大型連休を挟んで株式相場が大幅下落し、その余韻がまだ尾を引いているが、それまで過熱ぎみだった急ピッチでの上昇に冷や水が浴びせ掛けられたことで、仕切り直しの相場が始まろうとしている。そこで、前3月期の決算と今3月期の業績見通しが出そろった総合電機5社(日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通)の業績動向に改めて関心が集まりそうだ。
総合電機5社のなかで、今回の決算で特に注目を集めたのが富士通と東芝だ。富士通は前3月期の連結最終損益が3期ぶりに497億円と黒字転換した。主力のソフトウェア・サービスの営業利益は、欧州地域の子会社再編で特別損失を計上したため前期比377億円減の1387億円となったものの、好調なAV機器関連の電子デバイスの営業利益が同591億円増の275億円と、前年度の赤字から黒字に転じ、ソフトウェア・サービスのマイナス分をカバーした。
さらに富士通の前3月期決算の大きな特徴は、巨額な特別損益の計上で、これまで足かせとなっていた事業構造の大幅な改革をほぼ達成したことだ。株式の売却や、厚生年金基金の代行返上などで合計2948億円の特別利益を計上した。一方で、欧州、北米を中心としたグローバルな再編による損失や、国内ソフトウェア・サービスの基本構造の見直しによる回収不能額683億円の償却など特別損失1875億円を計上することで、長年の足かせとなってきた事業の構造改革をほぼ達成した。株価というものは非常に正直なもので、多くのハイテク銘柄が4月26日を境に反落軌道に入っているなかでも、富士通だけは上昇を続け、その後も年初来高値圏で頑強な値動きとなっている。
半面、市場をがっかりさせたのが東芝だ。フラッシュメモリーの好調から好業績が期待されたが、前3月期の連結営業利益は、代行返上益を除けば実質では市場予想を下回る内容となった。営業利益実績は、市場の事前のコンセンサスを大きく上回る1746億円だったが、代行返上益489億円を計上したためで、実質は1257億円に止まった。また今3月期についても、フラッシュメモリーの価格下落を想定し、減損などのリスクを考慮して純利益が前期比微増にとどまると発表しており、市場関係者の失望を買う結果となった。
みずほ証券ではこの決算発表の内容を受けて、4月28日付で東芝の投資判断を従来の「1」から「3」へと一気に2段階引き下げた。一部アナリストからは「東芝の今3月期の業績見通しはかなり控えめ」との同情的な見方があるものの、株価は576円(4月26日)の年初来高値から447円(5月11日)の安値まで短期間に27%という厳しい下げに見舞われた。今後年初来高値の576円を更新するにはかなりの時間が必要との見方が多い。
NECは、今回の決算では収益の回復はもとより、財務体質の大幅な改善が大きな特徴となっている。年金改革の効果や公募増資の実施が寄与し、連結株主資本は前々期に比べて2倍水準に回復した。今3月期については、中国や欧州といった海外での携帯電話端末機器の伸びが期待できるほか、半導体事業についても好調が持続しそうだ。
三菱電機は、前3月期には産業用メカトロニクス部門が急拡大したが、今下期にはその勢いがスローダウンする懸念がつきまとう。デバイス事業はデジタル家電景気の拡大を追い風に、引き続き順調な推移をみせる見通しだ。ただ、株価の点では三菱電機の場合、グループ企業の三菱自動車の不祥事拡大やダイムラー・クライスラーからの支援停止問題に関連して連動安した面もあるため、過度に売られすぎたという認識も必要だろう。
日立は、前3月期の連結純利益こそ税負担の増加という特殊要因で43%減となったものの、本業では順調な推移をみせている。携帯端末・デジタルAVの市場拡大で中小型液晶が黒字化し、プラズマテレビも出荷増、高機能型白物家電も売れ始め、金属・化成・建機も収益寄与が拡大した。IBMから買収したHDD子会社も、ノートパソコン向け小型HDDが繁忙で、前期100億円の営業赤字が今期は数百億円の黒字に転換する見込み。2005年3月期の営業利益は、3000億円(前期比3.3倍)まで回復する見通しだと発表している。
総合電機各社とも、今3月期の業績については、程度の差こそあれそれぞれ明るい見通しを公表している。しかし、富士通を除いた各社の株価は、現在の全体相場下落のなかで、短期間に20%を超える大幅な急落に見舞われている。4月下旬までの株価上昇局面で今3月期の好業績についてはかなりの部分を織り込んだとの見方が一般的だ。全体的にみればある程度の株価の戻りは想定できるものの、総合電機5社すべてが年初来高値を更新するにはかなりの時間がかかりそうだ。
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