殴り込みをかけた家電市場で苦戦するPCメーカー

Ed Frauenheim and Richard Shim2004年01月19日 10時00分
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 いまひとつぱっとしないPC業界に久々に明るい材料をもたらした家電市場。PCメーカーの健闘が有力視されているが、先行きはそれほど甘くない。

 主要なPCメーカーのほとんどは、家庭用エンターテインメント製品を拡充している。とりわけ力を入れているのが、昨年ブームとなったフラットパネルのテレビセットだ。DellやHewlett-Packard、Gatewayといった大手コンピュータメーカーは、家電分野をこれまでリードしてきたSony、Philips、Panasonicなどの牙城を崩そうとテレビ市場に参入した。

 ここまでのところ、各社は首尾よく事を運んでいるようだ。持ち前の直販システムやコスト削減策を駆使することで、過去にPCで稼ぎ出していた8〜15%という利益率を保ちつつ、低価格のテレビ製品を提供することが可能となっている。しかし、フラットパネルテレビの価格が予想通り急落した場合、PCメーカーがこの不慣れな戦いの場で持ちこたえられるかどうかは定かでない。

 市場調査会社のiSuppli/Stanford Resourcesによれば、すでに26〜30インチクラスのフラットパネルテレビにおける平均価格は、2002年の約6700ドルから、昨年末にはおよそ3200ドルに下落した。今年末には競争の激化を受けて、1800ドル程度まで落ち込むと見られる。PCメーカーに加えて、SamsungやMotorola、Epsonといったプレイヤーもフラットパネル市場に参戦しつつある。

一段と厳しい生き残り競争に

 「5〜6年前は平穏だったこのマーケットに、いまや狩猟民族のごとく新規参入する企業が相次いでいる」と、毎年恒例のConsumer Electronics Showに姿を現したSony Electronicsの社長兼COO、小宮山秀樹はいう。

 デジタル技術の登場により、電子産業界は非常に不安定な様相を呈している。価格の変動が大きく、数年前に当たり前だった30〜40%といった利益率も達成できないままだ。ほんの2〜3年前には数百ドルで売られていたDVDプレイヤーも、今では40ドル以下で手に入る。

 さまざまな商品がこのように日用品と化し、多くの家電産業は製造工場や小売店の棚から撤退を迫られた。一時代を築いた家電の王様Sonyでさえ昨年度は業績が伸び悩み、2万人以上を解雇した。家電小売販売のCircuit Cityの株価も、12月期の業績が失望売りを誘っている。

 しかし、たとえどんなリスクがあろうとも、本業のコンピュータで苦戦を強いられているPCメーカーにはもはやこの危険な家電市場に参入するほかに選択肢は残されていないようだ。最近のある調査によれば、2004年の企業のIT支出額はさほど伸びず、大規模な設備投資も今のところ見送るという予測も出ている。

 「長期的には、PCメーカーは身を守るために家電分野に参入せざるを得ない」と調査会社NPD GroupのアナリストStephen Bakerは分析する。PC企業は、将来各家庭の主役となるのが、テレビやDVDレコーダー、セットトップボックス、ビデオゲーム機といった他業界の製品ではなく、コンピュータ技術となるよう必死なのだ。

 Gatewayは、PC分野の売上減を補う手段として家電市場におけるフラットパネルテレビの可能性にいち早く着目したPCメーカーだ。同社の消費者部門のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるMatt Milneは、プラズマテレビ市場で同社が善戦できたいくつかの背景を述べる。そのひとつはテレビの製造業界が、日本企業が多数の特許を有するアナログ技術を使った製品から、複数のサプライヤーが提供するコンポーネントで製造できるデジタル技術へと移行しつつあったことだ。

 もうひとつの理由は、家電メーカーがこれまで長い間、複雑で冗長な流通網に依存してきたことである。日本製品の場合、いくつかの卸売業者や販売店の手を経てやっと顧客のもとに届く。Gatewayは直販を行うことで、これらの中間コストを省くことができた。

 その結果、同社におけるテレビ、デジタルカメラ、MP3プレイヤー、その他の家電製品は「おおむね20%以上、中にはそれ以上の利益率」を弾き出したとMilneは述べる。Gatewayの稼ぎ出す利益の3分の1はいまや家電製品によるものだ。

 しかし、PCメーカーにとって家電分野は都合よく効く万能薬ではなさそうだ。Gatewayは2002年後半に最初のプラズマテレビを発表して以来、一定の成果をあげたものの、全社的な財政状態はいまなお芳しくない。DVDプレイヤー市場で実証されたように、比較的利益率の高いフラットパネルテレビ市場のうまみも、すぐに消え去ってしまうかもしれない。

 「あらゆるハードウェアが最終的には日用品となるだろう。DVDプレイヤーがまさしくそうなっている」。こう述べるのは、MicrosoftのEmbedded Devices Groupのグループ製品マネージャー、Frank Barbieriだ。「とはいえ、メーカーは新たな技術開発に挑み続けるだろう」

