カリフォルニア州パロアルト発--日本の理化学研究所(理研)に所属するあるチップ設計者によると、チップを専門化することでたくさんのメリットが実現できるという。
理研は米国時間24日、スタンフォード大学で開催中のHot Chipsカンファレンスで、開発中の「MDGrape 3」チップについて説明を行った。理研では、このプロセッサについて、毎秒1000兆回の計算処理が可能なペタフロップコンピュータの土台になると考えている。ちなみに、現在最速を誇るスーパーコンピュータの処理能力は36テラフロップ(毎秒36兆の計算処理が可能)で、同チップの性能はこれを大幅に上回るものになる。
生命科学の研究を念頭に置いて設計された同チップのサンプルは、現在350MHz動作で230ギガフロップ(毎秒2300億の計算処理が可能)を実現している。同チップの性能は、最悪の場合でも250MHz動作時に160ギガフロップに達すると、理研の高速計算処理グループ研究員 Makoto Tanji はHot Chipsカンファレンスの講演のなかで説明した。
このような計算処理能力が実現できるのは、比較的少量のデータに対して多数の同じような計算処理を行う作業に、同チップの設計を特化させたためだという。たとえば、研究者が1つの蛋白質と数千の異なる分子との相互作用などを調べなくてはならない生命科学やバイオナノテクの分野では、このような計算処理を行うことがめずらしくない。その結果、同チップをベースにしたコンピュータを、汎用チップを使ったスーパーコンピュータと直接比較できる分野は限られているが、該当する分野では同プロセッサが抜きん出ることになる。
「専門化によって約100倍の処理能力を実現できる。計算処理数は汎用コンピュータの方が少ない」とTanjiは語り、MDGrape 3が実力を発揮するには「計算量がデータよりはるかに多くなくてはならない」と付け加えた。
MDGrapeプロジェクトは、天体物理学用のチップを開発する目的で東京大学が15年前に立ち上げたもの。世界有数の生物科学研究機関である理研は、応用範囲が広いことから、生命科学や分子力学の応用分野にまで同チップのアーキテクチャを拡張すべく、数年前から開発に取り組んできている。同グループでは、自ら進めるProtein 3000プロジェクト向けに同チップをベースにしたコンピュータを複数構築し、3000種類のタンパク質の特性を測定する。これらのマシンは2007年中に登場すると見られている。
MDGrape 2を利用した商用システムとしては、100MHz動作時に16ギガフロップの計算処理が可能なもので現在市場に出回っている。また、Protein Explorerとしても知られるMDGrape 3開発の取り組みは2002年に始まっており、2006年には同プロセッサ上でアプリケーションが動作するようになるという。
なお、東京大学では、1テラフロップスの処理能力を持つ準汎用プロセッサの開発に向けた研究が続けられている。またIBMとテキサス大学も共同で似たようなプロジェクトを進めている。
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