携帯電話の事業者を変えても同じ番号をそのまま使える番号ポータビリティ制度の導入により、利用者にとって最大で6401億円の便益が生まれるとの試算が出された。これは1月22日に総務省で開かれた、携帯電話の番号ポータビリティのあり方に関する研究会の中で明らかにされたもの。
この試算を発表したのは早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授の三友仁志氏。同氏の調査によると、総計で4728〜6401億円の利用者便益が生まれるという。内訳は次のようになる。まず、番号ポータビリティの利用者は番号変更の通知等にかかる費用が必要なくなる。この費用が37〜855億円。次に、事業者は契約者をつなぎ止めるために継続利用割引を拡大したり、機種変更の端末価格を引き下げたりすると予測され、番号ポータビリティを利用しない人にも利益が生まれる。この額が1995〜2850億円。最後に、事業者間の競争が促進されることから、通信料金が低減される。この額が2696億円という。ただし、通話料が安くなった分だけ利用量が増えると予測されるため、事業者の料金収入はほぼ変わらないと三友氏は話す。
現在総務省では携帯電話の番号ポータビリティの導入の是非について議論を行っており、必要な設備費用を誰が負担するのかが問題の1つとして挙げられている。三友氏はこのような試算を紹介した上で、番号ポータビリティの利用者以外も恩恵を受けるのだから、受益者となる携帯電話利用者全員が費用を負担すべきだと主張する。ただし、総務省が2003年度に行った調査では、携帯電話事業者が費用を負担すべきと答えた人が65.1%に上っており、実際に利用者に課金する場合には、便益をいかに周知させるかが課題となりそうだ。
設備投資はもっと削れる可能性も
今回の会議では、総務省が試算した設備投資額の根拠も焦点となった。総務省は2002年6月より通信事業者や端末メーカーによる勉強会を開催し、導入には915億円〜1485億円程度の費用がかかるとしている。しかし海外の事例を見ると、イギリスは約15.6億円、フランスは1事業者あたり約27億円。香港では10年間の総コストが約76.7〜116.6億円となっており、総務省の試算額は桁違いに高い。
この点についてNTTドコモ取締役経営企画部長の辻村清行氏は、海外のシステムでは事業者変更手続きに2週間から1カ月程度かかると指摘し、費用が安い代わりにユーザーの利便性が損なわれるおそれがあると説明。「試算額はあらゆる機能を盛り込んだ数値だ。機能を削ればもっと安くなるだろう」(辻村氏)
これに対して東京大学大学院新領域創成科学研究科教授の相田仁氏は、「機能を少なくしたとしたら、どのくらい安くなるのかを知りたい」と要請。実際、2001年に実現した固定電話の番号ポータビリティでは、機能を削ることで当初の試算額に比べて大幅に安くシステムを構築できたという。これには辻村氏も、「4社の事業者で、少ない機能の場合にかかる費用を検討する勉強会を開きたい」とした。
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