ITはクリーン・エネルギー技術を加速させるか

Martin LaMonica(CNET News.com)2004年11月18日 10時00分

 米国のエネルギー産業といえば、煙突からはき出される石炭の煙や公害をまき散らす精油所といったイメージがまず思い浮かぶ--この産業は今後も、こうしたローテクの「汚れ役」に甘んじるのだろうか。

 そんなことはない、と断言するのは「クリーン」技術投資を専門とするベンチャーキャピタリスト・グループCleantech Venture Network(CVN)の会長Nicholas Parkerだ。

 太陽光発電に代表される再生可能なクリーン・エネルギー技術の世界では、技術革新が急速に進んでいる。しかも、この分野への投資は、従来の技術分野への投資と遜色のない収益を生み出しているという。しかし、実現可能な代替エネルギー源を開発し、既存のエネルギー・システムを環境に配慮したものに作り替えるためには、さまざまな情報技術(IT)、特にソフトウェアと組み込み機器のスキルが不可欠になるとParkerは指摘する。

 クリーン・エネルギー技術とITの接点について、Parker会長に話を聞いた。

--ITはエネルギー産業、特に代替エネルギー源にどんな影響を与えているのですか。

 太陽電池のパネルや風力タービンに注目が集まりがちですが、実際はインフラの近代化や、エネルギーの効率化、節約、管理といった面でITは不可欠のものとなっています。今をときめく大企業のなかには、エネルギーIT企業もいくつか含まれていますが、こうした企業の成功の秘訣はアルゴリズムとソフトウェアにあります。ただし、これは市販のソフトウェアではなく、組み込みソフトウェアです。

--具体的にいうと?

 発電用の電子機器がよい例です。たとえば風力タービン。風力タービンの発電量は伸び続けており、現在は1基当たり3メガワットに達しています。一部の地域では、石炭などの安価な化石燃料と同等、またはそれ以下の価格を実現するだけの電力を風力で生成できるようになっています。この背景にはコーティング素材の改良もありますが、内部の電子機器と管理制御システム--つまり、ITを利用した設計が果たしている役割も大きい。こうしたITは機器に組み込まれ、目には見えません。このように、この分野ではITが欠かせないものとなっています。

--電力グリッドについてはどうですか。昨夏の大停電の原因は、突き詰めればソフトウェアの不具合にあったのでは。

 米国の課題は、19世紀につくられたエネルギー・グリッドを近代化することです。問題は、現代がデジタルエコノミーの時代だということです。デジタルエコノミーにおいては、エネルギー供給の信頼性は99%でも十分ではない。サーバー・ファームでも医療機関でも、あるいは金融サービスでも、99.9999%の信頼性が求められています。

 デジタルエコノミーでは、停電や電圧低下を避けるための信頼性だけでなく、電力の質も求められます。マクロレベルでは、この2つは密接につながっています。

 では、ミクロレベルで鍵を握っているものは何か。それはエネルギーITです。エネルギーITはビルの消費電力管理においても、あるいは各機器の内部でも、きわめて重要な役割を果たしています。チップ性能のネックとなっているのも過熱です。このように、システムのあらゆる部分でITとエネルギーは密接に関連しています。

--従来のITに関する知識が、エネルギー分野に応用されたことはあるのでしょうか。

 液晶ディスプレイ(LCD)技術がそうです。LCDは太陽電池を逆さまにしたような技術です。前者は電子を光に転換し、後者は光を電力に、つまり太陽電池に転換するわけですからね。 LCDのノウハウは、太陽光発電に応用されつつあります。こうした融合、あるいはクロスオーバーは、ベンチャーキャピタルの主流派が夢中になっている大きなテーマの1つでもあります。彼らはこういっています。「これは我々が対応できる分野だ。もちろん、専門知識を持ち、垂直産業を理解している人々の協力を得ることは必要だが、ITや材料などに関する我々の包括的な知識も十分に活用できるはずだ」 と。

--あなたがこの仕事をしているのは環境問題に関心があるからですか。

 確かに、我々は環境問題に関心を持っています。しかし、それは私の本分ではありません。個人的には環境問題を心から憂慮していますし、世界で何が起きているのかも知っています。しかし、私に期待されているのは私の(投資家としての)能力です。

--さきほどベンチャーキャピタルの主流派という話が出ましたが、一口にエネルギーといっても、これは実に巨大で広範な産業です。「クリーン」エネルギー技術は、重要な投資対象分野となっているのでしょうか。

 そもそも、クリーン・エネルギーというカテゴリはまだ存在しません。しかし、それは時間の問題でしょう。「ソフトウェアには××ドル、バイオテクノロジーには××ドル、今後はクリーン技術にも××ドルを配分したい。このポートフォリオを最もよく管理できるファンドマネジャーはどこにいる?」--CalPERS(カリフォルニア州公務員退職年金基金)などの大手機関投資家からは、こうした声が聞こえはじめています。

--クリーン・エネルギーというカテゴリがまだ存在していないとすれば、何が障害になっているのでしょうか。

 当然といえば当然ですが、ベンチャーキャピタルは少し前まで、別の分野に注目していました。しかし、バイオテクノロジーの例を思い出してください。バイオテクノロジー業界のNetscapeともいうべきGenentechが上場したのは1979年です。しかし、この分野への投資額が、ベンチャーキャピタルの総投資額の10%に達するまでに、さらに13年もの月日がかかっている。この種の変化には時間がかかるものです。

