第3世代の世界展開は中国から-NECの携帯電話戦略

山岸広太郎(CNETJapan 編集部)2003年12月15日 10時00分

 今年9月に第3世代(3G)をにらみ中国での携帯電話事業戦略を発表したNEC。NECは国内での携帯電話端末の販売はシェア1位の実績を誇るが、通信方式の違いもあり海外展開はほとんど進んでいなかったのが実情だ。

 一方、中国の携帯電話市場は累積加入者数が2億4000万人を突破し、世界最大の携帯電話市場になっている(日本は約8000万人)。モトローラやノキアなど海外勢と中国国産の端末メーカーが入り乱れたグローバル競争が進んでおり、3Gの導入をきっかけに技術的に世界最先端の市場になる可能性を秘めている。

 NECでは北京にある中国統括会社の日電(中国)有限公司(NEC中国)にモバイルターミナル開発センターを設置。中国をはじめとする海外向けの3G携帯電話端末の開発は北京を中心に進めていく方針だという。また、従来4つに別れていた通信システムの製造・開発・保守を行なう現地法人を再編し3G通信インフラ構築の能力を強化する一方、R&Dを行なうNEC中国研究院を設置している。さらに、開発の機動力を高めるために携帯電話の設計を専門に行なう現地のデザインハウスと合弁で設計会社も設立した。モバイルターミナル開発センター長の山崎耕司氏にNECの中国における携帯電話ビジネスについて聞いた。

---NECが中国での携帯電話事業を本格化させる狙いは何ですか。

 日本のマーケットが成熟化してきたからです。日本でのNECの携帯電話端末販売は99年2月のNTTドコモのiモード開始にあわせて発売したN505iで大きく飛躍しました。わたし自身、iモードの立ち上げから携帯電話端末の開発に携わってきて、NECの携帯電話事業は一定の成功を収めたと考えていますが、日本市場だけでやっていても先がありません。いままで特に日本国内に注力していましたが、収益性が下がってくるため今後は海外をてこ入れしようという考えです。

---それまでの中国市場への取り組みはどのようなものだったのでしょう。

 今年の3月からモバイルターミナル開発センター長として赴任したのですが、私が来た当初に中国で売られていたNECの端末は日本だと数世代前の白黒の折りたたみ型。サイズも大きく、デザインも時代遅れなものでした。私が見てもこれじゃあ売れないよなあと・・・。

 NECの携帯電話事業は基本的にキャリア向けのビジネスなんです。日本でも海外でも通信インフラと端末の両方をキャリアに販売するモデルでやってきました。しかし中国は違う。これまでの中国はメーカーが責任を持ってディストリビューターに販売し、ユーザーは好きな端末を買って好きなキャリアを選ぶことができる。ビジネスの構造が日本と全く違っていました。しかしながらこれからは中国においてもキャリアが大きく関与してくる可能性が大きいのです。

 出荷台数を見ても去年は年間数十万台で台数ベースのシェアも0.5%くらいしかありませんでした(編集部注:ガートナージャパン データクエスト部門の調査では2002年のNECの日本国内での出荷台数は約780万台でシェアは1位)。今年発売したN8/N800というカメラ付きモデルの投入でやっと年間100万台くらいになりそうです。

 中国でもキャリア向けのビジネスはできないかと中国キャリア最大手のChina Mobile(中国移動)に日本のiモードのビジネスモデルを説明しました。大画面にネット接続とカメラが付いた携帯を出せばトラフィック収入も増えるという話をしたら買い切りに興味を示してくれたのですが、あまり台数は出ませんでした。GSM方式の携帯市場で7割のシェアを持っているので自分たちでリスクを取る気にはならなかったのでしょう。それでもChina Unicom(中国聯合通信)が買い切りモデルで自分たちの販路で売ったらシェアが伸びたという話もあるので、今後は買い切りが増えるかもしれません。

---中国市場と日本市場の一番の違いは何ですか。

 まず、機種数や1機種あたりの出荷台数が全然違うので、ビジネスプランが成立するように開発の方針を全く変えなくてはなりません。

 中国の携帯電話市場は年間6000万台と言われています。1000万台がPHSで、GSM方式の携帯が約5000万台です。2003年に発売されるGSM携帯は約400機種と見られているので平均すると1機種あたり12〜13万台が販売されている計算になります。

 日本の場合、1機種で100〜400万台くらい売るので、開発費に50億円かけても、1台あたり数千円の負担で済みます。しかし、中国市場ではこのモデルは成立しません。1機種あたりの販売台数が少ないので、1年間に十数機種を開発し、全部で数百万台行けるかどうかという計算です。実際、NECでは来年3月の年度末までに7機種、4月から12月までで更に十数機種の発売を予定しています。

 日本では次の機種が出るまでに6カ月あるのでその間に如何に非連続なバリューを付けるかということが重要でした。中国では1カ月に1機種以上出していく計算になるので、1台あたりの開発費を下げる必要ありますし、バリューの付け方も変わってきます。全体のロードマップを描き、流用性と連続性を考えた技術開発が重要になってきます。昨日も開発会議で話したのですが、従来の考え方だと新機種にあれもこれもと新機能を詰め込もうとしてしまいます。でも、そのすぐ後に新しい機種が出るのだから1度に全部の機能を追加する必要はない。お金の観点とプランニングの視点が重要になってきます。

 中国では40社以上の端末メーカーが勝手にさまざまな商品を投入し、市場原理で需給が決まっていきます。日本ではキャリアもある程度「What to do」を提示してくれますが、中国ではメーカー自身が「What to do」を考えて商品を作って行かなくてはなりません。

