一度コンテンツ業界に生きた者は、永遠にそこから離れることはできない。
1997年、Howard Stringerは30年を過ごした放送業界を離れ、ソニーという新天地に飛び込んだ。彼の任務は、気難しいことで有名なエンターテインメント部門とエ レクトロニクス部門とを和解させ、グループ内での駆け引きを脇に置いて、互いに協力するよう説得することだった。
ソニーはコンテンツ企業であると同時に、ハードウェア企業でもあるというユニークな立場を最大限に活かしたいと考えていたが、社内の確執がこの野望の達成を阻んでいた。
この任務は、理屈の上では遂行可能であるように思われた。Stringerには変化を起こすための権限も与えられた--入社後しばらくして、彼はソニーの米国法人Sony Corporation of AmericaのCEOに就任し、米国におけるソニーの事業全般--つまり映画事業、音楽事業、そしてエレクトロニクス事業を統括することになった。
本社の副会長も兼任するStringerは長年、派閥争いの調停に奔走してきた。複雑な組織構造を持つことで知られるソニーでは、絡まり合った利害を慎重に調整していかなければならなかった。
しかし、Stringerの努力はついに実を結び始めている。競合会社の大成功も思わぬ助けとなった。Apple Computerの携帯音楽プレイヤー、iPodの人気の高さが、コンテンツ部門とハードウェア部門が手を結べば大きな利益が手に入ることを、ソニーにまざまざと見せつけたのである。
Stringerによると、いまソニーでは全社が一丸となって共通のゴールに向けた取り組みを進めているという。実際、ビジョンの共有がこれほど求められたときはない。このところ、ソニーは主要な事業分野で軒並み苦戦を強いられており、勢いのある新興企業にシェアを奪われつつあるからだ。
CNET News.comは先月開催されたConsumer Electronics ShowでStringerにインタビューを行い、iPodがソニーに与えた影響、コンバージェンス戦略、ビデオ配信、そしてブログについて話を聞いた。
--ソニー入社当時のあなたの役割は、さまざまな事業部間の橋渡し役を務める「外交官」となることでした。その後、各事業部の関係はどう変わりましたか。
入社当時の私は、各事業会社の経営責任者ではありませんでした。各社の戦略を見てはいましたが、経営そのものは東京本社が直接管理していました。私の役割は各社の関係を調整/維持し、各社が正しい方向に進み、デジタル時代に備えることができるようにすることでした。その後、本社から経営責任を徐々に引き継ぎ、4年前からは4つの事業会社のうち3社のCEOを務めています。
この1年半は、ソニー全体のコンバージェンス戦略に沿って、コンテンツとデバイスの統合に注力しています。
--どの企業もコンバージェンス(1つのデバイスで複数のタスクを処理するという考え方)に取り組んでいますが、実現にはほど遠いようです。何がそれほど難しいのでしょうか。
当社に関していえば、非常に有利な点と不利な点があります。不利な点は、著作権侵害行為に対する懸念から、コンテンツ部門が新技術の採用に消極的だったことです。
これにはiPodの成功が密接に関連しています。iPodのセキュリティは万全ではありません。当社のコンテンツ部門はもっと強固なセキュリティを求めていました。コンテンツ部門は、次世代のWalkmanでもっと効率的で効果の高いセキュリティ機能を実現するための努力に協力を惜しみませんでしたが、これを実現するには時間がかかり、また実現できない可能性さえあります。われわれはiPodの後塵を拝し、iPodはこの種の製品が消費者を魅了できることを証明することになりました。
われわれの有利な点は、多様なコンテンツ資産を活かして、電子機器メーカー各社と密接に連携できることです。最近は、映画部門や音楽部門がソフトウェア開発に関して本社と協力することも増えています。ソニーのコンバージェンス戦略は米国と本社の協力のたまものです。もちろん、これは一朝一夕で実現したことではなく、こうなるまでにとても長い時間がかかりました。しかし、このところのiPodの成功が変化のスピードを速めたことは確かです。
--具体的にはどんな点が挙げられますか。
コンテンツを開発していない本社が開発した技術で、優れたソフトウェアソリューションを構築できるのかという懸念がありました。(AppleのCEO)Steve(Jobs)の場合はうまくいきました。彼はソフトウェアだけでなく、コンテンツも理解していたからです。しかし、ソニーではコンテンツとソフトウェアは別々に開発されていました。
しかしiPodの成功をきっかけに、本社のソフトウェア技術者の間で、コンテンツ事業を理解する必要性がはっきりと認識されるようになりました。われわれも米国が得意とするコンテンツや、近年成長著しいソフトウェア開発の分野で本社に協力していくつもりです。
Sony Connectはこうした協力のよい例といえます。わずか12ヶ月で社内の一体感はぐんと高まり、日米の幹部が協力して事業に取り組むようになりました。この状況が続けば、ビデオ革命の行方にも期待が持てます。音楽分野では不利な立場にあるかもしれませんが、ビデオ分野ではサービス内容を改善し、短期間で成長するための時間は十分に残されているからです。
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