 人々には学習期間が必要です。ベテラン企業家の参入も待たなければなりません。研究成果を実用化につなげ、大企業とベンチャー企業のパートナーシップ・モデルを確立することも必要です。しかし、こうした変化には時間がかかる。我々は急速に変化する世界に住んでいるので、10年を永遠のように感じることがあります。しかし、物事をより大きなスキームで見ればそうではありません。

 クリーン技術が臨界点に達していることは間違いありません。現在、この分野ではさまざまな変化が、さまざまな理由から起きています。石油価格の高騰も一因ですし、人々がコンピュータ技術に堅牢性だけでなく、コスト効率も求めるようになっていることもある。今は工場の試運転期間のようなもので、ありとあらゆることが起きています。しかし遠からず、ブレークスルーの時がやってくるでしょう。経験豊かな企業家が参入するようになり、初めての成功を手にする者がでてくる。そして好循環が生まれる。それが今、クリーン技術の領域で起きていることです。投資収益率も人々の予想をはるかに上回っています。

--従来の技術分野への投資よりも優れているのですか。

 先日、我々はクリーン技術の投資収益率に関する広範な研究報告を発表しました。確定的とはいえませんが、我々が集めたデータはこの分野に対する投資が、ドットコムブームを考慮に入れたとしても、過去10年のベンチャー投資の平均収益と同等水準の収益をあげていることを示しています。ほとんどの人にとって、これは驚くべきデータではないでしょうか。しかし、これは事実です。

--あなたの考えるクリーン技術の定義を教えてください。代替エネルギーとはどう違うのですか。

 我々の考えるクリーン技術とは、「天然資源、一般にはエネルギーの利用と経済価値を最適化することにより、環境に与える影響を軽減することのできる技術から派生した製品またはサービス」です。

 その典型がクリーン・エネルギーです。クリーン・エネルギーは単なる代替エネルギーではありません。クリーン・エネルギーはアルゴリズムであり、その他にもさまざまなものを含んでいます。再生可能な分散エネルギーであっても、グリッドに接続し、管理する必要があります。

--分散発電にインターネットの考え方を応用することは可能ですか。

 可能です。たとえば、分散発電はエネルギー・グリッドではなく、エネルギー・ウェブとなるでしょう。どこかで聞いたような言葉です。この点について、Cisco Systemsの人々と話をしたことがあります。彼らはこういいました。「今は通信産業での経験しかないが、市場の環境が整い次第、いつでも参入する用意がある」。つまり、これは単なる代替エネルギーではなく、さまざまな条件がそろう必要があるのです。

 第2の分野は水です。水は非常に重要な問題です。たとえば、半導体産業は大量の水を必要とします。しかし、Intelの工場がどこにあるかを思い出してください。米国の南西部やイスラエルなど、いずれも乾燥地帯です。ところが、水は希少な資源になりつつあり、十分な量を確保することは不可能に近い。Intel Capitalが浄水技術や水の再利用技術に投資をしたのはそのためです。これはミッションクリティカルな問題なのです。

 第3の分野は先端材料でしょう。

--具体的にいうと?

 触媒や細胞膜です。

--それを燃料電池に応用できるのですか。

 そうです。新しいコーティング素材の開発や、材料価格の引き下げに利用できます。たとえば、Boeingは機体にアルミニウムを使っていましたが、今はコンポジットやセラミックを使うようになっています。そうすることで、生産プロセスもより環境に配慮したものとなっています。

 つまり、こういうことです。企業は競争力を維持するために、より少ない資源から、より多くのものを生み出さなければならない。PCの登場が労働の現場を大きく変えたように、さまざまなクリーン技術の登場により、企業は生産性を改善し、廃棄物を削減できるようになっています。公害も、さかのぼれば廃棄物の問題です。

 たとえば、スマート・ロジスティクス分野に車輌運行管理ソフトウェアというものがあります。企業は環境基準に準拠するためではなく、収益を最大化するためにこのソフトウェアを導入しています。しかし、このソフトウェアの最大のメリットは燃料効率を改善する点にある。これは環境保護にも大いに貢献するものですが、それが購買の決定要因ではありません。

--IT業界では、コンピュータ以外の機器にプロセッサやワイヤレス・ネットワークが搭載されるようになっています。この動きは投資家にどんな影響を与えるのでしょうか。

 機器間通信(M2M:machine-to-machine)はシリコンバレーの大きな話題の1つです。エレベーターから腕時計まで、あらゆるものにマイクロプロセッサが搭載され、すべてがウェブに接続されるようになる。いずれはマイクロセンサーを使って、有害物質を監視できるようになるかもしれません。オフィスの消費電力を細かく管理できるようになり、週末には必ず、エレベーターの電源をオフにできるようになるかもしれません。そうなれば、収益目標、資源利用の効率化、そして環境に与える悪影響の削減を同時に達成できる確率も飛躍的に高まります。

 それが未来です。それがクリーン技術です。この未来には排気ガス清浄装置も、煙突もありません。

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