ライブドア騒動でこれだけの「規制強化案」が浮上(上)

 ライブドアによるフジサンケイグループへの買収騒動は、3月期末を目前に控えて一段と目が離せない状況となってきた。この買収劇が幅広い関心を集めているのは、登場人物がIT業界の風雲児・堀江貴文ライブドア社長、国内有数のメディアグループであるフジサンケイグループであるというだけではない。これまで、日本では非常に遅れていたM&A(企業の合併・買収)に関する法整備などを含めた様々な対応策について改めて考えさせられるきっかけとなっているためだ。

 株式市場関係者からは「ライブドアの買収騒動に関して、その手法などについての見方は賛否両論に分かれているものの、上場企業でありながら“株式を上場している”ということに対してあまりにも無防備で対応が遅れていたフジサンケイグループを格好の“教材”として株式上場のなんたるかや、M&Aの仕組みや意味を広く国民に問いかけた功績は認めてもいいのではないか」との声も上がっている。

 そこで、ライブドアの買収攻勢によってどのような問題が浮き彫りになり、政府や東証などがその問題点に関してどう対応しようとしているのかを、今回と次回の2回にわたって探った。

外国株式を使う「三角合併」を1年間凍結

 今回の買収騒動に伴って、自民党などの議員から最も声高に警戒論が浮上したのが、M&Aの際に消滅会社の株主に対して払う対価として、新たに外国株や、現金、債券、不動産などを使用できるようにする点だった。外国企業にとっては、日本に子会社を設立して自社株を日本の子会社に移行し、それを対価として別の日本企業と合併させる「三角合併」が可能になる。

 従来、この合併対価の柔軟化は2006年に解禁することで進められていたが、施行を1年間凍結して2007年とする方針に変更された。これは、施行を先延ばしして、日本企業に対して新たな会社法案に盛り込まれる敵対的買収への防衛策を整備する猶予期間を与えようというものだ。

 具体的には、将来の敵対的買収を未然に防ぐため、新株予約権などを用いて買収者の議決権比率を強制的に引き下げる「ポイズンピル」(毒薬条項)の導入や、事前に友好的な株主に対して譲渡制限を付けたうえで、株主総会での拒否権を与える「黄金株」の発行が対応策となる。すでに、産業制御機器の製造を手掛けるジャスダック市場上場のニレコは、3月14日に国内では初めてこのポイズンピルの導入を発表した。3月31日時点の株主全員に、保有株数の2倍の新株予約権を無償で配布する。行使期間は6月16日から3年間で、権利行使できるのは持ち株比率20%以上の株主が現れたと取締役会が認識した場合とした。

 しかし、外国証券からは「また、日本お得意の“先送り病”が出てきた。この会社法の改正は何年も前から論議されて、ようやくグローバルスタンダードに追いつこうとしているもので、また1年先送りすることはナンセンスだ。政治家や企業経営者の普段の不勉強ぶりが露見しただけ」との厳しい見方も出ている。

東証が1株を100株にするなどの大幅株式分割に自粛要請

 東証は、大幅な株式分割に伴う株価の異常な急騰を避けるために指針を設け、CB(転換社債型新株予約権付社債)の発行後間もない企業には株式分割の自粛を求めている。

 そのきっかけは、ライブドアをはじめとした新興のIT関連企業などが、1株を100株にするという極端に大幅な株式分割を実施し、株価が一時的に大幅上昇(時価総額も大幅に増大)することを背景に、これを企業買収や資金調達に有利に活用したことに対して「行き過ぎ」との見方が出ているためだ。

 さらに、特に問題となっているのは、CBとの抱き合わせの大幅な株式分割だ。私募発行などで、あらかじめ特定の投資家がCBを引き受けたうえで株式分割を実施する。そのほかの一般株主が新株発行までの間、旧株の1単位株しか売れない一方で、分割後の株価上昇を想定して、CBの引き受け先となった株主だけがCBを株式に転換して売り抜けることが可能になるという不公平な構図が野放しになっているという指摘が相次いだためだ。東証は3月7日に鶴島琢夫社長名で、こうした大幅な株式分割を自粛するように全上場企業の代表者に宛てて要請文を出した。

 株式分割自体は本来、企業価値には影響を与えない株価には中立的なものだが、現行制度では分割で増加する新株が株主の手元に届いて流通するまでに約1カ月半かかるため、流通する株式が一時的に品薄状態になり株価が急騰しやすくなる。さらに、こうした大幅分割銘柄の連日にわたるストップ高など短期間での株価急騰を当て込んでの思惑買いが増幅して、売買が成立せずに買い気配のまま株価だけが発表前の何倍にも暴騰し、新株の出回りと同時に反対に株価が急落するというケースが何度となく発生していた。

 超大幅な株式分割の実施によって株価が暴騰し、短期間に肥大化した時価総額をテコに企業買収を繰り返す新興企業が目立っている。こうして膨らんだ時価総額が本来の企業価値として認められるかどうかにも疑問の声が上がっている。ちなみに、ライブドアはこの1年間に100分割を含めて3度の大幅な株式分割を実施し、累計では1万分割を実施したことになる。(次回へ続く)

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