---海外向け3G端末の商品開発は北京で行なうということですが。

 日本で開発したコア技術を中国で世界向けにアレンジしていくということです。中国のように厳しい市場環境で商品開発力を磨くことが世界市場での競争力につながります。

---開発体制はどう変わりますか。

 まず、開発に外部の力を借りるようになるというのが大きな違いです。日本では携帯電話端末の開発は全て内部でやっていましたが、中国ではデザインハウスなど外部のリソースを使っていきます。9月に発表しましたが北京にある大手デザインハウスのTechfaithグループと資本提携し、共同で携帯電話の設計会社を設立します。

 短い期間に多くの機種を出す開発モデルでは、開発コスト削減のために先ほど言った流用性と連続性が重要になります。具体的にはロードマップに沿ったモジュールの開発と再利用です。少品種大量生産の日本型モデルでは。開発コストの削減より製造原価を下げることの方が重要で、そのために1機種ごとに作り込みをしてきましたが、多品種少量生産の中国では逆になります。基本となるモジュールをNECが作り、デザインハウスが他から買ってきたモジュールと合わせて自分でアプリケーションを書いて効率よく作ります。

 多品種少量生産の体制を素早く立ち上げるにはデザインハウスの活用が重要になるわけです。昨年からデザインハウスを探していたのですが、セイコーエプソンさんの紹介でTechfaithを見つけました。NECがエプソンさんから買っているアプリケーションソフトと同じものをTechfaithが購入していたんです。

 中国ビジネスはスピードが重要ですから、ベンチマークもそこそこにTechfaithとの提携を決めました。日本だとしっかり調査してリスクを減らすことが重要ですが、中国では時間的なロスが損失につながります。100点満点で60点なら前に進むという精神でどんどんものごとを決めています。

---具体的な戦略について教えて下さい。

 2004年は200万〜300万台の販売を見込んでいます。それだけ売ると台数ベースの市場シェアで5%前後、第3グループに入れます。中国市場では第1グループがモトローラとノキアでそれぞれ約20%のシェアを持っています。第2グループがサムスン、TCL、Bird(波導)で、それぞれ約7%のシェアです。第3グループはシーメンスとアモイソニックでそれぞれ約5%のシェアになります。2005年には3Gが立ち上がると思うので、NECとしてはそこで一気に500万台を売って、第1グループと第2グループの間に入ることを狙っています。3GはFOMAの実績があるNECにとってチャンスですが、そのチャンスを生かす足場として2004年にそれなりの台数を売っておく必要があるのです。

---中国での販売を増やすには何が重要ですか。

 中国市場はブランドが大事です。中国ではこれで社会主義国なのかと思うくらい給与格差がはっきりしていて、上下で10倍以上の開きがあります。高い給料をもらっている人はそのステイタスを示すために高いものを好んで買います。経済発展が進んでいる杭州で聞いた話では、同じ商品を安く売っている店と高く売っている店とがあると、安い方には何か問題があるに違いないということで、高い方で買う人が大勢いるということです。NECが販売する携帯のプライスゾーンは携帯市場の上位10%、500万台程度を狙った高額所得者向けのものです。このセグメントの人が何を求めているかライフスタイルや好みを具体的に分析していくことが重要です。

 また中国のように商品点数の多い市場では、各商品のミッションをはっきりさせながら全体のポートフォリオで戦略を考える必要があります。全ての商品の収支がプラスになるなんてことはあり得ません。例えば、ハイエンドとローエンドの商品は売れる台数が少なかったり1台あたりの利幅が薄かったりするので儲かりません。それでも、NECの技術力、デザイン力を示すという意味でハイエンドの商品は必要ですし、店頭で多くの棚を取って露出を増やすために機能を落としてデザインバリエーションを増やすという作戦も必要です。

---NECとしての売りは何になりますか。

 まず、中国が日本の携帯メーカーに期待しているのはデザインと品質です。中国の人は派手なものを好むという先入観がありますが、高額商品を購入するような外資系のエリートなどはスマートなデザインを好みます。「宝石の付いた携帯なんてナンセンスだ」と彼らは言いますよ。また、日本の品質の良さは海外のスタンダードから見ると過剰品質だという考え方もありますが、私はそうは思いません。日本と同じ品質の商品を出すこと自体がコアコンピタンスになり得ると考えています。適正価格-適正品質という考え方では勝てません。

 中国市場の今後については2つの方向性があります。1つは製品のトレンドが高機能な方に向かっていくということ。そこでは液晶とカメラが重要になると思います。強いのはシャープとサムスンです。シャープは直接中国に入っていませんがモトローラと中国の通信設備大手の大唐電信にOEM提供しています。モトローラ、ノキアは低コスト大量生産で成長してきましたから苦しくなるでしょう。もう1つの方向性は3Gですが、ここではモトローラとノキアが有利です。両方を踏まえて考えると、コンテンツが重要になるので、その価値を分かっているシャープとサムスンはやはり良いところにいると思います。

 では、NECはどうするのかというと、3Gの実績とキャリア向けのインフラを構築してきたトータルソリューションで勝負するということになります。3Gでは端末とキャリアの間でクライアント-サーバという側面が強くなります。中国ではキャリアとの通信テストに合格すれば携帯端末を販売できますが、3Gになると通信テストには合格してもその上で動かすアプリケーションが上手く動かないというケースが出てくるはずです。このレイヤーでの実装の技術力はNECに有利です。

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