ITバブル後初の大型IPOとなるGoogleの株式公開は、ようやく勢いを取り戻したIT市場に冷や水を浴びせることになるかもしれない。
大型IPOに浮かれる投資銀行家。落ち着きがなくだまされやすいマスコミ。やんやと喝采を送るKleiner Perkins Caufield & Byers以下のベンチャーキャピタル。「第2のeBay」の分け前にあずかろうと、証券会社に電話をかけまくる大勢のユーザー――どこかで見たことのある光景だ。
今のIT業界に必要なのは、冷静で、合理的で、賢明で、規律ある株式市場だ。法外な値札が乱舞する砂上の楼閣ではない。Googleの時価総額が60億ドルというなら合点がいく。しかし、150億ドルを超えるとなれば、第2次バブルの文字がちらついてくる。
GoogleのIPOは1995年のNetscapeのIPOをほうふつとさせる。このとき、Netscapeは一晩で時価総額20億ドルを超える大企業に変貌した。しかし、Microsoftがブラウザ市場に参入すると、あっという間にシェアを奪われ、1999年には買収の憂き目にあう。
今、ポータル各社の戦いは大詰めを迎えている。AOLは戦線から脱落した。これといった検索機能も、魅力的な経験も提供できない以上、顧客の流出は進むばかりだ。今後の戦いはGoogle、Microsoft、Yahooの3社で繰り広げられることになるだろう。
Microsoftが技術力でトップに立つことはない――これまでもそうだったし、これからもそうだ。しかし、同社はデスクトップをMSNに統合し、顧客に新世代の検索機能を提供することができる。Microsoftは持ち前のねばり強さで、この戦いを制するだろう。
Yahooはユーザーに一貫した経験を提供し、Overture/Inktomiの技術をもとに検索機能を強化することで、Microsoftに次ぐ地位を確保するはずだ。
GoogleはIPO騒ぎを切り抜けることができたとしても、苦しい立場に立たされるだろう。今後は検索からの脱却と多様化を進め、「最高の技術力」を過信せず、安定した市場地位の確保を目指すべきだ。
Googleは優れた人材と卓越した技術力を持つ、すばらしい会社だ。しかし、時代は行き当たりばったりの成長ではなく、広い視野を持つことを求めている。検索だけで生き伸びることはできない。
第1のファクターは競争だ。Googleには敵が多い。Googleはポップアップ広告ビジネスを破壊し、自社がリーダーとなっている広告検索を広告収入の主役にしようとしている。また、Googleがあればポータルを利用しなくても関連するコンテンツを探すことができるので、ユーザーはMSN、AOL、Yahooといったサイトを無視するようになった。独占欲の強いMicrosoftは、ユーザーが自社の帝国を迂回したり、自社のOSやブラウザの上にGoogleツールバーを置いたりすることを苦々しく思っている。検索はMicrosoft好みの複雑なソフトウェアだ。同社の原点は言語にあることを思い出してほしい。ゲーム機やTVと違い、検索は馴染みのあるビジネスだ。検索機能でGoogleを打ち負かすことは、Microsoftにとって願ってもないチャンスとなる。
第2のファクターは参入障壁がないことだ。Googleの前に使っていた検索エンジンを思い出してほしい(私はAlta Vistaだった)。Googleに乗り換えるまでの時間を覚えているだろうか。ほんの数秒だ。Googleから別の検索エンジンに乗り換える時間も数秒にすぎないだろう。一般に、成功している企業は独占状態を生み出している。インターネットの場合は、オンラインバンキング、Amazonの1-Click注文、eBayのように、企業はユーザーの乗り換えコストを高くすることで市場を独占してきた。しかし、Googleのビジネスモデルは独占とは無縁だ。現在の地位を守ってくれる参入障壁はない。
第3のファクターはウェブの進化だ。Googleは過渡期の検索サービスの1つにすぎない。確かにGoogleのスキームはすばらしい。しかし、ウェブの身上は変化にある。今後5年のうちに、ウェブはファイルベースのコンテンツ(HTMLページ)を中心とした場所から、実行可能なコンテンツ(オンラインゲームや、XMLのようなWebサービスを実現する新しい構造)を中心とした場所へ変わるだろう。そうなれば、リンクに基づいた検索は有効ではなくなる。端的にいえば、Googleは将来の構造化された、実行可能なインターネットでは優位を失う可能性が高い。
今のところ、Google検索は最高のテクノロジーだ。ばらばらで一貫性のないウェブコンテンツは、Googleのおかげでアクセス可能になり、ユーザーは情報を自由に整理し、利用できるようになった。あるオンライン小売業者がクリスマス商戦について語った言葉を、検索市場にあてはめるとこうなる。「昔はEメールやバナー広告を使って顧客にアクセスしていた。しかしGoogleが登場してからは、顧客がこちらを追ってくる」
Googleは進化し続けている。Googleツールバーのおかげで、私は悩みの種だったポップアップ広告から解放された。ウェブフォームに住所などの情報を入力する手間も、Googleツールバーが自動化してくれた。ウェブの短い歴史は2つの時期に分けることができる。Google以前とGoogle以降だ。Googleを創設したSergei BrinとLarry Pageは、インターネットを嘆かわしい第1次バブルから救った人物として歴史に名を残すだろう。
私はGoogleに好意を持っている。しかし、差し迫った同社のIPOをめぐる誇大広告、ばか騒ぎ、時価総額150億ドルといった噂には悪い予感を感じる。Google検索は優れているか? もちろんだ。では、Googleには何百億ドルもの価値があるのだろうか。その答えはノーだと思う。
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