 一方、Samsung Electronicsの戦略マーケティング部門シニアバイスプレジデントであるPeter Weedfaldは、家電メーカーの多くが同じ製品群を売り場にいつまでも並べたままで、新機能を備えたモデルをなかなか発表していないと述べる。Samsungでは対照的に、アイテム数を絞り込む一方で、製品のアップグレードをさらに速める考えを示した。

 しかし、家電業界に詳しい人間に言わせれば、この手の戦略も今日の過当競争ではやすやすと通用しないと喝破する。「新開発の技術や製品の高品質といった優位性を謳歌していられる時間は次第に短くなっている」とSony Electronicsマーケティング部門のシニアバイスプレジデント、Mark Vikenは話す。

 iSuppli/Stanford ResourcesのアナリストRiddhi Patelは、PCメーカーにとってフラットパネルテレビ産業界における知名度の向上は大きな障壁となるだろうと見る。「PCメーカーが30%や40%といったマーケットシェアを獲得できるとは思えない。消費者はテレビに関して、いまなおブランド志向がかなり強い」

 そもそもコンピュータ業界が家電市場に乗り込むのは、今回が最初という訳ではない。10年前以上になるが、シリコンバレーに集まる企業が、オンライン上でコミュニケーションしたりプログラミングの作業に参加したりできる双方向テレビの原型というべき技術に取り組んでいた。だが、その努力は十分な実を結ばなかった。

 コンピュータ業界が着実に家電業界に進出していった90年代半ば、コンピュータ業界とテレビ業界は大方の予想通り、その技術と市場を融合するかのように映った。GatewayやCompaq ComputerなどのPCメーカーは、家電市場でライバルに差をつけるため、PCとテレビの一体型製品を開発していた。なかでもMicrosoftの動きは顕著で、ネットサーフィン可能なセットトップボックスを提供していたスタートアップ企業のWebTVを4億2500万ドルで買収した。

 しかし、コンピュータ産業の多くがやがてテレビ部門から手を引いた。パソコン市場が成長を遂げていたその頃、消費者はこの分野にあまり関心を示さなかったからである。ところがそれ以降、いくつかの画期的な技術が現れ、リビングルームでデジタルコンピュータ技術を使うことに注目が集まるようになる。

 その一例が、デジタル音楽ファイルをインターネット上でやりとりし、わずかな出費で自分だけのCDを作成できるという、いわゆるNapster現象だ。そしてもうひとつが家庭内で構築する無線ネットワークだ。PC業界から生まれた無線ネットワークという技術が家庭内に入り込み、新たなチャンスを生み出したことになる。

 この家庭内ネットワークに関する盛り上がりは、それまでリビングルームに存在しなかった製品に対する消費者の関心を呼び覚ました、とNutmeg Securitiesのアナリスト、Peter Labeは述べる。「我々はおそらく、いま再び伸びつつあるテレビ市場で大変革を目にするだろう」

直販戦略に疑問

 PCメーカーは口をそろえて、コンピュータから家電への移行は自然の成り行きだと述べる。たとえばDellは、消費者が90年代にパソコンをオンラインで購入し始めたように、家電もオンライン上で買うようになると確信している。

 Dell消費者部門シニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのJohn Hamlinは、同社が成功した理由として、技術が成熟して標準化された市場に、効率的な生産システムを持ち込むことができたからだと話す。彼が言うところの「デル効果」のもとでは、「最初に価格破壊が起こり、次いで消費者が利便性を享受するようになる。すでに低価格化が起きている市場でさえもそうなる」と自信を見せる。

 一方で、PC産業界の唱える戦術が果たしてテレビ分野でも簡単に通用するかどうか怪しむ声もある。「消費者はパソコン本体をいちいち見なくても買う。だが、テレビの場合そうはいかないだろう」とIDCのアナリスト、Bob O’Donnellは述べる。「製品を実際に見て、手に取りたいという消費者の要望がある以上、Dellは難しい戦いを強いられることになる」

 さらに家電業界の専門家は、その程度の課題は市場開拓を目論む新規参入者にとってまだほんの序章に過ぎないと指摘する。コンピュータ業界は、ビジネスの難しさを重く捉えていない、というのが彼らの見解だ。

 「PCメーカーが成功したのは、顧客の生産効率を改善したことにある。だが、家庭用エンターテインメント分野はそうではない。ユーザーの心の動きや体験に伴う満足度をよく理解することが必要だ。我々は、消費者の求めているものを明らかにしようと徹底した研究開発を行なっている」とSonyの小宮山は述べる。「Dellが果たしてそのような業務環境を新たに整え、そしてユーザーの覚える満足感といったものを理解することができるのか、私には疑問だ」

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