陽はまた昇る--2004年日本(前編)

Michael Kanellos(CNET News.com)2004年12月27日 10時00分

デジタル家電に再起をかけるテクノロジー業界

 東京発--現代史に残る深刻な景気後退がはじまって十余年。今、日本はその原点ともいえる産業、つまりこの国を戦後の経済大国に押し上げた「家電産業」に回帰しつつある。

 1960年代に日本の驚異的な経済成長を後押ししたのは、トランジスタラジオとアナログテレビだった。そして今、この国の疲弊したテクノロジーセクターを活気づけ、ふたたび自信を与えようとしているのは、最新型のデジタル製品に対する需要と、この10年間の企業改革ならびに政策措置の成果である。日本経済全体の回復の鍵を握っているのも、このセクターだ。

メイド・イン・ジャパン

日本経済は数々の問題を抱えているものの、技術者たちはこれまで通り、いくつもの重要分野で大きな成果を上げている。その一部を紹介しよう。

光を利用した通信:「可視光通信」と呼ばれるプロセスにおいて、慶應大学の教授らは発光ダイオード(LED)を使ってデータを送信する方法を発見した。この仕組みを利用すれば、いずれは電球や車のヘッドライトを使って、インターネットの情報を伝送できるようになるかもしれない。

携帯ゲーム:任天堂は携帯型ゲーム機DSの初期出荷台数を100万台と見込んでいたが、予想を上回る注文が殺到したため、急遽生産台数を2倍に引き上げた。

代替エネルギー: MP3プレーヤーを20時間動かすことのできる小指サイズの燃料電池の開発が進行中だ。

デジタル映画:ソニーはカリフォルニア州サニーベールのSilicon Light Machines社と協力して、1920×1080ピクセル相当の解像度で、1秒間に60の映像を鮮明に投影することのできるチップベースのシステムを開発している。「Star Wars: Episode 2」の製作チームは、ソニー製のデジタルカメラを利用することで200万ドルのコスト削減に成功した。

指紋認証:一般的な指紋認証システムと異なり、NECの「SecureFinger」は指紋をセンサーに押しつけるのではなく、指に光を当て、その残映をデータベースと照合する。

 ソニーの安藤国威社長は先ごろ行った講演のなかで、デジタル家電市場のリーダーは日本だと述べた。「ナローバンド時代を制したのは米国だったが、時代の主役はPCから、コミュニケーションとエンターテインメントの入れ物に移っている。そして、これは日本が得意とする分野だ」

 この変化は日本の主要コングロマリットの直近の業績にも表れている。10月末、東芝は2004年度の中間決算を発表し、上半期の売上高は250億ドルに、そして最終損益は322億円の赤字となった前年同期から一転して、当期は7910万ドル(83億8000万円)の黒字になったことを明らかにした。日立の上半期の純利益も、前年同期から763%以上増の3億7100万ドル(412億円)となった。

 日本企業と政府関係者は、この年末商戦で家電市場の勢いがさらに加速することを期待している。ただし、今のところ、見通しは企業によって異なる。テレビの売上高は全体的に伸びているものの、ソニーは需要を少なめに見積もっていたことを認め、注文をさばくのに四苦八苦している。しかし長期的にみれば、家電市場は日本の産業界と文化が直面している、より大きな変化の重要な試金石となるだろう。何世代にもわたって受け継がれてきた日本独特の企業関係--「系列」の崩壊もそうした変化の1つだ。

 ここ何年かの間に、不発に終わった景気回復を目にしているエコノミストらは、日本経済の先行きに対して慎重な見方を崩していない。8月、日本政府は国内総生産(GDP)の伸びが1.7%と予想を下回ったこと、ならびに過去15カ月間好調だった雇用とGDPの数値が大幅に悪化したことを発表した。最近の石油価格の高騰も、アナリストが日本企業の業績予測を引き下げたり、慎重な態度を取ったりする一因となっている。

 テクノロジー業界では、こうした不確実性は業績予想のばらつきという形で現れている。一般に、企業の成功は平均以上の価格、ハイエンドのデザイン、最新技術、そしてブランド認知度の4つをバランスよく実現できるかどうかにかかっている。もちろん、アウトソーシングや規格部品の採用といったコスト削減手段を導入することも重要だ。

 「本当に好調なのはパナソニックだ。ソニーについては、まだ少し疑問が残っている」と調査会社GartnerのアナリストVan Bakerはいう。

転換を牽引する「新三種の神器」

 日本の家電業界の再生を語る際にもっともよく引き合いに出されるのは、日本が数十年にわたって作り続けてきたアナログカメラ、アナログテレビ、ビデオデッキの後継製品--つまりデジタルカメラ、高品位テレビ、DVDプレイヤー、そしてこれらに使われる部品である。

 これらの機器や部品のために、日本企業はアルミニウム、プラスチック、そして小さなアニメのキャラクターを芸術の域にまで高める技を磨き続けてきた。日本企業の幹部はしばしば、プロダクトデザインの「感情的」な側面を問題にする。コンピュータ業界では耳慣れないこの概念が、任天堂のゲーム機、ハローキティ、そして携帯電話が大ヒットした一因だというのだ。

 「iモードの開発中に感じたのは、日本は中産階級向けの商品開発が非常にうまいということだ」とNTTドコモの榎啓一常務取締役兼プロダクト&サービス本部長はいう。「まずは若年層をターゲットにした。新製品にもっとも敏感なのはこの層だからだ」

 日本企業に経営方針の抜本的な転換を迫ったものは、国際市場の劇的な変化だった。SamsungやApple Computerといった外国企業が、家電製品をデザインする方法を--そしてさらに重要なことには、それらを売る方法を--手に入れたのである。

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