コラボレーションをカタチにする場 - ORFリポート

 11月23日、24日の2日間、慶應義塾大学SFCの研究発表イベントOpen Research Forum(ORF)が六本木ヒルズで行われた。六本木ヒルズが会場となるのは昨年に続いて2回目で、昨年は24Fだったが今年は2月にオープンした40Fのアカデミーヒルズ40で行われた。僕がORFに参加するのは4回目で、2001年、2002年はSFCのキャンパスを使って行われていた。

 SFCで行われていた頃は教室を展示スペースにしたり、研究室を開放したりするため、物品の移動や会場設営などは割と楽だったし、ネットワークのインフラなども日常通りの環境で使うことができるため、勝手は良かった。しかしご存じの通り、何しろ都心から遠いということで集客は思うように伸びなかったようだ。

 六本木ヒルズでの開催の場合、普通のイベントから考えると当たり前のことなのだが、会場設営は前の日の午後から夜までしかすることができないし、撤収もその日のうちに済ませなければならない。さらにネットワークも、SFCのキャンパスと同じ環境、つまり有線・無線の物理的なインフラ環境やIPなどの論理的なインフラ環境を、六本木ヒルズで再現する必要がある。学校内の開催と比べて様々なレベルでの変化や苦労が伴ったが、それでも2年目という事で大きな混乱もなくこなせたのではないだろうか。

 その苦労の甲斐あって、昨年から参加者数は大きく増えたそうだ。開催場所がキャッチーならば、展示もキャッチーになってくる。まず会場の外で目を引いたのがアカデミーヒルズへの入り口に展示してあった8輪電気自動車のEllica。テレビの報道などでも頻繁に採り上げられていることや、そもそも8輪の近未来っぽいデザインの自動車が六本木ヒルズにあるというインパクトで、多くの人が足を止めていた。正式な発表はまだ出ていないが、展示している参加者としては、昨年以上の来場者数があったような実感があった。

 その来場者全員には入場の際にICタグが2つずつ配布されていた。このタグの1つは会場内に設置されたゲートを通過する人の流れをチェックするものだったようだ。一方もう一つのタグは会場内で「興味のブックマーク」をつけていくシステム。各ブースにタグリーダーが設置されており、気になったり面白いと思ったりしたブースで、自分のICタグをリーダーにタッチする。タッチしてもらうと、後々来場者と出展者の間でコンタクトを取ることができるようになるそうだ(と説明を受けた)。また会場内に設置されたディスプレイでは、音と映像で来場者の興味の傾向を表現した展示が行われていた。

 ゲート型のタグリーダーは設営日に綿密な電波強度の調整を続けていた風景が目につき、人の流れを自動的に取得するのはまだまだ大変なのかと思わされる。一方の「興味のブックマーク」のシステムも、各ブースまでそれぞれ決まったLANケーブルを敷設して端末を設置しなければならず苦労をしていたようだったが、意外にも来場者はタグをリーダーにタッチしたがるようで、僕が出展していたブースでもたくさんの人が進んでタッチをしていた様子が印象的だった。

 増えたのは一般の来場者だけでなく、SFCの学生もたくさん来ていた。ORFに出展しない学生にとっては三田祭(慶應義塾大学三田キャンパスで行われる学園祭)で休みの期間になっている。そのためSFCで開催されていた頃は、あえてSFCに行こうとはしなかった。それが昨年・今年は六本木ヒルズで行われているとなると、ちょっと都内で買い物のついでに足を伸ばしてみたり、三田とも近いので三田祭を見てから寄ってみたりしていたのだろう。

 依然として隣の研究室が何をやっているか分からないという状況、SFCの研究室間のつながりの薄さが残っているキャンパス環境だ。お互いにお互いの研究を知る数少ない機会がORFになっているという可能性は大いにある。僕が出展していたブースにも、「来学期に研究室に入ろうかと思っている」と言う学生がやってきたし、ORF後に「研究を共同でやってみないか」という相談まであったくらいだ。外部とのコラボレーションの機会を探るだけでなく、SFC内部での連携や絆を強める場にもなっていたといえる。

 キャンパス内部の連携が行われていないというのは、外から見るとお粗末な限りかもしれない。しかし中にいる視点からすると、SFCの問題点と解決方法を一気に見せられた感覚がある。コラボレーションを起こすために多岐にわたる分野を用意したSFCが、あまりにも分野の散らばりが激しくてつかみ所のない状態になっているために、コラボレーションを起こす効率が悪かったが、その機能を整えるには十分な機会になっていたのではないか。

 ORFの話題の最後に僕が所属している小檜山研究室の展示を紹介したい。ケータイに関する研究をしている小檜山研究室では、大学院生を中心に毎年Wearable Environmental Mediaプロジェクトと題して、モバイルネットワーク上での位置情報サービスアプリケーションの探求を目的に研究を行っている。これまではケータイの機能の低さから、PCをリュックサックで背負ってヘッドマウントディスプレイの映像に合成する、という実用化とはほど遠いスタイルで実現していたことが、端末の発達によってだんだんケータイのみで行えるようになってきた。

 今回は「3D MUSCLE」。ケータイを3Dステレオ画像モブログのアップローダー・ビューワーとして活用するアプリケーションを実装した。プランを立てる際に、PDFなどのよりプログラミングの障壁が低い端末で実装してはどうかというアイディアも議論としてあったが、「ケータイでできなければならない、将来的に実現される時のイメージとして掴みにくい」とケータイで実装することにこだわった。その結果作られたのが写真のような、ケータイを2台連ねた端末だ。

3D MUSCLE

 使われているのはP506iC 2台。この端末を選んだ理由はカメラが搭載されている場所とディスプレイの向きなどの兼ね合いによってこの端末になった。ケータイを開いて机の上に置いたときにカメラは下向きになっているため、プリズムで前方の写真を撮れるようにし、ピストルの引き金状のスイッチは2台のケータイのシャッターボタンとして機能するようになっている。ディスプレイの手前にあるレンズから覗くと、2台のケータイがプレビューしている写真を立体視することができる。

 このケータイが威力を発揮するのは、専用のタグを撮影した時だ。タグを撮影するとタグに対する角度情報を解析して、タグが意味する対象物を、その向きから見ている画像として合成してケータイの画面に返す仕組みになっている。もちろん帰ってきた画像を立体視することができる。用意した立体画像のデータもこの端末で撮影されたものが使われており、立体画像をモブログして手軽にコンテンツ化することができる一連のアプリケーションを提供することができる。

 小檜山研究室の構成メンバーは本当にバラバラだ。一応ケータイを研究するというテーマはあり、ケータイの社会学を研究する人やケータイに実装するアプリケーションを開発する人など、ケータイに沿った研究も行われているが、大学院の学生にはメディアアートを研究する人、ハードウエアの研究をする人、政治を研究する人、XMLを研究する人、そして僕はBlogだ。研究分野が分散している様子がSFCの様子とよく似ていることから、俗に「SFCの縮図」とも言われているほどだ。

 こんな日常では混沌としている研究室がORFを契機にして、「ケータイによるリッチな3Dコンテンツの生成と閲覧の可能性と、ケータイを情報タグの読み取り・書き込み装置として活用する方法を提案する」ことになった。研究成果としての展示物を見てもらうこともさることながら、どのようにしてコラボレーションをしているか、と言う手法を見てもらう場としてORF会場に来てみると、また違った楽しみ方ができるだろう。

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