投資銀行に翻弄されないオープンなIPOの勧め

インタビュー:梅田望夫2004年01月16日 09時15分
この記事は『ダイヤモンドLOOP(ループ)』(2003年2月号)に掲載された「破壊的創造のマネジメント」から「投資銀行に翻弄されないオープンなIPOの勧め」を抜粋したものです。LOOPは2004年5月号(2004年4月8日発売)をもって休刊いたしました。

ウィリアム・ハンブレクト WRハンブレクト会長兼CEO

投資銀行界の重鎮、ウィリアム・ハンブレクト氏が5年前に提唱した「オープンIPO」という考え方がシリコンバレーを中心に再評価を集めている。機関投資家へのヒアリングではなく、オークションで公開価格を決めるメカニズムが、公開予備軍の心をとらえた。グーグルも採用を検討中といわれる。ハンブレクト氏は、オープンIPOでこそ企業は顧客ベースに近い安定的な投資家ベースを確立できると説く。

Q あなたが投資銀行ハンブレクト&クイスト(H&Q)を創設したのは、インテル創業と同じ1968年です。テクノロジーという新分野に特化したブティック型投資銀行とはずいぶん先鋭的ですが、設立の背景にはどのような考えがあったのですか。

A 当時はシリコンバレーという名前こそありませんでしたが、ここで何か重要なことが起こっていると感じたのです。ところが、ニューヨークの古い投資銀行は、テクノロジーなど難しくて理解できないし、規模も小さくて儲けのあるビジネスにならないと、関心を示さなかった。いくら説得しようとしてもだめなので、テクノロジーに強い人材を集めて、この分野を専門にした投資銀行を自分でつくったわけです。

Q その後、H&Qを辞めて、98年にWRハンブレクトという現在の投資銀行を設立しましたね。

A そのころまでに、H&Qのパートナーたちは大きな銀行と合併すべきだと考えていました。私は賛同できなかったので、H&Qを辞めたのです。H&Qはその1年半後、チェース・マンハッタン銀行と合併し、そのチェースが今度はJ.P.モルガン銀行と合併したため、かつてのH&Qは今、J.P.モルガン銀行の一部門となっています。

Q このWRハンブレクトのオフィスも、銀行というよりはスタートアップの雰囲気ですが、ここではテクノロジーを駆使して投資ビジネスを展開しようとしているわけですね。

A そのとおりです。ハーバード大学教授で『イノベーターのジレンマ』の著者であるクレイトン・クリステンセンは、「破壊的技術」を見事に定義していますが、WRハンブレクトはまさにそれを武器にする会社の一例です。

 われわれは、1年かけてIPO(新規株公開)市場のダッチ・オークションのためのシステムを自前で開発しました。パブリックドメインにあるヴィックリーのオークションアルゴリズムを使い、これをインターネットに移行した。しかし、オープンIPOを実際に始めたのがバブルの絶頂期だったために、まともな注目を集められなかった。普通のIPOでもあれだけ成功しているように見えましたから。それでも、新しい考え方を持つ経営者らが、オープンIPOを試そうとやってきた。創業以来、現在(2003年12月1日)まで9社のIPOを請け負いました。

Q ビジネスモデルは、従来の投資銀行とはかなり異なるのですか。

A だいたい同じです。オープンIPOをスタートさせた後、この製品への関心は高いけれど、投資銀行としての普通の機能も必要だと気づきました。今では、販売、株取引、調査を手数料ベースで行なっています。つまり、かつてのH&Qとあまり変わらない。

Q 従来のIPOとは対照的なオープンIPOの例を教えてください。

A 地元のコーヒー会社であるピーツ・コーヒーの例を挙げましょう。同社は業績もよく、ボストンやニューヨークへ店を出したいと考えていたのですが、拡大戦略をとると赤字になる可能性があった。年間成長率は20%だったのですが、バブル期ではスピードが遅すぎて普通のバイヤーにはアピールしない。そこでわれわれが引き受けることになったのです。ピーツのお客にも買ってもらおうとメールオーダー顧客に電子メールを出したり、店にポスターを貼ったりしました。

 大部分の株は機関投資家が買い上げましたが、面白いのは、最も大量に買ったポートフォリオマネジャーがピーツのファンだということです。つまり、顧客ベースに近く、製品に本当に関心を持つ投資家ベースを確立できたということになります。ピーツの株は最初8ドルで公開され、現在は17ドルあたりで取引されています。

「オープンIPOに機関投資家が参加しないというのは嘘」

Q オープンIPOでもロードショーをやるのですか。

A はい、従来と同じプロセスをとります。調査をし、目論見書を作成し、ロードショーを行なう。異なるのは、株の値付けと配分だけです。個人、機関投資家の両方にアピールする。個人投資家へのリーチが効くインターネットブローカーも、機関投資家と同じ条件で参加します。

Q オープンIPOが注目される理由はそこですね。従来の投資銀行のやり方の何がいけなかったのでしょうか。

A バブル期にまかり通っていたのは、引受け銀行の儲けの論理が、健全なIPOシステムを乗っ取っていたことです。適正な価格で株を買う市場のバイヤーを探さずに、企業側には最低価格で納得させて株を引き受け、それを自分の顧客に売り、その顧客が翌日にはアフターマーケットで売り払って大儲けをする。自分の顧客に儲けを保証するかわりに、あとで大きな手数料ビジネスをもらうわけです。

