マイクロソフトを題材にしたロールシャッハテスト

 私は先日ある読者から、次のようなご指摘のメールを頂戴した。

 「御社がMicrosoftのビジネスに関して、同社を持ち上げ、信頼に足る企業であるような印象を抱かせる記事を書き続けていることが、私には不思議でならず、そのことに驚きを感じると同時に、どういう理由があってそうしているのか全く理解できない。まるで北朝鮮のメディアが発信した記事か何かを読んでいるような気分にさせられる」

 金正日がCNET News.comでIT関連ニュースの編集を指揮したがっていることは間違いのないところだが、しかし、かの親愛なる指導者やその同志たちが当サイトの編集作業を指揮する可能性など当面無いことは確実に保証できる。

 Microsoftは、自らの技術に情熱を傾ける人々を試す現代版のロールシャッハテストとなっているが、どういう経緯でそうなったかを考えると、前出の電子メールはまったく例外的というわけではない。

 だが、Microsoftの犯した過ちがいかに重大なものであるかを詳しく述べ立てた、同社を憎悪する内容のフィードバックの数々をいちいち数え上げる場合には、もっと大きな文脈が必要となる。

 社会学者なら、Microsoftがそれほど悪く言われる根本的な理由を突き止めるのに何年もかかるところだろうが、しかし「同社にはある種の人々の頭をおかしくさせる何かがある」というのは、それほど議論の余地もないことだろう。

 Microsoftバッシングは、米司法省が1998年に独占禁止法違反で同社を法廷に引きずり出す前から流行っていたことだ。なかには、語り草となっている1976年の「Open Letter to Hobbyists(コンピュータ愛好家への公開書簡)」に、こうした憤りの起源を求める者もいる。この書簡のなかで、当時21歳だったGatesは、自分の作成したソフトウェアが違法にコピーされたとして、ある開発者グループを公然と非難した。これには、すぐに反発の声があがった(ソフトウェアに金を払えだって?何て泣き言をいう奴なんだろう!)

 Gatesはその後もこのレッテルを貼られ続ける。やがて同氏とその延長線上にあるMicrosoftは、世間から色眼鏡を通して見られるようになった。PCの惣明期には人類のために世界をより良い場所に変えようと考えてビジネスを行っていた起業家もいたが、Microsoftはこれと異なり、ビジネスのやり方が残虐なフン族のようだと叩かれていた。彼らはモラルや倫理に欠け、そして何よりも、お粗末なソフトウェアを作ると非難された。

 無政府主義者でさえGatesにはムカツいたと見え、数年には同氏がクリームパイを投げつけられるという事件もあった。

 Microsoftは、代々広報活動が上手ではない。そして、略奪的な独占行為についてはハイテク業界で最も有名な確信犯である同社は、今後も2度と世間から偏見を改めてもらえないかもしれない。それでも、何かにつけてマイクロソフト陰謀説を唱えたがる人たちの気持ちも無視すべきではない。

 Microsoftにはあまりに悪いイメージがつきまとっているため、同社の良い行いさえもバッシングの材料にしかならない。たとえば、同社は先ごろ、発展途上国でWindows XPを破格の値段で販売し、コンピュータリテラシー向上を目的とした教育プログラムを展開すると発表した。確かに、この判断の背景に私利私欲が全くないと言えば嘘になる。だが、Microsoftと同様のことを、OralceやApple Computerが行ったというニュースを最近読んだ覚えがあるだろうか。

 Microsoftが密かに極悪非道なことをしている証拠がすでに暴かれているのだから、そんなことはどうでもいい。さっさと、明かりを暗くして、Bill Gatesの極悪非道ぶりを描いた映画でも愉しもうじゃないか・・・同社を悪者と決めつけたがる人たちは、きっとそんなふうにいうだろう。

 われわれはこうして、たとえばMicrosoftがIBM(のOS/2)を敵に回して戦った伝説のOS戦争で勝利したのは、同社が汚い手を使ったからだと教えられた。OS/2のほうが技術的には優れていたかもしれないが、それを売り込むという点では、IBMが全く太刀打ちできなかったことや、改善を重ねたWindowsがついにOS/2より優れた製品になったことはどうでもいい。Microsoftの悪行と比べれば、そんなことは取るに足りない問題だ、と彼らはいうだろう。Microsoft対MacやMicrosoft対Linuxなど、同社を敵に回した戦いでは、こうした主張が幅を利かせてきた。

 冷静に考えると、Microsoftの評価をわずかばかり下げるのは別に間違ったことではないと思う。私だって無責任に、Gates一味のひどい行いや判断力のなさを、随分ともの笑いの種にしてきた。MSNBCが Michael Savage(トーク番組の司会者)のようなマヌケを番組のホストに起用しようとした際、どうしてMicrosoftでは誰もそれを止めなかったのか、あるいはそれを言い出すガッツがある人間がいなかったのかを私はいまでも知りたいと思う。

 だが、こうした数々の欠点を挙げて、現代--あるいは歴史上--でもっとも大きな成功を収めた企業としての、同社の実績を見過ごすべきではない。悪い、悪いと言われるMicrosoftだが、EnronやWorldComとは比べものにならない。だが、残念なことに、誰かが私に宛てて「Kennedy大統領を暗殺したのはGatesだという証拠がある」という内容の電子メールを送ってくるのも、時間の問題だろう。

 やれやれ・・・

筆者略歴
Charles Cooper
CNET News.com解説記事担当編集責任者

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