マイケル・カネロスの東京ガジェット事情

 東京発--東京で遂に私に話しかけてくる製品に出くわした。それは、こんな具合だ。

 "I'm not as picky as your father."(おたくのお父さんってほんとに口うるさいねえ)

 "Just between you and me, she's strange."(ここだけの話だけど、彼女変じゃない)

 "I am in trouble because of credit cards."(カード使いすぎちゃって大変だよ)

 "Don't blame yourself.He'll take the blame!"(君のせいじゃないよ。彼が責任とるさ)

 この製品は、Magic Talkers製のNHC 8100という日本人向けの英語学習用携帯デバイスで、ヨドバシカメラという東京の大手家電量販店で販売されている。上のような会話文が液晶画面に日本語と英語で自動的に表示され、ボイスシミュレータで正しい発音を教えてくれる。

 国際競争が激しさを増しているが、それでも日本企業は家電製品の設計に関して、いまでも最先端を走っているようだ。アメリカで英語のネイティブスピーカー向けに日本語学習用の同じような製品を開発したとしても、「バス停はどこですか」とか「仕事にかかりましょう」といった実用的なフレーズだけが詰め込まれた製品になっていただろう。

 だが、ソニー社長の安藤国威氏が指摘していたように、日本人エンジニアは「顧客と感情的な部分でつながりを持ちたい」と思っている。だから、「私、マイケルに恋してるの」というフレーズを英語で何というかを教えてくれるようなデバイスが、90ドル程度で買えるというわけだ。

 日本が家電製品の設計で世界のトップを走っている理由についてはさまざまな説がある。きめ細やかな技術は、日本の都市部の住宅の狭さからくる数世紀に渡る文化的伝統であるという人もいれば、仏教にその理由を求める人もいる。

 私個人としては、買い物好きな国民性に原因があるのではないかと思っている。日本では、都心の駅には必ず大型デパートと地下街がある。物価は高いが、消費者は棚に並んだ希少価値のあるきれいな商品をめざとく見つけ、しかもそれにお金を払う。だから、食料品店ではメロンが20ドル以上もするし、高級志向のヘルススパには、プラズマテレビ付きのサウナは言うに及ばず、RFIDタグで開くロッカーまで設置されている。

 ビックカメラや秋葉原(キワモノ商品やマンガで有名な街)でPCやガジェットを漁るのがたいそう面白いのも、こうした買い物好きの国民性の影響だ。電気店はたいてい、8〜9階建てで、各階がテーマ別に構成されている。たとえば、1階はパソコン、2階はテレビ、7階はSharpのHealsやその他の家電製品、そして店舗前の歩道は携帯電話と写真の現像という具合だ。

 店によってはテーマソングを延々と流し続けているところもある。たとえば、ヨドバシカメラでは「リパブリック賛歌」がかかっている(私にはあのメロディーが 「どの子も最新のDVDを手に入れよう」("Every kid should have the right to get the latest DVD...")と聞こえたのだが)。パソコンとテレビのフロアでは、このテーマソングが通常の行進曲バージョンで流され、また掃除機のセクションではエラ・フィッツジェラルド風のジャズ・バージョンにアレンジされて流されていた。

 ここで、日本の今の売れ筋製品を紹介しよう。まず、小型デジタルカメラはアメリカよりもはるかに人気がある。店頭には、たとえば京セラのFinecamやミノルタのDimage X50のような、重さが100g強で大きさもiPod並みでありながら、機能をフル装備した500万画素のカメラが並んでいる。

 キヤノンのIXYや、カシオやパナソニックから出ている同様の製品はさらに小さい。ほぼ名刺と同じサイズで、厚さは2.5cm程度。これらも、他のカメラと同様、500万画素の解像度を持ち価格は約400ドルで、ピンクやシルバーといったおしゃれな色のモデルも揃っている。

 小型のビデオカメラもある。SanyoのXacti CX1は、300万画素のスチールカメラが組み込まれたNorelcoシェーバーのような形の携帯型ビデオカメラである。このビデオカメラは映像をSDカードに記録する。また、デジタルカメラ同様、これらの小型ビデオカメラは海外でも手に入るが、しかしこれだけ多様なモデルが揃っているのは日本国内だけだ。

 テレビについては、従来のブラウン管テレビがほぼ姿を消し、液晶とプラズマが主流になっている。アメリカで人気のプロジェクションテレビは、日本ではほとんど目にしない。「東京のマンションに大型のテレビを置いたら、それだけで部屋が一杯になってしまいます」とソニーのある関係者はその理由を説明していた。

 パソコンでは、オールインワンモデルが大人気だ。ソニー、東芝、富士通などの各社は、テレビとコンピュータの二役をこなすパソコンを売り込んでいる。ノートPCでは、パナソニックの人気が上がっている。また、ソニーはハードディスクを搭載したさまざまなタイプのポータブル製品を宣伝している。携帯型コンピュータのVAIO Type U、HMP-A1ビデオプレーヤー、VAIO Pocket Musicプレーヤーなどだ。しかし、消費者の反応は今ひとつといったところだ。

 アメリカ製ブランドはほとんど存在しない。ヨドバシカメラには、IBM ThinkPadが1列だけ並べられていた。同店の2階にはApple製品専用の売り場もあるが、同じ階のフロア一杯に並べられたコードレス電話、シュレッダー、イスなどにかくれてあまり目立たない。Appleの売り場では、4人のセールスマンが3人の客に製品の説明をしていた。1人はOS Xを購入しようとしている年輩の男性、あとの2人はiPodをいじっている最近の若者だった。

 対照的に、アメリカのソフトウェア製品は日本でもよく売れている。Symantec、Adobe Systems、Microsoftが代表格だ。時代の動向を反映して、あるショップではMicrosoft Open License Programカウンターに、デスクトップLinuxベンダーのLinspireの顧客デモ用システムがいっしょに並べられていた。

 地価の高い日本ならでは、といったところか。

著者紹介
Michael Kanellos
CNET News.comの編集者。ハードウェア、科学、研究開発分野、新興企業などの分野を幅広くカバーしている。コーネル大学とヘースティングズカレッジで弁護士の資格を取得。弁護士、フリーのライターなど、さまざまな仕事を経験している。

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