PtoP訴訟と米国の未来 - (page 2)

間違った方向へ

 世間の風向きが変わり始めたのは1998年のことだった。この年の10月にはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)が可決された。DMCAは、政府がたとえテクノロジーの発展を阻害することになっても、コンテンツ所有者の利益を守るためにやれることは何でもするという、驚くべき前例を作る法律だった。

 しかし、DMCA自体がテクノロジー革命の息の根を止めてしまうことはなかった。DMCAが可決された当初は、単に厄介な法律という感じのほうが強かった。当時、デジタルコンテンツは今ほど普及していなかったし、デジタルコンテンツに対する投資も多くはなかった。インターネットラジオ局で同じアーチストの局を連続して3曲以上流さないようにすることとか、ビートルズ(や他の特定のアーチスト)の曲だけを24時間ぶっ通しで放送することが違法になったとか、そんなことに税金が使われていたのだが、そのことを気にかける人はほとんどいなかった。

 当時は、DVDを購入する人もほとんどいなかった。VHSのビデオテープのほうが安かったし、ビデオテープなら私用にコピーすることもできた。DMCAの影響が家庭にまで及ぶことはほとんどなかったのである。しかし、2005年の現在、状況は一変している。

 DVDにひっかきキズを付けてしまうことはよくある。いつかは子供がひっかきキズを付けてしまうだろうからと、購入したときにコピーしておくことができたら良いのだが、それができない。バックアップ用のコピーを作成するソフトウェアを開発することは違法だからだ。われわれは高い金を払ってDVDを購入する。映画業界は、DVDを販売して莫大な収益をあげている。大半の映画は、劇場での興行収入よりもDVDによる売上げ収入のほうが多い。われわれは苦労して稼いだ金を払ってDVDを購入しているのに、DVDにひっかきキズが付いたときのためにコピーを作ることさえ違法だという。こんなことは間違っている。

 デジタルミレニアム著作権法は、意図せぬ結果を生み出した法律である。家庭でDVDがVHSに取って代わるなどとは、ほとんどの人が思っていなかった。DVDはキズがつきやすく、そうなると使えなくなることもほとんどの人が知らなかった。DVDのバックアップコピーを作成することが違法になるなど、誰も知らなかった。VHSテープでは、まったく合法だったのだから無理もない。

 法律は、意図せぬ結果を生み出したからといって、決して無効になることはない。その悪しき効果は永久に続く。来月、MGM対Grokster訴訟がいよいよ最高裁で争われることになっている。そして、ここで間違った判決が下されると、この悪法が今後もわれわれに被害を与えることにもなりかねない。

 この訴訟では、誰もが聞いたことのある(実際に使っている人はほとんどいないが)PtoPネットワークを実現しているソフトウェアを違法にすべきかどうかを争っている。大手エンターテインメント企業は、自社のコンテンツがPtoPソフトウェアを利用して盗まれているという理由で、このソフトウェアの使用をすべて違法にすべきだという主張を展開している。

 しかし、そうした企業は、このソフトウェアを使用する合法的な理由については一切論じていない。彼らは、自分たちのビジネスに影響を与えない、まったく別の用途にこのソフトウェアを利用している個人や企業が存在することを認めているのにだ。彼らは、自分たちのビジネスに自分たちのコントロールできない影響がある(それが良い影響か悪い影響かは彼らにもまだ分からない)のだから、新しいテクノロジーに適応するよりも、それを違法にしてしまったほうがよいと感じている。

 実際のところ、この訴訟の争点は、P2Pソフトウェアを使用して音楽や映画が違法にダウンロードされていることではない。これは純粋にコントロールについての争いだ。エンターテインメント企業は、自分たちのビジネスに影響を与えるテクノロジーをコントロールしたがっているだけなのだ。

 テクノロジーは、15年前のあらゆる予想を超えて進歩した。携帯電話、電子メール、DVDプレイヤーがこれほど広く普及しているのを見たら、一流の未来予想家でも驚いたことだろう。さらには、多くの人たちがテレビを見るのと同じくらいの時間ネットを楽しみ、MP3プレイヤーを持ち歩き、スチールカメラからビデオカメラに買い換えているのを見て、またまた驚くに違いない。

 同じように、いまから15年後にも、われわれには想像もできないような新しいデバイスが普及していることだろう。しかし、それらがすべて違法になるとしたらどうだろうか。

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