 これを顧客サービスと呼ぶ銀行もありますが、私にいわせればインサイダーゲームのリベート以外の何ものでもありません。損をするのは、公開する企業です。10で引受け銀行に売った株があとで20の値をつけたとすると、最初からオープンにして20で売ることができた。

Q オープンIPOに対する新興企業の経営陣たちの見方はどうですか。

A 感触はかなりいい。特に、インターネット会社はインターネットオークションがパワフルなものであるとよくわかっています。抵抗しているのは、従来の引受け銀行とその古いシステムから利を得ている人びとです。

Q オープンIPOは、大規模のIPOには向かないという見方もありますが。

A 売り手と買い手が集まって大規模になればなるほど、オークションが効率的になることは、すぐに証明されるでしょう。

Q 今年はいよいよグーグルが株式を公開するだろうと、もっぱらの話題になっています。しかもオープンIPOの可能性もあると、あなたの名前がいつもメディアに出てきます。オープンIPOをすれば、グーグルの企業価値はより大きくなりますか。

A グーグルについてはコメントできません。いえるのは次のことです。オープンIPOに敵対するのは、まず従来の引受け銀行。彼らは、オープンIPOには機関投資家が参加しないと説いて、会社側の関心を挫こうとしている。だがそれは嘘です。現に過去2件のWRハンブレクトのオファリングには、70の機関投資家が参加しました。

 思うに、J.P.モルガンにしてもゴールドマン・サックスにしても、変化するのが難しいのでしょう。彼らには長い歴史がある。エスタブリッシュメントを重んじる法律事務所やベンチャーキャピタルとの深いつながりがある。目には見えないプレッシャーがかかるのではないでしょうか。

Q オープンIPOした株の変動は、従来とは異なるのでしょうか。

A これは分析してみたのですが、値付けは最終的には高くなります。アフターマーケットを見ると、取引も少なく、従来のように激しく上下に変動しない。つまり、オープンIPOでは、アフターマーケットの感情的な激変を避け、IPOの熱狂が収まる6ヵ月後には他と同じ適正レベルになる。短期で取引をしようとするなら向かないかもしれませんが、長くその株を保持するつもりなら合っています。

1986年に酷似?IPO市場回復の兆候

Q IPO市場は今年、回復すると見ていますか。

A すでにその最初の兆候は出ています。われわれが過去1年間に引き受けたIPOは、どれも順調です。投資家の目から見れば、新規公開株を買う最もいいタイミングは、バブルを脱して最初に上昇気流が起こるときです。

 86年と同じだと思えばいい。83年にバブルがあり、85年になってから市場が回復し始めた。86年には14社のテクノロジー関連企業がIPOをしましたが、これはマイクロソフト、オラクル、アドビ、リネア・テクノロジーなど、過去30年間で最もリターンのいい企業群なんです。それぞれ複合リターンが40%、37%、32%、29%となっています(03年10月15日現在)。バブル期にはダーウィンの適者生存の法則が働き、真に優れたテクノロジーを持った強い企業だけが、その後の環境を生き抜くのです。そのふるいを通り抜けていながら、値付けはバブル期よりずっと安い。

Q 私は、公開企業を、その企業価値によって4つに分けて考えます。第1は数億ドルのレベル、第2が数十億ドルのレベル、第3は数百億ドルのレベル、第4が数千億ドルのレベルです。これまでのスタートアップは、第1のカテゴリーのレベルでIPOして、うまくいけば第3の規模に成長した。ごく稀に第4の規模になる企業もあります。インテルやマイクロソフトがそうです。しかし、これからIPOしようというグーグルは、第1、第2の段階を飛ばして、第3レベルでIPOしようとしている。こうした状況で、市場の投資家には株価上昇による旨みは残されているのでしょうか。

A すべては、その企業の現在の財政モデルがどうなっているか、そして今後成長を続けていけるのかにかかっている。市場は、どんな企業であれ競合他社と比較したうえで適切な価格を付けるものです。投資家としては、その会社が成長し続けるかどうかを見極めなくてはならないということです。

Q 成熟したといわれるITの発展の余地はどこにあると思いますか。

A 過去20年間のような急速な成長はもう起こらないでしょう。また、ここ数年の低迷によって、企業のIT投資にはサイクルがあることがわかりました。そして、今やテクノロジーは、少なくとも一般向け製品においては、これ以上発展しても大きな変化をもたらさない地点にまで到達しています。

 それよりももっと大切なのは、シリコンバレーがアメリカのIP(知的所有権)ビジネスの中心地になるだろうということです。ここには聡明な才能が世界中から集まり、その数が臨界点に達してさらに才能を集める仕組みが出来上がっている。応用分野の開発は拡散して行なわれるでしょうが、基本的なテクノロジーのブレークスルーは、やはりここで起こり続けるはずです。

ウィリアム・ハンブレクト (William Hambrecht)
1968年にジョージ・クイスト氏(故人)とハイテク分野に特化したブティック型投資銀行ハンブレクト&クイスト(H&Q)を創業。80年代には巨額の富を生み出した。97年にH&Qの会長を退いて後、WRハンブレクトを創設。ソノマでワイナリーも経営。

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