電子メールアドレスは誰のもの?

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 議員たちは法を改正してインターネットの成長に手を貸すべき時期にきている。このままでは、ユーザーのインターネット離れを招くことになりかねない。

 Pew Internet & American Lifeが最近行った調査からは、多くのユーザーが電子メールについて、便利さを上回るくらい面倒なことが付いて回ると感じていることが明らかになった。仕事やプライベートで、メールが不可欠な存在にまでなっていないユーザーは特にそう感じている。スパムがメールのさらなる普及を遅らせているのだとしたら、メールや他のウェブ技術がもたらす生産性の向上までもがスパムの影響で鈍る可能性がある。

 スパムについては所有権の侵害がよく問題とされるが、サイバースペースでは所有権の扱いがあいまいで混乱している。そもそも、所有権というものの定義が明確になっていない。ユーザーの視点から見ると、誰がメールアドレスを所有しているのか、メールアドレスの所有者にはどのような権利が与えられるのか、誰がメールアドレスによってもたらされる経済的利益を享受すべきなのか、といったことがまったく不明確なのである。このことは、受信トレイにも当てはまる。

 連邦政府は、Can-Spam法といった法律を制定しているが、これらの法律は、スパムの背後にあるこの根本的な問題を解決する上では、ほとんど役に立っていない。大半の州法および連邦法は(カリフォルニア州で最近制定された法律を除いて)、スパム業者の不正行為を抑制したり、受信者がスパムメールを識別できるようにしたりすることに焦点を当てているからだ。

 法律が制定されたことによって、所有権を主張する権利が強化されたり、個人のメール保護がより明確に定義されたわけではない。原告側が勝訴したほとんどのスパム訴訟では、不法侵入や不当利得に関する既存の法律に基づいて裁定が下されている。この事実は興味深い。

 既存の法律は、企業の権利を保護するという点では十分に強力かつ明確である。その証拠に、インターネットサービスプロバイダ(ISP)がスパム業者を訴えた訴訟では、どの場合もプロバイダ側が勝訴している。しかし、これら既存の法律によって法的地位が与えられるのは、インターネットを構成する世界中に設置されたサーバやルータ、光ファイバ、通信回線に接続するハードウェアを所有する者だけである。問題はここにある。

 スパムによる迷惑を一番に被り、メールを使用する際、対応に苦心しているのは、個人ユーザーなのである。  

 ところが、個人ユーザーがメールアドレスに対して何らかの権利を持つべきである理由が明確になっていない。ユーザーはせいぜい広告を見ることくらいで、インターネットを存続させるために何らかの負担をしているわけではないからだ。

 プライバシーの権利であれ、使用や保護に関する権利であれ、自身の権利に対するユーザーの主張など弱いものである。ユーザーは、法律や固定的な仕組みよりもむしろ、自分が抱く期待感や(勝手に前提した)共通の理解に基づいて主張を展開する。このため、個人ユーザーやそのメールが保護されることはなく、放ったらかしのままになっている。これでは良くない。個人ユーザーなしでは、インターネットは意味をなさないし、グローバルネットワークにどれだけ投資しても、ユーザーがいなければ価値がない。

 今のインターネットでは個人ユーザーの権利が定義されていないため、メールは共有財産になってしまっている。つまり、メールはみんなのものなのだ。グローバルネットワークのインフラについては、誰もが共有で利用することに利用しているが、実はメールもその一部なのである。このため、メールが個人の私的財産であると主張するのは難しい。

 現在の法律に照らしてみると、厳密には、メールアドレスはメールの宛先のドメイン名(メールアドレスの@以降の部分)の所有者の財産ということになっている。これは、雇用主かもしれないし、ISPかもしれない。あるいは、無料のウェブメールサービスかもしれない。この状況では、メールアドレスが私的財産であると主張するのは極めて難しい。私のメールアドレスも、私が何らかの効果を生み出すために、誰かに向かって自らの意志で行う通信よりも、誰かが私に何かを送るために使用されるケースのほうがはるかに多い。

 こうした客観的な事実があるにもかかわらず、多くの人はメールアドレスが自分の所有物であって欲しいと願っている。自分のメールアドレスの使われ方は自分である程度コントロールできると信じているし、実際の手紙と同じように、悪用から保護されるべきであると思っている。このように信じているからこそ、ユーザーはネットワークの構成員として、インターネットを使用することに同意しているわけだ。スパムはこうしたユーザーの期待を根本から覆してしまっている。メールアドレスは保護されない。誰でも他人のメールアドレスを無料で使用できる。歴史が示しているように、共有財産、つまり皆がタダで所有する財産は濫用される。場合によっては、その財産の価値がほぼゼロに等しくなるまで濫用されることもある。

 正しい方向に踏み出すための第一歩は、スパム業者に対して訴訟を起こせるような法的地位を個人に与えることだ。そうすれば、自分のメールアドレスに対する権利が声高に主張されるようになるだろう。1991 年に制定されたTelephone Consumer Protection Act(電話消費者保護法)は、まさにこの戦術によって、迷惑ファックスを消滅させることに成功した。こうした法改正がなされれば、スパム業者が法廷に引っ張り出される可能性が高くなるため、結果としてスパム業者側のコストが上がることになる。迷惑メールを発信するたびに、そのすべての受信者から訴えられる可能性が発生するとなれば、スパム業者は送信ボタンを押す前に考え直すだろう。カリフォルニア州ではこれを実現する法律を可決したのだが、Can-Spam法によって、その施行を阻止されてしまった。

 スパムの経済的コストは、毎年100億ドル以上に達すると見られている。メールを受け入れ使用し続けることに伴う潜在的脅威は増大する一方である。議員たちは、インターネット上での個人の権利保護を強化することで、インターネットの成熟に一役買うことができる。そうしないと、冒頭で紹介した調査結果が示すように、インターネットで得られるはずだった莫大な利益や、経済的生産性の向上が損なわれることになりかねない。

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