報であるためだ。
ところが、頻繁に売買を繰り返すファンドや証券会社などを対象に、事務作業の負担を軽減する目的で、開示は最大3カ月半以内に行えばよいという特例が設けられている。ただ、保有比率が2.5%以上変動したケースでは翌月の15日までの開示を義務付けている。今回、村上ファンドはこの規則に従ったことになる。ただしファンドの場合でも、保有比率が10%超えている場合は、ほかの株主への影響を配慮して、通常通りの5営業日以内の提出を義務付けている。
「こうした特例は透明性に欠ける」という声は個人投資家からは強いものの、頻繁に大量の株式を売買する証券会社や機関投資家からは「1%の変動で5営業日以内の開示では業務に支障をきたす」との声も多く、開示期間の短縮は一筋縄では解決しない問題だ。
外資による放送局への出資規制強化
総務省は、外資による放送局への出資規制を強化する方針で、電波法の改正案を今国会に提出する準備を進めている。現在は外資による直接的な出資を20%未満に制限しているものの、これまでなかった日本法人を介した間接的な出資も規制に加え、外資が実質的にも20%以上の議決権を握らないようにする案が有力となっている。
現行の電波法では、放送局に対する外資の持ち株比率が20%を超えると、放送免許取り消しの対象となるため、その制限を超える部分については名義の書き換えを拒否できることになっている。つまり、外資は配当を受け取れるものの、議決権は20%までしか行使できないことになっている。ただ、これまでは放送局を傘下に収める企業の株式を外資が取得する間接出資による支配には規制がなかった。
今回の場合、ライブドアがニッポン放送の株式を取得するために発行した転換社債型新株予約権付社債の引受先であるリーマン・ブラザーズ証券が、権利を行使して株式に転換した場合、リーマンがライブドアの筆頭株主となる。その結果、間接的にニッポン放送を支配する可能性も出てくることから、電波法を改正して間接出資についても規制を設けようというものだ。
また、日本民間放送連盟(民放連)会長である日枝久氏(フジテレビジョン会長)も17日の記者会見で、放送局への敵対的買収の対抗策を検討する業界横断のプロジェクトチーム「株式等経営戦略プロジェクト」を民放連内に設置したと発表した。メンバーは、在京テレビ局5社と文化放送の役員で構成される。敵対的買収が起きた際の対抗策を共同研究するほか、抜け道があったと指摘される証券取引法や商法、電波法の改正を政府に働き掛けていく。
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