進化するオーディオ圧縮技術--開発者たちはいま - (page 3)

John Borland(CNET News.com)2004年03月29日 10時00分

 この時、Dietzは半信半疑だったが、2人はすぐに再会することになる。Liljerydは、陳腐化するAM無線周波スペクトラムをデジタル放送技術で改善しようと試みる業界団体、Digital Radio Mondiale連合に参加した。ここではFraunhoferのAAC技術が一部利用されているのだ。

 「参加すれば彼と一緒に働くことができる、という単純な考えだったが、結果的にうまくいったよ」とLiljerydは言う。

 Liljerydの技術を実際に目にして、Dietzと彼のチームは納得した。さらに詳しく説明を受けた後、彼らはLiljerydの仲間に加わることにした。高名な研究機関を離れて、自分たちのオーディオ技術のノウハウとLiljerydのアイデアを統合すると決めたのだ。

 「Liljerydは典型的な起業家だ。彼は工業技術を学んだわけではない。腕一本で成功を収めた男だ。彼が特別なところは、様々な分野から多くの情報を引き出せることだ。しかし、彼のアイデアを現実のものにするためには、熟練した大きなチームが必要だった」とDietzは述べている。

 Dietzはこの新しい会社の最高経営責任者に就任し、新会社の名前はCoding TechnologiesというLiljerydの会社名がそのまま引き継がれた。Fraunhoferチームの多くが新会社に移り、本拠地はドイツとなった。Liljerydは、主任研究員としてスウェーデンに留まっている。

将来への展望

 その後Coding Technologiesは着実な成功を収めている。Dietzと彼のチームは、Liljerydの技術を彼らのMP3コーデックに応用し、MP3ProとしてThomsonにライセンス供与している。AACについては、ライセンスとマーケティング事業を社内で続けることに決めた。同社では、自社版AACをAACPlusとしており、衛星放送、携帯電話、インターネット関連の企業に対するライセンス事業で極めて大きな成功を収めている。AACPlusはさらに、MPEGの標準オーディオツールとしても認められた。

 Coding Technologiesはいまだに小さな企業だが、Microsoftなどの大企業と対抗するにあたっていくつか利点がある。1つは、MPEG標準化グループの支援を受けていることだ。このことで、RealNetworksなどのストリーミングメディア企業が、同社のAACコーデックをサポートするようになった。

 RealNetworksのマーケティングディレクターSherman Griffinは、「Coding Technologiesには大変満足している。われわれが試した中で、同社の開発したAACが最も高い品質だった」と述べている。

 Coding Technologiesは、現在自社で開発したコーデックを売り込んでいるに過ぎないが、Microsoftやソニーなどが開発した既存のフォーマットにLiljerydのアイデアを応用させることもできる力を持っている。今のところ、これらの企業がこうした方向に動く気配はないが、オーディオビジネスの競争が激化するにつれ、現実味は増してくる。

 Liljerydは、スペインのマヨルカ島で住居用の90フィート級ヨットを買い、それに乗って自国に戻ってきたばかりだ。古い58フィート級のボードは、もはやコンピュータやオーディオケーブルの海の中に沈んでいるという。

 Liljerydにはまだ公開していないアイデアがいくつかあるという。それらがCoding Technologiesで実現するかどうかはわからない。しかしながら彼の功績は、自分のアイデアをDietzおよびその他のエンジニアが実用化することで築かれてきた。

 「基礎となるアイデアを生み出すのが私の役目で、開発は科学者にまかせている。これが一般的にうまくいく方法だ」とLiljeryd。「自分1人の手柄だと思われるのはあまり好きではない。ただ、最初の仕掛けを作ったのは私だということくらいは言っておこうかな」

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