IBMがスーパーコンピュータに賭ける理由

 米IBMのT.J. Watson Research Centerのシステム担当バイスプレジデント、Tilak Agerwalaはスーパーコンピュータが抱える問題の解決に取り組んでいる。

 様々な大学や国立研究所とのプロジェクトを通じて、Agerwalaはスーパーコンピュータや高性能クラスタの設置コストと、利用コストを軽減する方法を模索中だ。

 例えばPERCS(Productive、Easy-to-use、Reliable Computing System)プログラムは、様々なアプリケーションに合わせ自らを最適化できるマシンを作ろうという発想で生まれた。複雑な研究プロジェクトに必要なプログラムの開発時間を短縮し、毎秒1000兆回の計算処理(ぺタフロップ)を可能にするものだ。

 TRIPS (Tera-op Reliable Intelligently Adaptive Processing System)で は、IBMとテキサス大学が、毎秒1兆のアプリケーションを動かせる「チップ上の スーパーコンピュータ」を研究中だ。

 Agerwalaは、システム設計者が直面する問題と次に現れる大きな課題につい て、CNET News.comに語った。

---業務の概要を教えてください。

 サーバ、スーパーコンピュータ、組み込みシステムに関する、高度のハードウェア及びソフトウェア技術を開発する責任を負っています。非常に広範囲に及ぶもので、回路から、自動制御ツール、マイクロプロセッサのアーキテクチャ、OS、そしてオンデマンドの作業環境まで、全てを見ています。

---システムアーキテクチャに関する動きが、特にハードウェア側で、通常より活発な気がします。実際にそうなのでしょうか、それとも単なる私の気のせいでしょうか。

 私は、今は非常に面白い時期だと思っています。高性能コンピュータに今、特に注目する必要があります。それは、現代科学技術において高性能コンピュータが中心的役割を果たしているからです。

 急激な性能改善がこのことを牽引しています。我々は、以前より複雑な問題をより多く、しかも低コストで堅実に解決できるようになりました。これにより、3つの異なるインパクトを与えることができます。複雑な問題を解決して経済成長を可能にする、産業や科学を進展させる、コンピュータに関連するミッションクリティカルな国家的問題に取り組む、の3つです。

 物事には集束するポイントがあると思います。つまり、高パフォーマンスのコミュニティが、国防に関する課題に取り組みながら、経済成長を加速させることは実際に可能だと思います。

---IBMのスーパーコンピュータの研究にはどのように関連していますか。

 ここでも、我々の目標は確かに3つあります。経済成長を促進するために複雑な問題を解決したい、科学技術を発展させたい、そしてコンピュータに関連するミッションクリティカルな問題を解決したいと考えています。これは、様々な要素に置き換えられます。低コストで複雑な問題を解決する、非常に広範な一連のアプリケーションに関する問題を解決する、そして政府機関や学究機関と共同作業を行うといったことです。

 我々の戦略はまず、パワーに重点を置いた高性能コンピュータ商品ラインを積極的に改善することから始まります。この方法は、既存のモデルや技術を最大限に活用できるという利点があります。ムーアの法則を利用し、ソフトウェア標準を利用するようなもので す。ASCI Purpleが、この分野における我々の旗艦商品です。

 戦略の2番目の部分は、大容量、低コストのビルディングブロックで構成される高性能クラスタを開発することです。これは標準プロセッサや相互接続などを基盤とします。3番目は、高度な研究開発を行い、斬新なアプローチや設計を実施することです。

---Blue Gene/Lのようなものですか。

 はい、Blue Gene/L、TRIPS、そしてPERCSです。

 Blue Gene/Lは、本来は次世代クラスタの部類に入るものです。ただ、Blue Gene/Lは大量の並列処理の限界点を押し上げます。新しいプロセッサ設計と革新的なネットワークを組み合わせ、性能と処理密度と消費エネルギーを最適化するのです。これは、本当にコスト効率の良い処理方法で、そういった意味では(NECの)地球シミュレータと大きく異なります。

---PERCSはどうですか。

  PERCSでは、2010年という時間軸で当社の主要商用システムに必要となる、高度なハードウェア、ソフトウェア技術を開発中です。Blue Geneでは2004年末、Lawrence Livermore National Laboratoryに3分の1ペタフロップを提供する予定ですが、PERCSはずっと先の話です。ここでも、商用化 が目標です。

 PERCSでは、アプリケーションの要求に合わせてハードウェアとソフトウェアのコンポーネントを設定するような適応性の高いシステムを模索中です。この適応性により、システムの技術効率と使いやすさが向上します。

---それはどう考えればよいのでしょう。複数のプロセッサが、異なるOSやアプリケーションに合わせてほぼ瞬時に切り替わるシステムということですか。

 プロセッサだけではありません。キャッシュ構造をいかに適合させるか、アプリケーションの動的要求に応えるために、変化をチップ上にいかに再構成するかなど、多くの異なる課題に開発陣は取り組まねばなりません。そして2004年中か近年中には、正しい手法について何らかの結論を出さねばなりません。

---究極的には、どんな種類の問題を解決するのですか。

 (アプリケーションを)見つける時間を短縮します。PERCSには、非常に高度なコンパイラやミドルウェアが含まれます。これによりプログラム開発プロセスの多くの段階が自動化されるでしょう。

 HPCSのPは生産性(productivity)で、性能(performance)ではありません(HPCSはHigh Productivity Computing Systemsの略で、米国防総省高度研究計画局(DARPA)が新世代スーパーコンピュータアーキテクチャを2010年までに開発するために始めた1億4600万ドルのプロジェクト)。ですから、我々のここでの目標は、異なる種類のアプリケーション要件に自ら適合する能力のあるコンピュータを作り出すことです。

 ただし強調したいのは、次の段階は研究段階である点です。IBMはこれらの技術の開発を進め、その技術が与えるインパクトについてより理知的に話ができるようになるでしょう。全体的な青写真はありますが、目標にどこまで近づけるかが見えるまでには、依然として研究課題が山積しています。取り組まねばならない基礎的な課題もいくつかあります。

---御社のシステムで解決したい大きな科学的課題はありますか。すでに遺伝子情報は解析されています。次の大きな課題は。

 私はこの分野に長い間取り組んできました。その理由のひとつは、進化を生む大きな潜在的可能性があるからです。月並みかもしれませんが、IBMはこの種のインパクトを与えることができますし、また実際にインパクトを与えています。天気予報もそのうちのひとつです。生命科学にも非常に興味があります。Blue Geneのプログラムは、たんぱく質の構造という壮大な課題を解くためのひとつの手法として始まりました。また、核処理プログラムのための問題解決にも取り組んでおり、これにより兵器実験をせずに貯蔵されている核の安全性を確認できます。

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