ハンズオン(育成型)投資とは具体的にどのような投資手法なのか、そして投資先のベンチャー企業や提携する事業会社にとってはどのようなメリットがあるのだろうか。グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナーの小林雅氏が講演した。
1998年、東京大学工学部卒業後、アーサー・D・リトル(ジャパン)に入社。エレクトロニクス・情報機器・通信関連の新規事業戦略立案に従事後、ベンチャー・インキュベーション事業の立ち上げ、ベンチャー企業に対するコンサルティング、及び資金調達アドバイザリー業務を経験。2001年6月エイパックス・グロービス・パートナーズ入社。2004年同社パートナー就任。担当先企業として、アクシスソフト、アリエル・ネットワーク、インタースコープ、バーチャレクスがある。 |
1996年に5億4000万円の第1号ファンド「Globis Incubation Fund」を設立して13社への投資を行ったのを皮切りに、1999年にはエイパックス・グループと共同で200億円のファンド「Apax Globis Japan Fund LP.」を組成した。小林氏によれば、2005年には第3号ファンドを組成する予定という。投資先にはワークスアプリケーションズやアニメーション会社のGDH、リアルコム、ネットエイジなどがある。このうちワークスアプリケーションズとGDHはIPOを行っており、ワークスアプリケーションズの場合、投資リターンは10倍以上となったとのことだ。ファンド全体の投資パフォーマンスは好調で、全体として2〜3倍のリターンとなる見込みという。
GCPの投資先は創業したばかりのアーリーステージから、設立3年以上を過ぎたレイターステージまで多岐に及ぶ。「企業の置かれたステージによって、経営サポートは変わってくる。小さい企業から、大きく事業を拡大するところまでの多様な経営サポートのノウハウがあるのがGCPの強みだ」(小林氏)
小林氏は同社の特徴をファイナンス、経営・組織開発支援、ネットワークの3点から説明する。まずファイナンス面では、リードインベスターとして1社あたり3〜5億円、最大で20億円を投資するという。資金提供のみのVCの場合1社あたりの投資額が数千万円であることを考えると、GCPの1社当たりの投資額の大きさが分かる。
経営・組織開発支援については、GCPの投資担当者が社外取締役として経営に参画し、事業計画の策定や取締役会の運営支援などを行う。また、グループ会社のグロービス・マネジメント・バンクを通じて経営幹部やミドルマネジャーの採用の支援も行うという。ネットワークについては、GCPの投資先同士の交流やNew Industry Leaders Summit 2004の企画・協賛を行うなどの取り組みを行っている。
社外取締役は経営の監督を行うだけでなく、積極的に経営に参画するという。このため各投資担当者の担当案件は最大5社程度に絞るという。「数は少ないが、支援を手厚くすることで一緒に成功するという考えで行っている」(小林氏)
GCPは投資先に対し、株式シェアの15〜40%を取得する。「50%以上の株式を1つのVCが取得すると、互いに健全な議論ができなくなる」(小林氏)ためだ。経営陣が30%程度、GCPが20%前後、そのほかの投資家や事業会社など数社が合計で50%程度株式を取得するのが望ましいと小林氏は話す。
投資前には相手先の企業を評価するデューデリジェンスを行うため、実際の投資までには2〜3カ月ほどかかるという。評価の基準については「マネジメントチームが最も重要」と小林氏は言う。「言っていることが本当に正しいかを確認する必要がある。例えば"製品が開発できている"といいながらも、実際にはできていないこともある。相手の言うことをうのみにしてはいけない」(小林氏)
事業計画についても、「中期的な夢よりも現状や今後1年間のアクションプランが重要だ」という。「今後1年間の計画を聞けば、経営チームの能力がすぐわかる」(同氏)
投資後に行うアプローチとしては、マネジメント体制の確立、ビジネス・収益基盤の確立、株式売却の3つがある。「投資した瞬間からエグジット(投資回収)を考える」(小林氏)という方針のもと、IPOの支援、資本提携や買収先とのネットワーク構築を行っていく。
マネジメント体制については、CEOの選定が重要になるという。誰を中心に経営チームをつくるかが重要になるというのだ。実際、IPOしたワークスアプリケーションズもGDHも現在のCEOは投資時点では社長ではなかった。経営チーム構築の際には、社外取締役の存在が大きな意味を持つと小林氏は言う。
今後GCPが力を入れていく分野として、小林氏は投資先と大企業(事業投資家)のパートナーシップを作り上げるコーポレート・パートナーシップという手法を挙げる。GCPの投資先企業の株式を大企業に保有してもらったり、事業提携を促したりするというものだ。大企業にとっては優良企業の囲い込みや連結業績の拡大、事業シナジーが見込め、GCPにとっては中長期的に一株当たりの利益が増加することが期待できる。
GDPの投資先の事例では、インタースコープの株式の30%強をデジタルガレージが保有しているほか、フィスコの株式の20%をインデックスが持っている。また、GDHの株式の一部を電通やフジテレビが所有しており、安定株主となっているという。
大企業が投資先を選ぶ際にGCPとパートナーシップを組むメリットについて、小林氏はまずGCPの投資評価の存在を挙げる。GCPでは100件の投資案件の中から1〜3社を選んで投資を行い、案件の20〜30%は成功しているというのだ。また、「大企業には社外取締役の経験を持つ人がいない。我々が(事業会社の投資担当者に代わって)レポートを提出したり、事業会社と経営陣のとりまとめを行ったりすることができる」とも話す。
「GCPは株主価値の最大化に集中するため、経営陣と事業投資家のパワーバランスを取りつつ、客観的な経営判断ができる。」(小林氏)として、事業会社との連携に意欲を見せた。
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