iPod、人気の秘密はスクロールホイール

Eliot Van Buskirk(MP3.com)2004年09月29日 10時00分

 iPodを好きになる理由はたくさんある。しかし、私にとって最も魅力的なのはあのスクロールホイールだ。

 幸運なことに、近ごろではポケットサイズの携帯音楽プレイヤーに膨大な数の楽曲を保存できるようになったが、そのなかから好みの曲を手早く探し出すのに、スクロールホイールに勝るものはこれまでなかった。

 iPodのスクロールホイールは、3度の改良を経て現在に至っている。初代のものは実際に物理的に回転するものだった。その後、2代目はタッチセンサー式になり、そして現在のiPod Miniと第4世代iPod に採用されているクリック可能なホイールに変わった。私はこの天才的なデザインがAppleのラボから生まれたものだとばかり思っていた。しかし実際には、Synapticsという会社がこのクリックホイールを開発した。Synapticsは、主にラップトップ用のタッチパネルなどをつくってしている会社だ。同社は、Appleの厳しい要求に応え、この本当に使いやすいインタフェースを完成させた。

 Synapticsという名前にはあまり馴染みがないかもしれない。だが、同社の技術はノートPCに搭載されるタッチパッドのおそらく7割以上を占めている。こうしたタッチパッドでは、その上で指を素早く動かすと、それに応じて画面上のマウスも素早く移動する。iPodのスクロールホイールもこれと同じ原理で動く。おかげで、膨大な数の楽曲リストから目当ての曲を手早く探し出すことができる。

 各社はSynapticsのナビゲーションつくりの巧さに気が付いたようだ。Creativeは同社製品としては初めてタッチセンサーを搭載する「Creative Zen Touch」という携帯音楽プレイヤーに、Synapticsの技術を採用した。Hewlett-PackardのPocket PC携帯端末「iPaq」の新型にも、Synapticsが開発したNavPointという技術が使われている。

 Synapticsはクライアントのニーズに合わせてタッチパッドのデザインをカスタマイズしている。Apple/Synapticsによってこの革新的なスクロールホイールが開発される際に、Apple側の要求がどのように変わり、最終的により良いiPodが実現されたのかを見てみよう。

 Appleが設計したオリジナルのスクロールホイールは、タッチセンサー式ではなく、物理的に回転するものだった。私は後に採用された物理的な動きのない設計のほうが好きだが、ユーザの中にはこうした実際に回転するタイプを好む人もいる。彼らは、動かないスクロールホイールを指でこするのではなく、指といっしょに実際にホイールが回転する感覚を好むようだ。

 初代iPodが人気を博すと、Appleはスクロールホイールの改良に着手した。ここで登場するのがSynapticsである。同社にはiBookの設計でAppleと協力した実績がある。そこでAppleは、iPodをより薄く軽くするための方法を模索していた際に、Synapticsのタッチセンサー式デザインを試してみることにした。新しいデザインのiPodは、ポケットに収まりやすくなったほか、埃やあかなどでスクロールホイール内の機械的な動作が不具合を起こすこともなくなった(こうした不具合が起こったという話は聞いたことがないが、確かに心配な点ではあった)

 Appleはこのタッチセンサー式スクロールホイールについて、オリジナルのデザインよりも優れていると考えていたが、さらに再生ボタンの位置をスクロールホイールの周囲から上部に変更し、直線的に並べることにした。Synapticsのスクロールホイールが表面に顔を出し、4つのタッチセンサー式ボタンが追加された。当初これらのボタンはユーザに評判がよかったが、一部のユーザーからボタンが思ったように動作しないという苦情があった。私はこれが設計上の問題だと思っている。人間の指はボタンを押したという感覚を欲しがる。目的の動作が完了したことを、視覚的なフィードバックで確認するだけでは物足りないのである。

 iPod Miniでは、これらの再生用ボタンを配置する場所がなかったため、一工夫必要になった。そこで採用されたが、スクロールホイールをクリック可能にするという巧妙なアイデアだった。これにより、曲のスクロールと再生制御を、すべてスクロールホイールで行えるようになった。私には、これが設計上の大きな進歩に思えた。というのは、第2世代と第3世代iPodのタッチセンサー式再生制御ボタンでは、ボタンを押したという感覚が指に残らなかったからだ。

 クリックホイールでは、ホイールから指を放すときに、物理的なフィードバックが返ってくるので、確かにボタンを押したことが分かる。この方式は非常にうまくいったので、Appleはフルサイズの第4世代iPodでもクリックホイールを採用し、ボタンをすべて排除した。

 以上が、iPodのスクロールホイール改良の経緯である。Synapticsは最近まで、Apple以外のMP3プレイヤーメーカーにこの技術を提供していなかった。特に、iPodで採用された丸形クリックホイールは、今でもApple以外には提供していない。しかし、前に少し触れたように、Creative Zen Touchには垂直型のタッチパッドを開発・提供している。これなら、Appleとの契約には違反しない。

 曲のリストは環状ではなく上下にスクロールするのだから、Zen Touchの垂直タッチパッド方式は理にかなっている。しかし、スクロール操作はホイール型のほうが素早く行える。指を連続的に環状に動かすことができるので、垂直タッチパッド方式のように指をいったん離してタッチパッドの上部に戻す必要がないからだ。Zen TouchをiPodと張り合える製品にするために、Creativeには是非画面単位でスクロールできる機能を実装してほしいものだ。ウェブページやWordのドキュメントをホイール操作でスクロールするのと同じ考え方だ。これなら、目的の曲を見つけるのに、すごい速さで画面上を流れるテキストに目がくらくらすることもない。

 Appleの最新のクリックホイールについては、これ以上改良の余地がないように私には思える。何か改良点を思いついたら、是非お教え願いたい。

筆者略歴
Eliot Van Buskirk
CNET Networksの運営するMP3.comの編集者で、「Burning Down the House: Ripping, Recording, Remixing, and More!」という著作がある。

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