米国の特許システムが危機に瀕している。米国特許商標庁(USPTO)の長官自身も昨年そのことを認めている。
特許システムは、技術革新を奨励するためのものと考えられているが、実際にはその仕組みを自分の味方につけられる知識とリソースがある者たちに利する結果となっている。多くの人間が問題を認識し始めているが、この破綻したシステムを直すために十分な手が打たれているとはいえない。そして、結局ソフトウェア利用者が不利益を被ることになってしまっている。
フリーソフトやオープンソースソフトを開発するコミュニティの大半は、かなり前からこのことを知っている。
GNU General Public Licenseは、最も広範に利用されているフリーソフト/オープンソースのソフトのライセンスだが、このGNUには10年以上も前から「フリーのプログラムはどれも、常にソフトウェア特許からの脅威にさらされている」と書かれていた。そのため、Linuxのカーネルにかかわる特許のリスクを調べた包括的な調査の結果が(8月上旬に)発表された際にも、この報告を目にして衝撃を受けたり驚いたりする者はいなかった。同報告には、今のところ裁判所の判例で有効性が認められた特許は1件もないが、Linuxカーネルは合計283件の特許権を侵害している可能性があると記されていた。
この報告を目にした人間のなかには、リスクの存在を認めたがらない者もいた。こうした人たちの言い分は、Linuxには特許のリスクなどなく、この調査に資金提供した組織は、自分たちの利益を守るためにLinuxに対する恐れや不安、疑念(fear, uncertainty and doubt)を広めている、というものだ。こうした人たちがもし本当に自らの言い分を正しいと信じているなら、当然特許侵害に関する補償を無料で提供すると顧客に申し出ることで、自らの言い分を裏付けるだろうと思われた。
しかし、これまでのところ、特許に関する保護を提供しているベンダは1社もなく、IBMに至っては補償と名の付くものは全く提供していない。
法的保護を提供するベンダが1つもないことから、彼らがある程度リスクの存在を認めているとの仮定が成り立つはずだと考える人も多いだろう。だが、こうしたリスクについては、その程度を知るための情報が乏しく、結局はそれを推測するより他に手がないのである。そして、この事実が、恐怖感を広めることで利益が得られる人間たちに付け入る隙を与えてしまっている。
この潜在リスクを数量化して研究し、ユーザーに具体的な情報を与えてあげれば、ユーザーは自社に十分な備えがあるかどうかを判断できるようになり、推測に頼る必要がなくなる。リスクの及ぼす脅威を調べたからといって、そこからリスクが生まれてくるわけではない。こうした調査を行えば、そのリスクに対してより正確な対応がとりやすくなるだけだ。天気予報を知らせる人間が25%の確率で夕立があるといい、「後ほどさらに詳しい情報をお知らせしますので、お見逃しなく」といったからといって、この行為について、利益のために恐怖感を煽ったと非難する者などいないだろう。むしろ、そうした具体的な分析は、雨を避けたいと考える人たちや、降水に備える人たちの役に立つ。
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